tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

金融資本主義、格差社会化の要因に

2022年02月04日 14時56分50秒 | 文化社会
前回は、戦後の経済発展の中で、日本がいかにして格差の無い社会作りに成功して来たかについてみてきました。

ピケティが『21世紀の資本論』の中で、第二次大戦後、世界的に格差の拡大の無い時期があったと言っていますが、多分その典型的なイメージとして、日本経済の成長があったのではないでしょうか。

残念ながら、日本のその後は前回書いた通りですが。実はもう一つ付け加えなければならない重要な問題があります。ピケティは「資本収益率(r)の方が経済成長率(g)より大きい」から格差が拡大すると言っていますが、それはその通りです。

勿論これは税制や社会保障制度などの国の再配分政策によって是正が可能ですが、それが非常にやりにくいような状況変化が、すでに起きて来ているのです。

それが、資本主義の金融資本主義化(マネー資本主義化)です。
未だ経済学の中でもこうした資本主義の正式な定義はないのかもしれませんが、マルクスの頃の資本主義と今の資本主義は、必ずしも同じではありません。

マルクスの時代は、「資本家が資本を使って、生産を行い、それによって生まれた付加価値(生産された付加価値の総合計がGDP)のより多くの部分を資本が取る」という形での資本の増殖でした。 

従って、そこでは付加価値を創るための生産活動が必要で、そこで労働力を使います。そして労働者への分配はなるべく少なくして資本収益率を高めるわけです。

当然労資の分配問題が起き「資本」による「労働」の搾取という問題意識が生まれ、「分配の平等」を求め社会主義思想が生まれ、共産主義革命が起きることになります。

ところが21世紀の資本の活動はどうでしょうか。
資本のより大きな部分は生産活動に向かわず、多様な経済活動の「指標」やそのデリバティブズの「価格の変化」(数字の指標)を投資の対象にした「マネーゲーム」に向かっているのです。

その世界はGDPを構成する実体経済の生産活動には「直接の関係」を持ちません。
例えば、一見会社の業績に関連するように見える投資でも、投資の対象は利益などの「指標」で、それによってその企業の時価総額がいくらになるかが資本増殖の源泉なのです。

これも経済学上の定義が明確ではありませんが、GDPの構成要素になるのはその企業の付加価値生産額(インカムゲイン)で、時価総額の増大は、時にそれと何桁も違う巨大なものとなり、投資者の投資収益(キャピタルゲイン)となるものですが、それはGDPに算入される性質のものではなく、実体経済とは無関係の資本の増殖なのです。

問題は、実体経済の生産活動による付加価値額の分配としてのおカネ(インカムゲイン)も、実体経済に関わる指標、インデックスへの投資から得たおカネ(キャピタルゲイン)も日常の世界では、同じ購買力を持ちますから、圧倒的に大きなキャピタルゲインにより購買力(社会の富)をマネーゲームの成功者が獲得するという現実です。

実体経済の世界で、労使がいかに分配を適切に行っても、そうしてことに全く関係なく、マネーゲームの世界で資本の増殖、社会の富の巨大な移転が起きているのです。

アメリカでは、所得分布で上位1%にあたる人々が、全体の60%を占める中間層を上回る富を保有していることが、連邦準備制度理事会(FRB)の最新データで明らかになったそうですが、それは、こうした金融資本主義(マネー資本主義)の結果ということでしょう。

こうして発生する格差問題にいかに対処するか、話を現実に戻せば、岸田総理の「新しい資本主義」も問われているのです。(金融取引により利益の課税問題)