tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

円安と物価の関係、消費への影響

2014年09月06日 10時45分10秒 | 経済
円安と物価の関係、消費への影響
 久しぶりに円安が進み、$1=¥105円という数字が出ています。 
 理由については、いろいろな説明がありますが、余り納得できるようなものはないようです。

 アメリカの経済が順調という説明が基本的には妥当なのかなという感じはしますが、アメリカ経済の順調な拡大はアメリカの経常収支の赤字の増大を伴っていますので、将来まで見通してのものではありません。 
 先日は、EUがマイナス金利の幅を広げたから、というのもありましたが、それで、対ユーロでドルが上がって、ユーロ安、ついでに円も、というのは、何だかこじつけ臭い感じです。
 日本の経常収支が赤字になってきているからという説明はありませんが、どうしてでしょうか。

 いずれにしても、こうした説明は、当面の1日とか2日とか、ごく短期なもので、中長期的なものとはあまり関係ないようです。
 理由は、こうした見方のよって来たる所は、FXなどのごく短期な取引をする国際投機資本などの思惑がベースになっているものだからでしょう。

 ところで、円安になると輸入物価が上がって、消費者物価が上がり、消費支出にマイナスの影響があるという指摘もあります。
 円安がどんどん進めば、確かに理屈はその通りかもしれません。しかし経済はもっと総合的なものです。

 日本の輸入依存度は、波はありますが、GDPの20パーセントはいきません。20パーセントとしても、1パーセントの円安は、国内価格に完全転嫁されても0.2パーセントの消費者物価上昇にしかなりません。

 もし円安が更に大幅に進めば、影響は大きくなりますが、純国産品の方の値段は上がらないので、国産品の方が有利になります。原油価格が上がるほど、太陽光発電が有利になるといった形です。
 消費需要は、常に消費者に有利な方にシフトしますから、その全体を見ないと正確な判断は出来ません。

 総体的に見れば、経済には円安の方が有利であることは、20円幅の円安で日本経済が甦ったこと、EUがユーロ高を避けようとマイナス金利を導入したことなどからも解ります。
 短期の解説に迷わされず、長期的な視点で見て行きましょう。

IKEAに学ぶ日本的経営

2014年09月05日 07時45分06秒 | 経営
IKEAに学ぶ日本的経営
 スウェーデンの世界的家具小売業IKEAの日本法人、イケア ジャパンが従業員3400人のうち2400人を占めていた非正規社員を、この9月から順次、全員正社員化すると発表しました。

 すでにこのブログでも 非正規社員の正社員化が動き始めたことをANA、スターバックス、ユニクロなどの動きと共に注目してきましたが、今回はIKEAです。
 正直、この報道を聞いて、喜ばしいと思うと同時に、まさに情けない思いです。

 もちろん非正規従業員が喜ぶ姿が目に浮かびます。多分日本企業にも影響が出るでしょう。しかし同時に、何で外国企業が、正規従業員化の先陣を切っているのか、日本企業は一体何を考えているのかという情けなさの方が先に立ってしまいます。

 もちろん、ANA、ユニクロ、それ以前に広島電鉄といった先進事例はあります。さらに三越伊勢丹HD、西友なども動き始めており、イケア ジャパンのピーター・リストCEOも、「日本全体の正社員化の流れもあり踏み切った」という趣旨の発言をしています。

 正社員化の理由については、「IKEAはもともと人に投資する企業で、人が働きやすく、やる気を出し、成果を上げてくれることこそが企業発展の原動力」という説明です。
 考えてみれば、これこそ日本的経営の基本だったことを「思い出して」頂ける方も多いのではないでしょうか。

 戦後、日本企業は職場における社員・雇員、労務者・職員などの身分をなくし、全員「社員」とし、労働組合も、労職一本の組織(世界に稀)としています。企業は職場であると同時に、人間形成と職業教育の場と考えて企業内の教育訓練をし、企業内の人事管理をしてきたのが、「日本的経営」と言われた日本企業の在り方だったはずです。

 このブログでも何度も触れてきましたように、かつて、日経連(2002年経団連と統合)は、日本的経営の原点として「人間中心の経営」「長期的視点に立った経営」の2つを上げています。

 その日本の経営者が、失われた20年の中で変質し、非正規労働者を多用してコストを下げるのが「経営者のやること」と考えてしまうようになったとすれば、余りに情けないことではないとではないでしょうか。

