今春闘も集中回答日が過ぎて、連合から回答速報も発表になり、春闘歴史上稀有な様相が現実になるプロセスが見えてきたようです。
もともと経営側が賃上げの必要に気付き、経団連が、連合の意識を上回るような賃上げへの意欲を示していたわけで、労使の賃金交渉の一般的な形としてはあり得ないような雰囲気の中で始まった異常な春闘です。
歴史を辿れば、資本主義経済の中で、その社会的な発展とともに労働組合が生まれ、労使交渉が制度化され、賃金や雇用をめぐる労使交渉が一般的になったのは、利益を上げ、より多くの資本蓄積をしようとする経営側と、より高い賃金水準を実現しようという労働側との対立を「交渉」、Collective Bargainingという形で止揚しようという発想から生まれたものでしょう。
例えば、アメリカでは(今でもあるかどうか知りませんが)「労使関係は敵対的でなければならない」という法律があったはずです。
ですから、諸外国から見れば、あり得ないような賃金交渉が、日本では、今年、ごく自然に行われているという事なのです。
連合の回答速報№8の主要企業の交渉結果は殆どが満額回答(要求以上もちらほら)で、初回集計結果は5.28%です。
経営側は、支払えるのだから当然の回答、という姿勢のようですし、連合も「もっと要求すればよかった」ではなく、素直に交渉の結果に満足を感じているようです。
日本の場合諸外国と違って、賃金交渉は基本的に企業単位で行われます。諸外国の多くのように、産業別とか職種別の組合組織と産業別経営者団体あるいは代表企業が交渉するのではありません。
日本では、企業別に組織された労働組合が、その企業の経営者と交渉するのですから。「他者の従業員の分まで責任を持って」という意識は必要ありません。
企業労使は、自分の企業、「わが社」の経営状態については労使共に理解しています。その意味では満額回答は、労使の理解の一致という事でしょう。連合としてはそれはそのまま肯定できるのです。
こうした労使関係は、昔は「近代的労使関係ではない」などと、海外や日本でも学者などから「遅れている」と見られていましたが、石油危機への対応の鮮やかさなどから「日本的経営」、「日本的労使関係〕として世界から注目されたものです。
この対応の鮮やかさに恐れをなした主要国が、この日本の労使関係を逆手にとって、日本に円高を要請し、日本の労使が、真面目にその大幅の円高の克服に真面目に協力したのが日本の長期不況だったのでしょう。
この長期不況の呪縛が漸く解けた日本が、改めて新しい成長経済の道に復帰しようという最初の労使交渉が2024春闘という事ではないでしょうか。
今年は連合にとっては上手く行き過ぎかもしれませんが、来年以降も、本来の「日本的労使関係」を生かし、新しい成長路線に向けて誤りない賃金決定を労使で賢明に選択していく事を願うところです。