tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

難民問題へのアプローチ:1

2018年12月12日 23時38分47秒 | 国際政治
難民問題へのアプローチ:1
 この所、難民・移民の問題で世界中が大騒ぎです。ヨーロッパには地中海を命がけで渡ってくる難民、アメリカには中米から列をなしてアメリカで働きたい移民希望者が、政権の安定を脅かすまでに深刻になっています。

 難民・移民に対して寛容な姿勢を維持してきた国々で、今、難民・移民の受けりれに反対する人々が急速に力を持ってきているようです。
 理由はどうも「数」の問題のようです。

 難民・移民の問題は慈善事業に似ているように思えてなりません。
 ある程度までは、喜んで慈善事業に協力する人は少なくないと思いますが、その人の善意の範囲を超えて拠出額が要求されるようになると、「ちょっと待って。私にも私なりの生活があるのですよ」という事になります。

 国と家族は最大と最小の社会単位ですが、よく似ていて、どこに所属するかは生まれた時に決まっています。原則は勝手に移動できないことになっています。
 そして、通常は自分の家族を愛し、協力してより良い生活のために努力し、余裕があれば、気の毒なっ方のために慈善活動をしています。

 家庭も国も、よい家庭、よい国になるのは成員の心掛け次第です。時には天災や戦争の被害もありますが、成員の協力と努力で克服し、よい生活を目指します。そしてそれぞれに、目標やそこに行きつくための計画を持っています。

 慈善事業の要請がその目標や計画を壊してしまうと感じる所までが、慈善事業ㇸの協力の限度でしょう。
 この間まで難民・移民の受け入れに寛容だった、国が「もう御免だ」と言い出すのは、その限界を超え始めたという事でしょう。

 その際の理屈は多分こうでしょう。「自分たちは歳月をかけ、努力して国づくりをしてきた。今の生活はその成果だ。あなたたちも努力して自分たちの国づくりをするべきだ」「多少の事なら面倒を見るが、我々の生活を壊されるのは御免だ。」

 これは家族でも同じでしょう。居候が増えては家族の生活は成り立ちません。(注:日本の技能労働力の場合は働いてくれるのですからその点は問題ないのですが、仕事がなくなった時のことが確り考えられていないことが問題という事でしょう。)

 難民・移民のほうから言わせれば、「俺たちの国の惨状を見てくれ。内戦や、暴力の横行で、殺されかねない、命がけで逃げ出してきたのだから、何とかしてくれ。国内で解決しろと言われても、俺たちの力ではどうにもならない。」ということになるのでしょう。

 さて、これをどう裁く?という事になるのですが、家庭に置き換えてみたらどうでしょうか。
 家庭内暴力や、育児放棄の場合は、昔なら駆け込み寺でしょう。近所のお金持ちの家に駆けこんでも、多分厄介払いでしょう。
今は当然のことですが、駆け込む先は行政機関です。行政機関が家族の中に立ち入って、解決のために、家族の問題点を調べ、出来れば、家族内での解決を求め、どうにも不可能な場合には行政の責任で適切な処置をとる事になるでしょう。

国の場合に話を戻しますと、行政機関に相当するのは国連でしょう。そして確かに国連には「難民高等弁務官事務所」(UNHCR)があります。
しかし、今起きている問題は、とてもUNHCRの手におえる問題ではないようです。そして結局、難民・移民の流入する国の政治問題に転嫁されているという事でしょう。
 次回、もう少し先まで(私の勝手な考えで恐縮ですが)考えていってみたいと思います。

産業革新投資機構の混乱に見る「官民ファンドの問題点」

2018年12月11日 18時33分52秒 | 経営
産業革新投資機構の混乱に見る「官民ファンドの問題点」
 今日、世耕経済産業大臣が産業革新投資機構への来年度予算案で求めていた1600億円を取り下げる意向を示したことで、マスコミを賑わせた今回の「官民ファンド」問題については当面終息という事になるようです。

 官民ファンドについては十分な情報が無く良く解らないのですが、会計検査院によれば(30年4月)、「16法人のうち、把握可能な14法人については殆どが赤字で、多くは純資産が資本金等を下回る」などと書かれています。

 「官民」と言っても殆どの資金は「官」から出されていうようで、運営は「民」でも、スタッフは官OBなど多いようです。

 今回問題になった産業革新投資機構(JIC)は、アベノミクスの第3の矢の目玉でしょうか、日本における先端技術開発の積極化に貢献する企業に出資して応援し、その企業の発展で多額のリターンを得、資金量を増やし、収益サイクルの好循環で、さらなる日本経済の発展を実現しようという、バラ色の夢を乗せて発足という事だったのでしょう。

