tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

長期不況の脱出、黒田日銀の業績に思う(続)

2023年04月09日 09時55分39秒 | 経済
黒田さんは日銀総裁に就任と同時に、アメリカのFRBの政策を巧みに活用し、円高に苦しむ日本経済を、異次元金融緩和という手段で円安を実現、円レートの正常化を実現、その復活の条件を整備しました。

これで、アベノミクスの第1の矢、為替レートの正常化$1=120円は実現し、政府・日銀の政策目標「インフレターゲット2%」も3年程度で達成という予想でした。
しかし、その後は予想外の残念な展開で日本経済の低迷は続きました。

アベノミクスでは円安の成功を、第2の矢、積極的財政政策、政府主導で引っ張り、その後は規制改革でフロンティアを開くという事だったのでしょう。

しかし、政策態度は、「決める政治」で、総て政治主導でという姿勢が仇となって、思うように経済が動かな動かない事になってしまったようです。

円安は、日本経済の国際競争力を強くし、円安の分円建ての付加価値を増やすわけですが、同時に、付加価値の産業別の分配には大きな偏りを齎します。輸入部門には為替差損を、輸出部門には為替差益という事ですが、これは企業努力とは全く関係ありません。

この付加価値配分の産業別格差は、輸入サイドの円建てコスト増の価格転嫁が順調に行われて、輸出部門の差益で埋められるべきですが、価格転嫁についてのきちんとした政策がなく、産業別の富の偏在が残っていしまいました。

価格転嫁の不徹底は長期に残っていて、それによって円高によるインフレ効果は小さくなり、物価が上がらなければ賃金も上がらず、賃金が上がらなければ物価も上がらないという状況が長く続きました。この価格転嫁の遅れの集積(鬱積)が、昨年来の消費物資中心の一斉値上げの動きとなったのという事でしょう。

こうして、円安後も消費の伸びない状況が続き、消費不振は経済成長を遅らせる一方、差益の出た輸出部門は、不足していた自己資本の積み増しにそれを活用、投資は成長する海外諸国にという事になって、経済成長は消費・投資の両面から低迷となりました。

政府は成長しない経済を、なんとかして成長させようと、財政出動に走り、低成長で税収不振ですから、当然、国債発行への依存を強めました。

日銀の低金利政策、量的緩和容認は、政府の国債大量発行には大変好都合で、黒田日銀には、異次元金融緩和の出口検討の機会など全くないままに、無駄の多いバラマキ財政支出につきあわされて10年が過ぎたという事でしょう。

黒田日銀は、政府と「2%インフレターゲット」を共に定めたところから、見通しの3年が何年伸びても待つしかなかったという事だったと思われます。

そして昨年以来、価格転嫁自粛の我慢が限界に達し、一斉値上げで消費者物価突如が3~4%になり「インフレは2%を超えたぞ」と言われても、これは「インフレターゲットの2%」とは全く異質のインフレで、こんな時に金融引き締めなどしたら賃金も上がらなくなるという状況の中で、黒田さんは期限切れの退任となったのでしょう。

ご本人は「やるべきことはやった、政府が出口政策のチャンスを作ってくれなかっただけ」と淡々としておられるのではないでしょうか。だから新任の植田総裁も「当面現状通り」と言っているのです。

ことし大幅賃上げが出来て、一斉値上げの波も過ぎ、一方輸入物価が落ち着いて、日本のインフレが賃金インフレ2%になる可能性が見えてくれば、黒田さんでも、植田さんでも出口政策を開始するという事になると思っています。