鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

十勝のカイツブリ類(前半)

2011-05-09 23:20:02 | 水鳥(カモ・海鳥以外)
Photo
All Photos by Chishima,J.
ハジロカイツブリの冬羽 2010年10月 北海道十勝郡浦幌町)


日本野鳥の会十勝支部報「十勝野鳥だより174号」(2011年4月発行)より転載 一部を加筆、修正、写真を追加)


①カイツブリ
 ユーラシア大陸とアフリカ大陸の温帯、熱帯域に広く分布する種で、日本でも北海道から沖縄まで全国に分布します。十勝では多くが夏鳥として4月上旬に渡来して、十勝川中・下流沿いや海岸部の湖沼、流れの緩やかな河川等で見られます。渡来当初は漁港や海上でも見られます。全国的には最も普通のカイツブリ類ですが、十勝ではあまり多くありません。これは、一つには道東、道北が日本周辺の本種の分布の北・東限に当たり、元から数が多くないことによるものと思われます。道東でも東へ向かうに連れて少なくなり、根室管内で現在知られている繁殖地は一ヶ所のみです。さらに、帯広周辺等内陸部では河川の改修や埋立てによって、本種が生息できる池沼や止水域が減少していることが予想されます。ただ、これについては昔の生息状況が記録に残っていない(と思われる)ため、詳細は不明です。
 アカエリカイツブリのような派手な求愛行動こそないものの、繁殖期には「キリリリリ…」と鋭い声でよく鳴き、それによって存在に気付くことも少なくありません。夜間にも鳴きます。7~9月には1~数羽のヒナを連れた家族とも出会います。アカエリカイツブリもそうなのですが、4月に氷が解けてすぐ沼に入って来るものの、ヒナが出て来るのはそれよりずっと後、特に本種は9月頃になってヒナを見ることが多いです。早い時期には卵、ヒナが寒さや洪水で死んでしまうのか、それとも夏の終わりから秋にかけての方が餌条件が良好で、それに合わせて繁殖しているのかはわかりませんが、興味深い現象です。
 9~10月には主に湖沼で小群を形成し、10羽以上になることもあるので、一番目立ちます。沼が本格的に凍るより少し早く、10月下旬から11月上旬までに渡去しますが、数~10羽程度が帯広川河口付近で、カモ類とともに越冬します。


カイツブリ(夏羽)
2007年8月 北海道中川郡豊頃町
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カイツブリ(冬羽)
2010年12月 北海道中川郡幕別町
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②ハジロカイツブリ
 ユーラシア大陸の西部と東部、アフリカ、南北アメリカ等に飛び地的に分布します。日本へは冬鳥として、主に九州以北に渡来します。十勝では大部分が秋に旅鳥として通過し、それ以外の時期は少ないか稀です。渡来期は9月上旬と早く、同中・下旬にかけて数を増します。この時期には海岸近くや河川下流部沿いの湖沼、河川で観察されることが多く、育素多沼や幌岡大沼等海岸から比較的離れた水域や稀に仙美里ダムや阿寒湖等、山間部の湖沼にも現れます。たいてい1~数羽ですが、大面積の湖沼では数十羽になることもあります(例:2004年10月30日 豊頃町湧洞沼50羽前後)。結氷前の11月下旬までに湖沼を去り、多くは南へ渡去するものと思われます。
 厳冬期は波の静かな海上や漁港で見られますが、観察頻度はミミカイツブリやアカエリカイツブリよりずっと低くなります。ただし、海上では10~30羽程度の密集した小群になることがあります(例:2008年2月17日 大樹町晩成海上25羽以上)。3月頃まで時折海上で観察されますが、それ以降あまり見られなくなり、5月に夏羽が観察されることはあるものの、春の渡りは非常に不明瞭です。渡りコースが異なるか、降りることなく通過してしまうのでしょう。
 帯広畜産大学には、2002年8月31日に足寄町で拾得された本種の標本がありますが、メスの幼鳥ということで、おそらく秋の渡りの走りなのでしょう。道東での確実な越夏記録は、ないようです。


ハジロカイツブリ(夏羽)
2008年9月 北海道中川郡豊頃町
ハジロ、ミミともに渡来初期や渡去期には夏羽を見ることがある。
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病気と思われるハジロカイツブリ・冬羽
2008年11月 北海道野付郡別海町
嘴や目の周囲に腫瘍らしきものがいくつも見える。原因はわからないが、海洋汚染など人為由来の可能性もあるだろう。
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③ミミカイツブリ
 ユーラシア大陸から北アメリカの亜寒帯で繁殖し、日本へは冬鳥として全国に飛来します。十勝でも冬鳥で、ハジロカイツブリより遅く、10月中・下旬に渡来します。渡来初期には湧洞沼等の海跡湖で、ハジロカイツブリとともに観察されますが数はずっと少なく、1~数羽、多くても10羽程度です。ハジロカイツブリとは異なり、海岸から離れた湖沼ではまず見られません。11月下旬の結氷までに湖沼を去り、12月以降は波の静かな海上や漁港で観察されます。文献によっては本種を、「稀な冬鳥」や「渡来数は少ない」としていますが、冬の道東沿岸ではアカエリカイツブリと並んで普通のカイツブリ類であり、数も決して少なくありません。体が小さいので波があると見えづらいこと、まとまった群れは作らず、1~数羽が広い範囲に分散していること等から少ない鳥とされがちですが、波の穏やかな日に海上を望遠鏡で眺めてゆくと数十羽が確認されることがあります(例:2009年1月3日 豊頃町トイトッキ海上30羽以上)。根室の野付半島では、200羽以上の大群の観察記録もあります。
 春の渡りはハジロカイツブリ同様不明瞭ですが、それよりはよく観察されます。4月以降は夏羽の個体も観察され、稀に内陸部へも飛来します(2000年5月 帯広市十勝川など)。5月中・下旬までに渡去しますが、2008年7月20日には豊頃町大津の沼で磨滅した夏羽1羽が観察されました。付近で越夏したのか、繁殖失敗等できわめて早く渡来したのかわかりませんが、非常に稀な記録です。


ミミカイツブリ(冬羽)
2007年3月 北海道幌泉郡えりも町
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(2011年4月13日   千嶋 淳)



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