 カネは「官」、知恵は「民」という理想の組み合わせでという構想だったのでしょうが、スタート時点で挫折してしまいました。

 典型的には、先端技術のベンチャー企業に出資し、その企業が発展拡大して上場すれば、巨大な投資収益が期待できるという形でしょうが、それだけではなく、所謂マネーゲームでキャピタルゲインも稼ごうという狙いもあったようです。

 というわけで、海外の投資銀行の経験などで鍛え上げた金融のプロを経営陣にという人員配置だったのでしょう。
 国際的にはそういう人たちはメーカー大企業なのの経営者とは比較にならない高額な報酬でスカウトされるのですが、資金を出す財務省は、公務員トップやサラリーマン社長並みの報酬でなければと考えていたようです。

 所轄の経産省のほうは、OBに村上ファンドの経営者などもいるわけで、それなりの高い報酬という意識もあり、固定給は安くても、成功報酬で日本に400人程度しか居ない年収1億円以上も可能といった数字を提示していたそうです。

 スカウトされたトップの方は、やはり日本人ですね。たとえ報酬が1円でも「やりましょう」という事だったとのことです。
 それに甘えたのかどうか知りませんが、財務省は高級公務員なみでないとを押し通したようです。

 そんなことで、JICの経営陣への就任をOKした民間出身の方々は、政府の中で余りにも認識が違うような仕事は出来かねるという事になったのでしょう。総退陣という事になって、結果は出発点で挫折という事になったのでしょう。

 問題はいろいろあるでしょうが、カネは国民からの税金や借金(財投含む)で出し、経営(運用)は 民間のプロの愛国心や犠牲的精神に頼ろうとした政府の意識や感覚のズレ、また政府内でのそれらのズレの大きさ、さらには、そうしてカネを当てにしないと財政がもたないという認識をを持っている「(株)日本国」のトップ経営者たちの思惑のすれ違い、空回りがこんな騒動を生んだのでしょう。何か情けないですね。

四半期GDP横ばいに:7~9月期、第2次速報

2018年12月10日 17時57分37秒 | 経済
四半期GDP横ばいに:7~9月期、第2次速報
 今日、今年7~9月期の第2次速報が内閣府から発表になり、第1次速報が下方修正されて、懸念されているように日本経済は足踏みという結果になったようです

 今年に入っての日本経済は、ほぼ順調な経済成長のペースで、昨年よりは減速したものの、第2四半期までは、前年比1%台の実質成長を記録してきました。
 
 今日発表の第2次速報値では、第1次速報のマイナス0.6%から、マイナス2.5%への大幅修正というのがマスコミの見出しですが、マスコミは通常、数字が激しく動く対前期比の数値の年率換算を使うので、一寸吃驚するような下落になります。

 とはいえ、この夏に入っての日本経済の減速は確かなようで、このブログではいつも見て来ています「対前年同期比」の数値でも、今年の7~9月期は昨年の7~9月期に比し、実質成長率0.0%、つまりゼロ成長という結果になっています。
 
 改めて、昨年から今年にかけてのGDPの四半期別対前年同期比伸び率を並べてみますた2017年7~9月期2.1%、10~12月期2.4%、2018年1~3月期1.2%、4~6月期1.4%、これで持ち直すかと思われましたが、7~9月に至り0.0%となってしまいました。

 原因を見ますと。国内需要は0.3%のプラスですが、輸入が輸出を上回った分がマイナス0.3%分あり、GDPはプラマイゼロという事で、国内需要は「0.3%のプラス」です。
 更に、国内需要の中身を見ますと「民間需要は0.4%の伸び」で、公的需要(マイナス0.3)がマイナス0.1%分に相当して内需0.3%です

 という意味では、民間需要はプラス0.4%で、設備投資のおちこみ(前期の6.7%の伸びが今期は1.2%)が大きく響いたという事ですが、一方で、気になる家計最終消費を見ますと前期の0.0%(対前年同期比)から0.6%(同)に上昇しています。

 このブログでは毎月、勤労者所帯の平均消費性向を見て来ていますが、何か回復の兆しがあるようにも見えます。設備投資の熱気が弱まっても、個人消費が上向けば、小幅でも正常な均衡安定成長の可能性はあるようにも思われます。