 今、日本には、経済団体が3つあります。経団連、経済同友会、日本商工会議所です。しかし、その中から、「経営者は非正規雇用の正規化を考えるべき」という声は全く聞こえてきません、「そんなことをしたら、コスト高でやれない」というのでしょうか。

 「われわれは経済団体で、経営者団体ではない」と言えばそれまでですが、傘下の企業トップは皆経営者なのです。「経営者は資本家の代弁者ではない」と誰もが言う今日、各社が社是社訓に掲げる経営理念を踏まえ、 「経営者の役割は何か」を改めて明確に示すことは経済団体にとって必要ないのでしょうか

日本経済の構造改革:官民バランスの視点

2014年09月04日 10時41分44秒 | 経済
日本経済の構造改革:官民バランスの視点
 前回、国債を引き受ける民間の余裕資金も次第に底をつく可能性があると書きました。
 かつて論じましたように、日本は基本的にアリ型の国で、キリギリス型ではありません。

 今の高齢者は戦後の貧しい時代から生き抜いて豊かな日本を作り上げた世代ですが、その結果、有難いことに、それなりの貯蓄を持つことが出来ました。
 もちろんこれは統計的な話で、高齢者が皆貯蓄を持っているわけではありませんが、トータルとして多ければそれは、国債を買うという形で政府の赤字のファイナンスを可能にします。

 貯蓄選好の強い「アリ型」の国民を持った日本政府は、安心して国債発行が出来、大変「アリガタ」い、という所でしょう。
 しかし、高齢者は年金以外収入がないのが普通ですから(国債の金利は生活費の足しになるようなものではありません)貯蓄を取り崩して生活することになります。

 貯蓄を食い潰すような生活パターンになると、日本人はどうしても節約志向になり、消費は伸びにくいということが考えられます。消費景気というのは難しいのかもしれません。
 消費税の再引き上げの方はどうなるかわかりませんが、消費景気にはマイナスでしょう。

 賃金を上げて、若い人を含め消費を活発にするという方法、これには少し時間が必要でしょう。あるいは、金利水準を上げて以前のように、貯蓄が1千万あれば、年間利息が40~50万円入るようになればいいのでしょうが、そんなことになったら、国債利払いで政府が破綻するでしょう。

 しかし、今後、中・長期的には金利上昇の可能性は十分ありますので、政府は財政支出の抑制を考えなければならなくなることは、避けられないでしょう。
 国会議員の定数の削減、公務員数の削減、公務員の賃金水準の見直しと先ず隗より始めるべきでしょうし、人気取りの財政大盤振る舞いも難しくなりそうです。

 国際情勢もこれあり、景気回復は進むとしてもペースは急速ではないでしょう。安倍さんも焦らないことです。

 そして、今後重要になるのは、経済における「官民バランス」をどうとるかという視点と思われます。政府が国民から借金して勝手に使うという今までのスタイルは、基本的に見直されることが必要でしょう。 
 「最後は金目」の財政資金が厳しくなれば、政府は金を使うだけではなくて、より多く頭を使わなければならなくなるのではないでしょうか。

経常黒字の急減と大幅財政赤字

2014年09月03日 09時44分08秒 | 経済
経常黒字の急減と大幅財政赤字 
 つい先年までは「日本のように国際経常収支が万年黒字の国は、何かあると円高になり、その都度大変な苦労をする」といった状態が日本経済の問題でした。

 しかしここへきて、状況は随分変わってきました。経常黒字は月によっては赤字になるというような様変わりで、国際投機資本の円を見る目も変わって来ているようです。
 様変わりの原因については8月27日.28日の「経常収支再論」でも見て来ましたが、原発事故による化石燃料の輸入急増と価格上昇、思ったより伸びない輸出といったことのようです。

 日本経済にとって苦労の種だった円高を避けるためには、「この程度の経常収支ならまあいいか」という選択もあると私は考えますし、今年度1年たってみれば、経常収支もある程度の黒字かなと思っていますが、日本には別の問題点もあります。

 もともと、経常収支の黒字というのは、生産したGDP を使い残すからで、民間の投資と消費、それに政府の財政支出で全部使ってしまえば黒字はなくなります。逆に、生産したGDP 以上に使い過ぎれば、アメリカや一時のギリシャ、スペインのように経常赤字国になり、経済破綻し、緊縮を強いられます。アメリカは基軸通貨国ということで別格ですが、借金を踏み倒して世界中に不義理をしていることはご承知の通りです。

