tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

勢いのある経済、勢いのない経済

2021年11月10日 14時56分00秒 | 経済
最初に経済成長と賃金と物価の基本的な関係を見ておきましょう。
経済成長(実質値)は、国民が今年1年働いて生産した付加価値(GDP)が、昨年より何%増えたかという事です。したがって、通常は経済成長の分だけ国民生活全体がが豊かになるという関係になります。

GDPは生産に貢献した人間(労働)と資本に分配され人間に分配された分(賃金)は主として消費に向かい、資本に分配された分(利益)は主として生産設備に投資されます。

労働への分配と資本への分配の比率が一定であれば、それは均衡成長とよばれ、「経済成長率≒賃金上昇率」になります。
従って賃金上昇率が経済成長率より大きければ労働分配率が高まり資本分配率が低くなります。その逆の場合は労働分配率が下がります(資本分配率上昇)。

しかし賃金上昇率の方が経済成長率より高くても、賃金上昇率に見合って物価を上げれば、実質経済成長率は同じでも名目経済成長率が上がり、労働分配率は変わらないということになります。いわゆる賃金インフレです。

数学的に最もまともなのは均衡成長ですが、現実にはそんなに巧くいかないし、少しインフレ気味にした方が、賃金も上る、物価も上るので、売り上げも給料も増え、景気がよいと感じられるのでその方が企業も国民も元気がが出るという考え方もあります。

今の日本政府と日銀が言っている「2%のインフレ」が望ましいという経済政策はその考え方を取っているわけです。しかし何故か上手くいきません。

経済成長と賃金と物価の、こんな関係を基本にして日本とアメリカの状況を見てみましょう。(この関係は、数字をすべて国民1人当たりにしても、基本的には同じです)

アメリカの経済成長と賃金

                  資料:OECD

先ずアメリカの場合ですが、2013年から2021年までの間に20%近い実質経済成長をしています。20年のコロナ禍がなければ20%を超えていたかもしれません。

そして賃金の方も、それに準じて伸びています。コロナ禍があっても賃金は当たり前に伸びていて成長率に一時的に追いついています。

しかし長期的な傾向としては実質成長より賃金の上昇の方が少なく、成長した分の分配は、コロナの時を除いて人間(労働)より資本の方に多く分配されていて、労働分配率は下がる傾向にある事が解ります(これは最近世界的傾向として論じられています)。

一方、前回見ましたように物価も賃金と同様に上がっています。つまり物価上昇は賃金インフレではないようで、資本への分配の方がかなり有利になっている(利益インフレ?)状態のようです。

そのせいでしょうか、ことしに入って、アメリかの賃金上昇率が大分高まっているということが報道されています。

一方、日本の状況を見ますと実質GDPは、2016年までに6%ほど成長しましたが19年は横ばい。20年はコロナでマイナス成長、21年は多少の回復予想ですが、この8年間でやっと5%ほどの成長と低迷状態です。

    日本の経済成長と賃金

          資料:国民経済生産、毎月勤労統計

経済成長率は随分差がありますが、賃金上昇率が実質経済成長率に達していない点は世界的な傾向と同じで、労働分配率は下がっています。賃金インフレの気配はないようです。

まさに、勢いのあるアメリカ経済、勢いのない日本経済と対照的です。元気のない日本経済では賃金上昇率も元気がありません。
さてこの経済活動の元気さの違いは何処から来るのでしょうか。