tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

「適正賃金」(第3回)、目標達成計画が無ければ

2024年03月28日 15時52分05秒 | 経済

企業の場合ですと3年計画とか5年計画で、成長目標が決まれば、その達成に必要な経営数値の計画を立てます。売上高から始まって、計画各年次のBS、PL、利益処分などの計画値を積み上げ、その中で総額人件費の枠が計画され、計画従業員数で割ったものが平均賃金になります。

企業でも付加価値分析の手法で総額人件費の策定が出来ますが、国民経済計算の場合は、付加価値であるGDPが基本の計画値ですから、付加価値の構成要素を積み上げることで、例えば「政府経済見通し」は出来ています。

ですから、政府が「日本株式会社」の経営者としますと、経営計画の数値は政府が毎年発表している「政府経済見通し」のような形になるわけです。

ただ、これは単なる「見通し」で、多くの経済研究機関が出す「来年度経済見通し」の1つという事になっています。

しかし時に、2020年度の「政府経済見通し」のように、経済成長率が民間より1段高く、希望する「目標数値」のような場合もあったりします。

今年度の「政府経済見通し」実質成長率1.3%についてはどうでしょうか。昨年度の成長率実績見込みは1.6%(同)でした。今年度は落ち込むというのは、目標とか計画ではなく単なる予測のようですね。

こうした一貫性のない事を政府自体がやっているのでは、前回書きましたように、目標が決まらなければ適正賃金などは決めようがないのです。

現実の社会では日本株式会社の経営者の意識がその程度なので、民間がそれぞれに考えてやるしかないのでしょう。今年は労使が春闘で少し余計に賃金を上げようと協力していますが、これはGDPの最大の構成要素である消費支出を増やし、GDPの底上げをしようという民間にも出来る目的意識を持った行動でしょう。

勿論、個々の企業がGDPの目標値を決めることはできませんが、企業がそろって高めの目標に向かって努力すれば、企業の創出する付加価値の総合計であるGDPは増加、つまり経済成長達成となるわけです。個別企業では数値目標があっても国全体としては「今年より高い成長率」というアナログ目標です。したがって、経団連、連合もアナログです。

ところで、今年度の「政府経済見通し」では、民間消費支出が名目3.5%実質1.2%増え、民間企業設備が名目4.7%実質3.3%増えGDP実質成長1.3%の大部分を支えるという「投資に支えられた経済成長ですが、多分現実には賃上げの積極化で民間消費支出が成長を引っ張って、もう少し高い成長率を達成しようというのが民間労使の春闘の目標でしょう。

国民もそうした日本経済の新しい成長路線を期待しているのでしょうが、日本株式会社の経営者(政府)は「去年より成長率は落ちるが仕方ない」という見方です。

政府見通しの中の「雇用者報酬」は、名目で前年度は3.1%伸びましたが今年度は2.7%にとどまるという見通しです。これでは消費の伸びは期待できません。

国民の望む目標も計画もなく、責任のない見通しの数字が並んでいる様では、国民は元気が出ないでしょう。社員に元気のない会社は、業績にも元気がないでしょう。

企業では経営目標があり、経営計画があって初めて適正賃金が算出されます。今の日本政府には、国民に訴える目標もなく計画もありません。従がって、国としての適正賃金は算定不能という事になるようです。

次回は、若し、国としての目標が明確になれば、どんなふうに計画が作られるだろうか、そして、そこから適正賃金の決定が可能になるという考え方の道筋だけでも整理しておきたいと思っています。