 米中関係がこんな状態で、国際経済環境は当てにならないので、これからの成長は内需中心でなければという事でしょうが、消費税問題もあり、難しいところです。
 内需拡大は借金漬けの政府には出来ませんから、民間の我々、それぞれの家計が考えなければならないところです。
 さて今後はどんな展開になるのでしょうか。

改正入管法成立、責任は企業・自治体に

2018年12月08日 13時13分09秒 | 労働
改正入管法成立、責任は企業・自治体に
 相変わらずの数を頼んでの採決の強行ですが、昨夜のうちに改正入管法は成立しました。
 政府与党は、十分の時間をかけて、慎重に審議し、責任をもって成立させたという事ですから、責任をきちんと果たしたという事でしょう。

 特定技能1号、2号の要件と、受け入れ人数は決まったわけですから、細かいことはともあれ、大枠は設定されたという事になります。
 もともと技能労働力が不足して大変だというのは主として企業からの要望です。受け入れ業種も決まったようですから、歓迎する企業も多いと思います。

 企業は歓迎ですが、受け入れる地方自治体は大変でしょう。2号の場合は家族の帯同も可能ですから、種々のコストがかかりそうですし、何より日本で居心地よく暮らしてもらえるような社会的、文化的な環境整備も必要でしょう。

 企業について考えれば、人手不足への対応の面で大歓迎でしょうが、この人手不足がいつまで続くかについての確りした見通しがあってのこととは思われません。
 政府は企業のためと思って受け入れるわけですから、企業の責任は最も重いはずです。

 残念なことですが、技能実習制度での受け入れの中で問題のある企業がかなりあることも(大多数は感謝されるような受け入れと思いますが)明らかになりました。
 今度は明確に技能労働者としての受け入れですから、当然日本人と同じ内国民待遇でなければならず、安価な使い捨て労働力などというわけにはいきません。

 少したって、「人手不足は解消しました、どうぞお帰り下さい」では済まないことも多いでしょう。
 また、外国人が来てくれるのなら、当面、省力化努力は不要、などという事になってはならなないでしょう。
 受け入れ技能者と日本企業の真のwin=winの関係は企業の現場でしか作れません。企業は日本企業の素晴らしさを国際的にいっそう広める役割を担うのです。

 今後、政府が、企業や地方自治体の為すべき努力に対してどんな対応をしてくれるかは、現状では判然としませんが、政府はやるべきことはやったと言っているのですから、これからフォロワーとして現場で善きフォローアップをし、法改正を成功させるために、企業、地方自治体の役割は、ますます重要になるのではないでしょうか。

 新入管法を生かすも殺すも、現場の対応にかかっているという事になってくるように思われるところです。
 特に、外国人労働力受け入れを政府に要望してきた企業、業界団体、さらには経済界全体、それを組織化している経済3団体などの責任は重いでしょう。

消費者物価:何となく値上げの動きが

2018年12月07日 16時06分07秒 | 経済
消費者物価:何となく値上げの動きが
 安倍内閣や日本銀行が物価が上がらないと都合が悪いのでしょうか、相変わらず2%インフレ目標を降ろしません。そして現実に消費者・生活者の世界では、気付かないようなものも含めて物価はじりじり上がっているようです。

 今年に入って値上げの動きがみられたものは身近なところでいろいろあります。日本人の主食、米飯の加工品のパックご飯をはじめ、食卓に欠かせない塩、醤油、カツオ製品、それにお豆腐や納豆、いずれも加工食品です。スナックやお菓子の類も軒並み値上げの動きです、冷凍うどん・お好み焼き、ポテトチップ、アイス、ヨーグルト、チョコレート菓子などなど、値下げ競争もあった牛丼などにも値上げの動きが見られます。 

 中身の減量で、実質値上げにちょっと気付かないものもありますが、これも消費者物価統計には反映されているはずです。
 最新時点の10月の消費者物価の前年同月上昇率は1.4%で、10大費目では、異常気象で値上がりの生鮮食品が10.8%、エネルギー関連の水道・光熱が4.4%などがありますが、生鮮食品を除く食料(主に加工食品)も0.9%の値上がりです。

 長期不況の中で値上げを我慢してきた所も多いでしょう。海外原材料の値上がり、人手不足の深刻化もあり、消費者もある程度の値上げは仕方がないのかといった状況の中での動きという事でしょうか。

