鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

北帰行

2008-05-12 01:48:41 | 水鳥(カモ・海鳥以外)
Photo
All Photos by Chishima,J.
編隊を組んで飛翔するマガン 2008年5月 北海道十勝郡浦幌町)


 5月1日、海岸近くでの用事に託け、少しだけ早く家を出た。そろそろ渡りのシギ・チドリが舞い降りているのではないかとの目論見と共に。午前8時、晴れ渡って暑くなりそうな内陸部とは異なり、靄が掛かって涼しそうな海岸に到達せんとした時、やや高空に無数の豆粒がV字型の編隊を作って飛んでいるのを認めた。「マガンだっ!」。慌てて路傍に車を停め、飛び出す。「カハン、カハハン」。数多の甲高い声が、唖然として立ち尽くす私の耳元に降り注ぐ。「元気でな。9月にまた会おうな。」。届くはずもないエールを送りつつ目頭を熱くする男を尻目に、300羽強の編隊は一路東の空に溶けていった。

一路東へ!(マガン
2008年5月 北海道十勝郡浦幌町
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 結局その後一時間ほどの間に、周辺では数十から数百のマガンの群れが幾つも幾つも、遠く近く、また低く高く、V字や鍵型の編隊を組みながら、東を目指して飛び去って行った。4月から5月という暦の変わり目、数日ぶりの好天、程好く強い南寄りの風…、そうした要素が丁度、ガンたちに都合良く重なったのだろう。2ヶ月近くに渡って中継地の十勝平野に滞在したマガンは、この朝概ね去ったように感じた。


高空を飛ぶマガンの群れ
2008年5月 北海道十勝郡浦幌町
数十年前まで子供達に「鍵になれ、竿になれ」と謳われた雁行も、今では限られた場所でしか見られなくなってしまった。
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 4月下旬の晴れた日に、縁あって知床半島の沖で船に乗った時、海上を飛翔する本種の群れを二つ見かけた。いずれも40~60羽程の規模で、一つは高空をV字に、もう一つは海上すれすれを一列になって北東に向かっていた。朝早く十勝を飛び立ったマガンも、上手いこと風に乗って早々と知床や根室の先まで達せば、そこから海上に出て一気にオホーツク海や千島列島を北上し、遥かなる極北の繁殖地を目指すのだろうか。そんな身震いするような想像を搔き立てられた朝だった。


海上を渡るマガン
2008年4月 北海道知床半島羅臼沖
小さいが、画面の中央を一列になって飛んでゆく。背後は国後島。
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マガン
2007年4月 北海道広尾郡大樹町
全国的な個体数の回復と同期して、十勝地方でも渡来数は大幅に増加した(「増えたマガン」の記事参照)。
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 ガンたちの北帰行を見送った後、ノビタキの爽やかな囀りが心地良い海岸で、遅い朝の光に射られた3羽のチュウシャクシギに出会う。


チュウシャクシギ
2008年5月 北海道中川郡豊頃町
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(2008年5月10日   千嶋 淳)


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
北帰行ですか、向こうに国後島が見えるのはすごい... (おいどん)
2008-05-13 01:50:41
北帰行ですか、向こうに国後島が見えるのはすごいですね。
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羅臼や根室から見ると、国後島のあまりの近さに驚... (ちしま)
2008-05-13 20:54:43
羅臼や根室から見ると、国後島のあまりの近さに驚かされますよ。
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こんにちは。はじめまして。 (夢太郎)
2008-05-23 08:59:24
こんにちは。はじめまして。
「ミユビシギの種類」画像から入り込みました。十勝地内では、今頃が目頭を熱くする時期だったんですね。わたしのところでは(石川県河北潟)今年マガンは40羽、ヒシクイは5羽確認しました。2月20日以降は確認がとれず、北へ移動したのだと涙しました。コハクチョウは300羽程がこの地で越冬します。こちらは2月29日に2羽確認を最後に北へ全員移動したのだと思います。これまた一人思いっきり泣きました^^;泣ける気持ちが良くわかり、コメントさせて頂きました。今後とも、宜しくです。
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夢太郎さん、はじめまして。コメントと石川県の情... (ちしま)
2008-05-26 14:08:31
夢太郎さん、はじめまして。コメントと石川県の情報をありがとうございました。こちらでは春のガン類は、3月上旬(早い年では2月下旬)から飛来します。ちょうどそちらでいなくなる時期ですね。そして、沼や農耕地での採餌で栄養を付け、4月中旬以降続々と出発し、5月頭に最後の群れが旅立ちます。帰りゆくガンやハクチョウを見ながら涙する気持ちを共有できる方がいることを、嬉しく思います。今後ともよろしくお願いします。
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