goo blog サービス終了のお知らせ 

鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイドを行っていた千嶋淳(2018年没)の記録

ある渡り

2010-07-02 19:15:50 | 海鳥
1
All Photos by Chishima,J.
シロエリオオハムの夏羽 2010年5月 北海道苫小牧沖)


 鳥の渡りは古来より人類を惹きつけてきたが、とりわけ群れを作っての渡りはその壮観さゆえ、普段から鳥を見ている人にとっても魅力的なものである。北海道でもマガンが集結する宮島沼をはじめ道央のいくつかの湖沼や、タカ類が群れを成して渡る室蘭の測量山は、渡りの時期ともなると多くのバードウオッチャーで賑わう。南半球から赤道を越えて北の海に飛来するハシボソミズナギドリの大群も、近年根室海峡などで有名になってきた。しかし、一般の鳥見人にはあまり知られていない、見応えのある渡りもまだまだ存在する。その一つにアビ類の、特に春の渡りがある。
 春先、本州以南や北海道の海で越冬していたアビ類は、極北の繁殖地を目指して海上を北上して行くのが道内各地の海上で観察される。大抵は数~10羽程度であるが、時にそれが切れ目なく続いたり、集まって大きな群れになることがある。この5月の下旬、道東は浜中町の海岸で久しぶりに、というか規模としてはこれまで見た中で最大級の渡りを体験した。
 朝8時、海上を一望できる地点に到着するといきなり、30羽ほどのアビ類の群れが岸近くを西から東へ飛んで行くのが目に飛び込んできた。双眼鏡を当てると、大部分が美しい夏羽に装いを変えたシロエリオオハムである。それを見送ると、同じような、数~30羽程度の群れが次から次へと、やはり西から東へまっすぐ飛んで行く。最初は律義に数を記録していたが、途中からそれをしていると他の鳥が記録できないことに気が付き、止めた。なので正確な数はわからないが、この状態は夕方まで続き、当日通過したアビ類は4000羽は優に下らないと思われた。大部分は夏羽のシロエリオオハムで、少数のアビ、オオハム、ハシジロアビも観察された。アビ類は翼の拍動が悠然としているので、飛ぶ速度も緩慢と思いがちだが、この日海上を同方向へ飛翔するシノリガモなどの海ガモ類を追い抜く姿を何度も見た。繁殖地へまっしぐらに急ぐひたむきさが、陸地で見ているこちらにも伝わって来る光景だった。


続々渡る群れ(シロエリオオハム
2010年5月 北海道厚岸郡浜中町
夕方まで数~30羽規模の群れが渡り続けた。翌日も数はぐっと減ったが、渡りは見られた。
2


頭上を通過(シロエリオオハム・夏羽)
2010年5月 北海道厚岸郡浜中町
大部分が数百m~1km程度沖を通過するが、稀にこのようにすぐ上を飛ぶこともある。
3


 これほどの規模ではないが、やはり群れが海上を西から東へ続々と飛んで行くのには、釧路から根室にかけての道東太平洋の岬や無人島で何度も出会っている。時期は4月後半から6月にかけてで、特に5月が多い。5月後半や6月になると同じシロエリオオハムの群れでも一見冬羽のような褐色の個体の占める割合が増えてくる。これらは若鳥で、繁殖地まで急ぐ必要もなく、また道東や南千島の近海でも相当数が越夏している。
 5月の海上を繁殖地へと急ぐアビ類(それもかなりの割合が夏羽)の姿は、規模や種構成こそ違えど、おそらく全道各地の海岸から観察できるだろう。その時期はミズナギドリ類、ヒレアシシギ類、トウゾクカモメ類、アジサシ類など多くの海鳥の移動期でもあり、運が良ければそれらとも出会えるかもしれない。無論、決して目の前を通過して行くというわけではないので望遠鏡とそれなりの識別力は必要であるが、海岸や岬に腰を下ろして沖合を通過して行く海鳥を見送る時間もまた楽しいものである。くわえて、各地での観察記録が蓄積されてくれば、謎の多い海上の鳥類相について、少なくとも沿岸部のそれの解明にも貢献できるはずだ。


アビ(若鳥?)の飛翔
2010年5月 北海道厚岸郡浜中町
写真が悪いが、首を下げて飛ぶことが多いのはアビの特徴。
4


オオハム(夏羽)の飛翔
2010年5月 北海道紋別市
冒頭のシロエリオオハムに似るが、脇後方の白いパッチが上方に食い込む、嘴や頭部がより大型である等の点が異なる。
5


 アビ類の中には海上ではなく、陸地上を渡っているものもあるようで、渡りの時期には山中のダム湖で観察されたり、内陸部の路上で保護されることがある。後者の大半は衰弱ではなく、黒光りする路面を水面と「勘違い」して着地してしまったものの、飛び立ちには助走が必要なため立往生してしまった、いわば不時着である。


内陸の路上に「不時着」して保護されたシロエリオオハム(夏羽)
1999年5月 北海道北広島市で保護
元気だったため、翌日大河の下流で放鳥された。
6


助走して飛び立つ(シロエリオオハム・夏羽)
2010年5月 北海道苫小牧沖
アビは助走なしで飛び立てるというが、大抵は軽く助走するようだ。
7


 秋の渡りは10月くらいからで、道東太平洋ではオオハム類は10月末から11月はじめ、アビは11月下旬にピークがある。春とは逆方向に飛んで行く個体や小群も見られるが、この時期には先を急がないのか、海面で群れを作っていることが多い。オオハム類は数十~100羽以上の大きな群れ、アビはそれよりもルーズな群れを広範囲に渡って形成する。特にオオハム類は、この時期には夏羽を残す個体も多く、見応えがある。ただし、春ほどどこでも見られるわけでなく、一時に見られる数もずっと少ない。


アビ(夏羽)
2009年5月 北海道十勝郡浦幌町
8


ハシジロアビ(夏羽)の飛翔
2010年4月 北海道根室市
ハシグロアビを除くアビ類4種の中では最も見づらい種だろう。渡りの時期にはより高い所を飛んでいることが多いように感じる。他種に混じって飛んでいることもある。
9


(道東のアビ類については「道東太平洋岸におけるアビ類の分布と季節性」の記事も参照)


(2010年7月2日   千嶋 淳)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。