 生鮮食品はこの所の暖冬もあり、最近は値下がりしているものもあるようです。またエネルギー関連の光熱費、ガソリン代なども、原油安で下げに転じる可能性はありますが、日々の生活に直結する加工食品などの値上がりは統計上もコンスタントな動きとして見られるところです。

 ところで、今日、10月分の、毎月勤労統計の数字が厚労省から発表になりました。ちなみに賃金の方の動きはどうかとみてみました。
 事業所規模5人以上、パートも含む勤労者の産業計の数字を見ますと、対前年同月上昇率は、現金給与総額1.5% きまって支給する給与1.4%(内所定内1.3%、所定外1.9%)賞与など6.8%という事になっています。

 単純に物価と賃金を比較すれば、実質賃金は前年同月比僅か0.1%の上昇、マスコミ報道のように、そのせいで実質賃金は3か月連続で減少という事ですが、これは8月から異常気象続き、エネルギー価格も高騰という要因の消費者物価上昇の影響が大きく年末にかけては多少改善していくでしょう。
 
 しかしいずれにしてもまさにコンマ以下の数字の上下という事で、物価も賃金も限られた変化といった感じです。

 悪くはならない、ほんの少しずつ良くなっていくという状況でしょう。
 折しも世界経済は不安定極まりないといった状況です。少子高齢化の日本では、先行きの心配は更に厳しく、企業も家計も、不確かな将来に備えて、貯蓄に励むといったのが実態でしょう。

 この将来不安を放置して、物価だけ年2%上昇を目指したのでは、国民生活はたまりません。もう少し希望のある政策が出てこないものでしょうか。

「格差の拡大する社会」は「持続可能」ではない

2018年12月05日 15時07分06秒 | 社会
「格差の拡大する社会」は「持続可能」ではない
 ブエノスアイレス・サミットの首脳宣言のキーワード「持続可能性」について種々見て来ましたが、もう一つ、最近あちこちで問題になっている「格差問題」と「持続可能性」について考えてみたいと思います。

 これも結論から言ってしまえば、格差の拡大する社会や組織には「持続可能性」はないという事になりそうです。

 格差にもいろいろあって、国別格差から国内の所得格差、企業内の賃金格差まで多様です。昔は低開発国援助に先進国が熱心でしたが、今は世界トップクラスの先進国であるアメリカが自国の利益を守ることに汲々としている状態で、そこに貧しい国の人たちが列をなして流れ込もうとしているようです。 こうした国際関係は長続きしないでしょう。

 アメリカ自体の中でも上位5%の人たちが7割の富を持っていると言われる状況は問題で、いわゆるラストベルトの人たちとの格差拡大がトランプさんを登場させ、混乱を拡大させています。

国内格差の問題では、いま中国も苦しんでいます。政府は内陸部の開発など国内格差の縮小に力を注いでいるようですが、共産主義の国でも、13億の多様な人種や宗教の国民を抱え、地理的、地域的な問題も抱えていることを考えれば、対応は容易ではないでしょう。
共産党一党独裁だからこそ、格差の拡大を抑えられるというのが共産主義の理念でしょうが、そう簡単ではないようです。

嘗ては「一億総中流」で格差の少なかった日本でも、最近は格差拡大が進んでいるようで、保育、教育、老後生活まで、問題は多々です。
 政府は、同一労働同一賃金とか、消費税増税に伴う軽減税率だとか、格差縮小に力を入れているようですが、見当違いのことも多く、一層の格差社会化が懸念されています。

 企業内の問題では、日産のゴーン前会長が、カネの魔力に負けたのでしょうか、異常な報酬の格差を隠そうとしたのが発覚しました。

 もちろん人間の能力、意欲、そして努力。さらには運の良し悪しもありますから、個人も社会もある程度の格差は容認するのです。しかしそれには限度があるようで、国際関係やそれぞれの社会や属する組織の中の人間が認める限度を逸脱すると、国際関係も、社会の状態も不安定になり、人間関係も悪化して、安定した成長や発展が巧くいかなくなるというのが、共通した歴史の経験のようです。

 かつて 自由と平等の問題も論じましたが、その際指摘した「真理は中間にあり」といったバランスの限度を逸脱すると、そこに訪れるのは健全な前進、成長、発展へのブレーキ、あるいはその挫折でしょう。

 歴史的には、格差拡大は下克上や、革命をもたらしました。民主主義の世の中では政権交代なのかもしれませんが、やはり格差拡大は社会に混乱をもたらし、その「持続可能性」にとって深刻なマイナス要因のようです。

「持続可能性」のベースはバランスでは?