 日本が大幅経常黒字国でなくなるということは、国際的な経済バランスからみてもいい事ですが、今の状況では、「国内的」に問題もあるように思います。
 と言いますのは、企業、家計、政府といった具合に経済主体別に見ますと、圧倒的に赤字なのは政府です、年々の財政赤字はリーマンショック以降は40兆円を超え、2013年漸く40兆円を微かに切るといった状態です。

 これは当然国債発行で賄われているわけで、国債を引き受けているのは殆どが家計と企業部門です。
 企業は次第に研究開発や設備投資を増やしていくでしょし(そうしてくれないと経済成長が出来ません)、家計は高齢者が増えるので、貯蓄取り崩しが増えて、政府があまり赤字を続けると国内でそのファイナンスできなくなり、国債を外国に引き受けてもらうことになりかねません。

 国際投機資本の一部は、日本売りのチャンス到来などと喜ぶかもしれませんが、日本にとっていいことではありません。
 政府が人気取りのためにやっている大盤振る舞いも次第に難しくなりそうです。

 安倍さんがtnlabo's blogを読んでいて「たまには経常収支の赤字もいいじゃないの」と考えているとは思いませんが、日本も大幅黒字国でなくなる可能性が出て来た今、これまでの経常黒字を減らすことが急務という視点から、今後は、経常収支のバランスを巧みに維持して行くような政策が大事という視点に、重点の置き方をを多少変えていく必要があるかもしれません。

「アベノミクスに陰り」の見方

2014年09月01日 11時51分55秒 | 経済
「アベノミクスに陰り」の見方
 このところ経済減速の数字が発表されたり、株価がさえなかったりで、アベノミクスにもいよいよ翳りが見えたとか、アベノミクスも賞味期限切れ、といった論評があちこちでなされています。

 消費税導入は駆け込み需要とその反動で経済をギクシャクさせましたし、さらに来年の消費税再増税が控えていますし、予想したより輸出が伸びず、経常収支が赤字になったりで、国民の不安感は強まっているようです。

 増税したのに財政の改善については何も語られません。いわゆる第3の矢も、総論は、大胆な構造改革と言いますが、今までも構造改革であまりいいことはありませんでしたし、政策の説明は抽象的で要領を得ませんし、具体的に出て来るものを見ると、法人税減税とか、残業代ゼロ政策とか、国民に安心感を与えるようなものではありません。

 第3の矢の内容は、産業基盤の強化、戦略市場の創造、国際戦略などとなっているようですが、産業基盤の強化の基本は人材を育てることで時間がかかります。戦略市場の創造は人材の育成が、新技術に繋がり新市場が開拓できるので、もっと時間がかかります。国際戦略は対中・対韓政策でまったく失敗していますし、集団的自衛権で国民の不安はますます大きくなるでしょう。

 もともとアベノミクスといっても、本質は「黒田流異次元金融緩和」で20円幅の円安になったことが殆ど全てで、第2の矢、財政支出の大盤振る舞い、但し殆どが公共事業で、財政悪化を消費税増税で補填というのが実態、ここまでは政府の力で出来ても、日本経済の本格回復には、日本人が、本気でやる気になって、経済活動を積極的に推進するという、国民の力の発揮が必要です。これには、国民がその気にならなければなりません。

 これがアベノミクスの一番弱い所で、当面の人気取りには腐心しますが、本格的な中・長期の戦略については、抽象的な絵しか描けないという所でしょうか。

 第1の矢、円安政策は大成功だったと思います。第2の矢、財政には長期ビジョンが不安です。第3の矢の成功のためには、国民の前向きの意欲の回復とその発揮が必須です。これについては、ほとんど見るべきものがありません。
 短期的なポピュリズム思考と、本人の単純な思い込みが邪魔をしているようです。

 しかし、第3の矢が機能しなくても、日本経済は大丈夫でしょう。企業も消費者も、労使も、ゆっくりかもしれませんが、着実に行動していくでしょう。

 こうした国際情勢の大変動期には、短期の人気取りでなく、国家100年の計を考えるような大宰相が必要なのかもしれませんが、今は世界中のリーダーがポピュリズムに堕していますから、日本でもあまり期待できないようです・

 リーダーはともあれ、フォロワーである国民が立派であれば、時間が経つうちには、必ず成果が現れるものです。
 企業労使も、国民も、気落ちせずに、現状の中でのベストを目指して着実な努力を続けることが、ますます重要になってきているように思います。