tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

付加価値の分配についての2つの考え方

2018年09月26日 20時56分06秒 | 経営
付加価値の分配についての2つの考え方
 前回、国際収支の中の「第一次資本収支」について、労使の分配論争になる可能性も有りそうだ、という点について指摘しました。
 その点について、もう少し考えていってみましょう。

 問題は、海外からの利子配当収入が中心の「第一次資本収支」の大部分は海外の企業への出資や融資への対価、また海外の子会社などから日本国内にある親会社などへの資金提供への対価としての金利や配当の支払いです。

 つまり日本国内の企業が、海外の企業に資金を提供して生産をするのですが、働くのは海外の労働力で、賃金はその人たちに支払われます。「労働への分配」は海外の労働力への賃金として支払われ、日本国内の企業は「資本への分配の中から、金利や配当」
を受け取るわけです。

 ならば、第一次資本収支は利益の中での分配で、その中から更に労働への分配は必要ないという理屈も成り立つという見方もできます。
 今、多くの日本企業は内部留保を沢山積み上げているから、もっと賃上げに回せるではないかという意見は強いようですが、「それは筋が違う」という事になります。

 さて、これはどう考えたらいいのでしょうか。

 この問題を考えていきますと、付加価値の分配には2種類の考え方があるという所に行き当たります。
 1つは伝統的な考え方で、「付加価値は労働と資本の貢献度に応じて支払うのが正しい」というものです。
 もう1つは「将来が最もよくなるように分配するのが正しい」という考え方です。

 成果を上げた従業員に大きな昇給やボーナスで応えようとか、ファンドがもっと配当をよこせというのは前者の考え方です。
一方、親が一生懸命稼いで、自分は少ない小遣いで我慢し、子供の教育につぎ込むというのは後者の考え方です。
 さて、どちらが正しいのでしょうか。

 これはどうも、「正しい」とか「間違っている」とかいった問題ではなく、人や企業が、いかなる理念で生きているか、また企業を経営しているかという事でしょうし、国であれば、為政者がいかなる国づくりをしようとしているかにかかわる問題です。

 貢献度方式もある程度は必要でしょう。例えば、従業員は同じで、新鋭機械を入れて、付加価値が5割増えたら、その分はすべて増えた減価償却、資金を提供したファンドへの配当に充てるべきなのでしょうか。従業員の賃上げもし、企業の利益も増やし、皆が喜んで更なる企業の発展に力を尽くすようにしようと考えるのが良い経営と言われる方も多いでしょう。

 多分、企業というものはそうあるべきだ、それで社会全体も良くなると考えて、経営者が資本家に取って代わり、賃金は労使で決定するという労使関係が一般的になり、企業の安定発展を「労使が共に望む」という日本的経営が出来上がったのでしょう。

 矢張り最終的には、貢献度方式はほどほどにし、企業の将来、つまり長期的な安定・発展が大事だと多くに人は考えているのではないでしょうか。