2018年12月04日 21時30分26秒 | 社会
「持続可能性」のベースはバランスでは?
 このブログの基本テーマは付加価値分析をベースにした経済・経営の問題です。しかし、ここ2回取り上げて来た「持続可能性」という問題を考えますと、社会における多くの現象には、共通して考えられる点が沢山あるような気がしてきます。

 そんな視点で「持続可能性」を確保するための必要条件、あるいは「持続可能性」を阻害する要因など考えてみますと、そこには「バランス」という視点、感覚、状態といった問題が大きく関係しているように思われます。

 人間の体は生物の中でも最も精緻なものでしょうが、健康診断でも正常値をはみ出す所が見付かると、正常値に戻すように指導されます。経営診断でも、経済政策でも全く同じで、重要な比率を時系列に比較して、異常値が出れば危険と判断されることになります。

 人間の体や企業経営や一国経済が正常に動いていれば、重要な比率は安定していてそのまま健全な「持続可能」な状態と判断されるのが一般的でしょう。

 アメリカの経常収支や貿易収支が万年赤字というのは経済のバランスが失われているからで、赤字補てんのために外国からカネを入れなければなりません。人間なら輸血ですが、先ずそれを金融工学を使ったマネーゲームでやろうとし、結果はリーマンショックでした。

 今回はトランプさんが保護貿易政策で対応しようとしていますが、製造業の体力が落ちているのを保護しても、却って製造業の体力を弱めてしまうでしょう。
 農業と、先端産業と、軍需産業が強くても、産業構造全体のバランスが取れていないのでしょう。これは対症療法(輸血や保護)では治りません。

 日本でもバランスの悪い点がいくつかあります。経済成長のペースが低いのに、国の借金だけが増えていくというバランスの悪さ、経済成長 (低いですが) しても、それより伸びない個人消費、その裏で増える個人貯蓄。これもバランスが悪いですね。
 こうしたバランス悪化の状態がいつまでも続けられるわけけはありませんから、これでは財政も経済成長も「持続可能性」がないという事になるのでしょう。

 これらの背後にはゼロ・マイナス金利という「お金の貸借関係のバランス」を無視した金融政策が長く続いていることがあるようです。
 そんなことがいつまでも続けられることはない、というのは「壊れたバランス」が持続可能性を阻害しているという事なのでしょう。
 ところで、千数百年前から「和を以て貴しとなす」といい、「和の国」である日本人は、「和=バランス」には独特のきめ細かい、まさに「バランス感覚」を持っているはずです。
 それを生かせば、政治や経済のバランスを壊している部分、言い換えれば「こんなことは長くは続けられませんよ」という「持続可能性」の判断が容易にできるのではないでしょうか。

 バランスを欠いた状態は、日本では昔から言われる「地震 雷 火事 親父」、今はそれに台風や集中豪雨を加えましょうか、そういったものへの緊急避難として已むを得ない場合もあります。
 しかしそれはあくまで「バランスを取り戻すため」の短期的な「非常時」への対応で、早く正常状態の「バランス回復」をして、「持続可能」な形を整えなければならないのです。

 世の中のいろいろな事を見るのに、日本人の研ぎ澄まされた「バランス感覚」を十分に活用することが、ますます必要な世の中になったようです。

本当の「持続可能性」とは何なのでしょう

2018年12月03日 15時33分10秒 | 国際経済
本当の「持続可能性」とは何なのでしょう
 昨日のブログで、今回のブエノスアイレスG20サミットで最も重視された言葉は「持続可能」だったと書きました。

 振り返ってみれば、人類は、持続可能でないものを持続可能だと思い違いをして、随分と失敗を繰り返してきたようです。
今、トランプさんは、赤字になったアメリカ経済を保護貿易政策で持続的成長を取り戻せると思っているのかもしれませんが、これは思い違いで、保護政策はアメリカ経済衰退への道でしょう。

 また今日本では、ゼロ金利が持続的成長への政策だということになっているようですが、これも思い違いでしょう。
また、財政政策でも、相変わらず国債残高を増やし続けていますが、財政テコ入れが持続的成長への道だという認識も、全くの思い違いでしょう。
 
