tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

2020春闘:賃上げの「必要性」では一致したが・

2020年01月29日 22時29分21秒 | 労働
2020春闘:賃上げの「必要性」では一致したが・・・
 前回、2020春闘を見る視点として、格差社会化への流れをいかに食い止めるかが最も大事ではないかと書きました。

 そして、このところの格差社会化の進行の中で問題になっている非正規労働の行きすぎた利用は、円レートが正常化したからには経営が反省すべき問題であること、政府が旗振りをしている雇用制度の欧米化は、結果的には格差を促進するものであること、加えて、本来の日本的経営は、雇用制度、賃金制度の中に、格差拡大に歯止めをかけるような意図が込められていることを指摘しました。

 今回は連合と経団連が賃上げの「必要性」では一致しているという「賃上げ」につて見ていきたいと思います。

 経団連の主張は、賃上げの勢いを維持して行くことは重要という点では連合とも一致するところですが、それぞれの中身がどうなのかが春闘の具体的課題でしょう。

 この点について連合は、日本の経済社会全体との関連で問題を提起しており、それは大きく次のようになるのでしょう。
 ・賃上げ幅:一般的には率:定期昇給+ベースアップ2%程度
 ・産業構造(サプライチェーン)の各段階に出来るだけ均等に分配
 ・格差是正のために底上げを重視し要求賃金額を金額で表示する(率では格差は一定)

 ここから見えてくるのは、給与水準全体を引き上げるベアの平均的な数字は2%程度で政府の名目経済成長率の見通し(2.1%)に見合ったもの、公正取引を前提に、中小企業などに皺寄せがいかないことが大事、格差是正を担保するために低賃金部分には金額で歯止めをかける、といった考え方でしょう。

 勿論これが実現するかどうかは、連合傘下の組合の交渉力と経営側の理解の程度によるわけですが、連合の「こころざし」が、日本産業の生産した付加価値の分配を出来るだけ公正に保ち、更に格差拡大を未然に防ごうという、日本社会全体のバランスを意識したものだという事が感じられます。

 これに対して経団連の基本的スタンスは、「収益拡大の従業員への還元」と「職場環境改善などの総合的処遇改善」の2つをを大原則にし、賃金引き上げの勢いは維持、自社の実績に応じた前向きな検討が基本としています。
 そして「総合駅な処遇改善」については「エンゲージメントによる価値創造力の向上が大事」という指摘です。

 ここでいうエンゲージメントというのは、Society 5.0という技術革新の時代に鑑み働き手のエンゲージメント(やる気?)を一層高め生産性と競争力を向上、その成果を賃金引き上げ、職場環境の整備、能力開発で分配、還元するという事で、企業への貢献を一層強めたいという意味のようです。

 この主張の趣旨を整理すれば、表現はすべて定性的なもので、分配の在り方は各企業の判断に任せるという姿勢です。収益はいろいろな形で分配するから、エンゲージメントを強めて大いに成果を上げてほしいと読み取れます。

 定性的であれ、企業の収益(多分付加価値の事でしょう)を従業員に分配すべく「前向きに」検討すると経営者が言うのは日本的経営の特質ですから、大変結構なことだと思います。

 ただ願わくは、賃上げとマクロ経済との関係を、何らかの形で定量的に述べてほしかったと思います。
 そうしないと自社の支払能力といった問題は、個別企業で判断はバラバラでしょうから、格差の拡大を良しとしないならば些か残念で、格差の発生を放置ということになりかねません。

 もう一つ付け加えますと、エンゲージメントという表現が、個人重視に聞こえますが、これは、企業という人間集団でないと成果は上がらないでしょう。この点は日本の企業社会の文化に属する問題です。
 新卒一括採用、年功型賃金、長期・終身雇用といった日本的雇用慣行を、全面的に現政権の方針に従って欧米流に変えていこうという事になると、多分望む結果は出ないでしょう。 
 この問題は改めて論じたいと思います。

2020春闘:労使の一致点と相違点を見る

2020年01月29日 00時06分21秒 | 労働
2020春闘:労使の一致点と相違点を見る
 2020春闘も労使トップ会談でいよいよとキックオフです。
 トップ会談で、まずは、労使の一致点と相違点がはっきり出て来たように思われます。

 まず、賃上げが必要という点では一致したとのことで、少しでも経済成長がある限りこれは当然でしょう。
政策・制度面では、経団連が、政府の方針を基本とするような「日本的雇用制度の見直し」「能力による処遇」「同一労働・同一賃金」などの推進を提起したようです。

 それに対し、連合は、現実はまだまだ「サプライチェーンの均等な配分が実現していない」という視点から、未だに置き去りにされている中小企業や非正規労働者問題を踏まえ、雇用制度の見直しばかり重視すると、「配分の不公正の是正と整合しない恐れ」があるのではないかといった視点を指摘したようです。

 端的に両者の主張を比較すれば、経団連は、政府の主張する「日本の労働市場、労使関係を欧米流に変えていく」という視点で、それに対し、連合は、その動きに対して、労働者全体に対する賃金の公正な配分のためには、欧米型への接近は、必ずしも労働者のためにならないという危惧を持っているように感じられます。

 この視点の相違が、これから年々の春闘の中でどう展開していくか解りませんが、これは大変興味あると言っては「不真面目だ」叱られそうですが、日本経済の将来のために極めて重大な意味を持つものになっていくように思います。

 というのは、伝統的な日本的経営における雇用・賃金制度の特徴は、経営者も含めて雇用者(国民経済計算の定義では、企業で働くものは、パートから社長まで、すべて雇用者)への報酬(賃金、賞与、その他)の格差が広がらないような仕組みになっているのですが、欧米流は常に格差拡大の方向に動くようなシステムになっているからです。

 そういいますと「日本でも、非正規など格差が拡大している」と言われそうですが、客観的に言えば、これは30年にわたる「円高不況」の中で、企業が生き残りのために緊急避難としてとった政策の結果で、残念ながら、円高不況が終わっても、この数年、味を占めた経営者がそれを便利に使っている結果でしょう。(必要なのは経営者の反省です)

 欧米型の雇用・賃金制度の問題点はこのブログでも繰り返し取り上げていますが、大きな問題は「同一労働・同一賃金」では格差問題は解決しないという事です。

 「同一労働・同一賃金」では絶対解決しない問題というのは、「違う仕事の賃金は『どのくらい違う』のが適切か」という視点が欠落しているものですから、一般労働者と専門職、管理職、そして経営者の賃金格差が「どのくらい大きくて適切か」という視点がないことです。

 欧米の格差は巨大で、日本の格差は驚くほど小さいというのは、色々な調査の出ています。
 これは実は制度の問題というよりは社会的、文化的背景によるのですが、日本の文化や意識は本来(特に戦後)、大きな格差を好まない傾向が強く、雇用賃金制度も、それを適切に制度化したものなのです。

 そして、特に大事なことは、「格差化進むと社会は不安定になり、経済成長にはマイナスの影響がある」という経験的事実です。

 今年の春闘も、これからの春闘も、加えて政府の政策も、こうした視点を外さずに見ていかないと、「何時か、あれ、こんな筈ではなかった」という事になるのではないかと心配しています。