 かつて日本では賃金インフレが続く時代があり、石油危機で限界が露呈しました。また、地価高騰が続く時代もありましたが、バブル崩壊で終わりを告げました。

アメリカでも、住宅価格を長期にわたって上昇させた金融工学、マネーゲーム全盛の時代がありましたが、リーマンショックで深刻な破綻になりました。
パリ協定を離脱したアメリカですが、異常気象でハリケーンの巨大化や、異常旱魃でカリフォルニアの巨大山火事など、すでに不吉な前兆が出てきているように思われます。

領土を拡大すれば経済の持続的成長が可能なるとか、軍事力を増強することが、持続的成長につながるとか、まだまだいろいろな思い違いが、いろいろな所であるようですが、人類はどうしてこんな思い違いを繰り返すのでしょうか。

G20サミットなどは、世界の主要国のトップクラスの頭脳に支えられたリーダーたちの集まりです。そうした思い違いに気付いているリーダーも何人もいるはずです。
しかし、現実は、なかなかうまく行かないもののようです。

 恐らくは、長期的には巧く行かないことは解っていても、短期的には自分や自国の利益になると考えたり、世の中は合理性よりも「力(軍事力)」で動くものだといった旧態依然の意識が残っていたりするからしょう。

 そして最後には、国レベルの「エゴ」が判断を誤らせているのでしょう。しかし地球は狭くなっているのです。他国の犠牲の上に自国の持続的成長をと考えても、歴史は常にそれを否定してきているようです。
 「持続可能」という事は、最終的には、「地球人類全体の持続可能性」という所に繋がらないと、結局は「持続不可能」という事になってしまうのではないでしょうか。

ブエノスアイレスG20首脳宣言のキーワードは「持続可能」

2018年12月02日 23時01分27秒 | 国際経済
ブエノスアイレスG20首脳宣言のキーワードは「持続可能」
 G20が終了し、首脳宣言が発表されました。日経新聞などがその要旨を発表していますが、解説や見出しは「保護主義と闘う」という文言がトランプさんのアメリカの横槍で初めて書き込まれなかったこと、同じくアメリカの主張を入れて「WTOの改革」の必要が盛り込まれたといったもののようです。

 やっぱり並み居る19カ国の首脳も、トランプさんの横槍には敵わないのかなどと思ってしまいます。

 ところで首脳宣言の「要旨」を見ますと、最も多く出てくる言葉は「持続可能」のようです。
 先ず冒頭に「公正で持続可能な発展のための合意形成」が目的と明記されています。
 そのあと見ていきますと、先ず食料については「持続可能な食糧の未来」、貿易については「持続可能的で均衡のとれた貿易」、財政では「公的債務が持続可能な道筋にあるべき事」、
税制では「持続的な課税システムの確保」、雇用では「公正で持続的な仕事の未来」、「持続的なサプライチェーンの促進による雇用の確保」、投資では「包括的で持続可能な投資」などなどが連続して書かれています。

 さらに続けて、「インフラは経済的繁栄、持続可能な開発、包括的な成長の重要な推進力」、健康については、「世界保健機関(WHO)による「持続可能な健康への開発目標のための計画策定、難民問題についてはその根源である「持続可能な開発への変革のコミットメントを再確認」、資源問題では「持続可能なエネルギー資源への投資」、金融については「効果的な金融が成長と持続可能な開発を支える」などなどです。(この辺でやめておきます)

 結局、G20サミットの目指すのは、「持続的な人類社会の発展」という事で、これには「アメリカ・ファースト」トランプさんとても、必ずしも反対ではないのでしょう。

 考えてみれば、地球上に生命体発生以来40億年、ホモサピエンスが現れて20万年でしょうか、生命の発展の歴史は、地球という自然環境の中で、持続可能なものが生き残ったという事なのでしょう。

 「持続可能」というテーマな生命の基本であり、あらゆる成長発展問題の「判断基準」なのでしょう。
 戦後のアメリカが、理想に燃えて「ブレトンウッズ体制」を構築したのも、地球環境問題への対応としてCOPの会議が積み上げられて来ているのも、すべて、持続可能な人類の進歩、発展のための行動でしょう。

 こうした方向から、今アメリカは些か逸脱しているようですが、「持続可能」という判断基準で見れば、「トランプさんのアメリカ」の方が、どうも誤りだという事のようです。

 世界が混乱している時期にこそ、改めて物事を、長期的な視点で、「持続可能性」から判断することが、人類に要請されているように思われるのですが・・・。