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tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

日銀:賃金上昇を伴う2%インフレ実現まで、粘り強く金融緩和

2023年09月23日 14時00分05秒 | 経済
昨日の日銀の発表には落胆を禁じ得ませんでした。今迄と同じことを全会一致で決めたという事だけでした。

黒田総裁の時は、未だ解り易かったと思います。物価上昇は一過性だから、異次元緩和を続けて賃金上昇を待てば、2%インフレ目標の達成に向かっていく、それまで金融緩和を続けると理解できました。

植田総裁も最初はそう言っていました。黒田路線の継続なんだな、やっぱりそれしかないのか、と思っていました。

今春闘では、労使も少し高めの賃上げをしました。しかしほとんど効果的ではなかったようです。賃金統計でも賃金レベルは「いくらか」上がった程度のようです。

一方、新しい事情が次々追加されました、一つは、輸入価格が上ったら、国内価格に転嫁してもいいという政府の姿勢です。これまで値上げを我慢していた部分で物価上昇が始まりました。

もう一つは、アメリカのインフレ抑制のためのFRBの相次ぐ金利引き上げで、日米金利差が急拡大、猛烈な円安が起きました。そして、今、これが長引くのではないかと懸念されています。

長らく消費不況で値上げを我慢していた消費関連部門の、たまりかねた値上げに加えて、また上り始めた原油価格、それに大幅円安による輸入原材料のコストアップ、この3者が入り混じって、消費者物価の上昇が止まりません。

電力、ガス、石油元売りには政府が補助金を出して上昇を抑えていますが、それが外れたら消費者物価な1%以上上がるでしょう。

こんな状況を背景に、特に生活必需品関係などでは波状値上げが続き、一部には便乗値上げの気配も感じられ、年率10%前後の上昇が見られる品目も多くなりました。

これに対して春闘賃上げも結果的には些少だった家計部門では、既に買い控え傾向が出始めており、アベノミクス時代の消費不振による経済成長不振が心配される様相です。

今の日銀は、こうした状況を、如何なるシナリオ、如何なるプロセスで、「2%インフレ目標」、標準的には、賃金水準上昇4%、国民経済生産性上昇2%、インフレ率2%という目標でしょう。勿論、円レートが安定しなければ、計算通りにはなりません。

いかにして、こうした状態に持っていくのか、それが示されなければ、国民は安心して「日銀に政策をお任せする」ことは出来ないでしょう。

政府と緊密に連絡を取っているとのことですが、借金だらけの政府に金利を上げないように頼まれているのではないかなどと勘繰る筋もあるようです。

プラザ合意リーマンショックの後始末など、政府、日銀の対応の誤算を見ている国民です。もう少し政策の筋道の納得できる説明がないと、正直、安心できない気がします。

2023年8月、消費者物価上昇基調変わらず

2023年09月22日 13時44分02秒 | 経済
今朝、総務省統計局から2003年8月分の消費者物価指数が発表になりました。
大方の予想通り、消費者物価の動きに特段変化がなかったところから、マスコミの報道では小さく「3.1%の上昇」と例月通りの生鮮食品を除く総合の数字が見出しでした。

特段変化がなかったという事の中身は、しかし複雑で、8月は生鮮食品の伸び率が低かった事もありますが、大きいのは、政府の補助金の継続で電気代が2割、都市ガス代が1割ほど前年より下がっている(2月以降)ことなどが含まれています。

10月以降、これらの補助金がどうなるかで、消費者物価が大きく動く可能性もあるわけで、政府は補助金で人気を維持する様子ですが、本来の経済現象を歪めてその皺が財政赤字によっている事を見ないと本当の動きは解りません。

それはともかく、毎月注目している主要3指数の動きをグラフで見ますと、総合、生鮮を除く総合、エネルギと生鮮を除く総合の青、赤、緑の3本の線は従来通りの角度で上がっていて、生鮮の上昇鈍化の影響が総合にかすかに出ている程度です。

   消費者物価指数主要3指数の動き

             資料:総務省統計局「消費者物価指数」

下のグラフの対前年同月比の数字を見ますと、総合と生鮮を除く総合は政府の補助金政策で、次第に横ばいの動きになっていますが、緑の線の生鮮とエネルギーを除く総合は相変わらずの上昇基調です。

      消費者物価指数主要3素数の対前年同月上昇率(%)

                     資料:上に同じ

この緑の線は、加工食品、菓子、飲料、調味料などの食料、それに毎日使う日用品などいわば生活必需品が多いのですが、このグループの上昇率は相変わらず高く、からあげ、ハンバーガー、アイスクリーム、炭酸飲料やトイレットペーパーなど年率1割ないしそれ以上の上昇率をづけているものも多い状態です。

円安も続く気配、エネルギーの国際価格の上昇で、政府の補助金も何時までも続けられるものでもないと思われますので、物価問題はなかなか安心とは言えないようです。

このブログでは、世界中インフレなので、日本だけインフレを抑えるのは無理だから、思い切って賃上げをする方が適切な政策ではないかと指摘していますが、それには連合が動かなければだめでしょう。

1980年代までは、日本の労働組合もそういう元気を持っていたのですが、今の連合は大人しくなり過ぎではないでしょうか。
現状では、補助金より賃上げの方が健全だと思っている人も多いのではないでしょうか。

余計なことも書きましたが、岸田政権が今の世界と日本の経済情勢を的確に判断できるかどうかが鍵でしょうから、些か難しいとは思いますが、秋以降の経済政策に期待したいと思うところです。

FRBと日本銀行:日米物価の見方と対策

2023年09月14日 17時30分12秒 | 経済
FRBと日本銀行:日米物価の見方と対策
円安がまた進んでいます。
嘗ては、プラザ合意、リーマンショックで、大変な円高に追い込まれ、30年近く円高不況に呻吟した日本経済です。

2013~14年の日銀の政策変更で円高が解消しましたが、それに対応する国内経済政策がとられなかったせいで、その後10年ゼロ近傍成長で、相変わらず冴えない日本経済です。

昨年辺りから、少し国民の意識にも変化し、円安に対応する国民の自然な経済行動が見られ、今年あたりから日本経済も正常化に向かうかと思われたのですが、アメリカの金利引き上げで、国内の自然の動きが混乱、また日本経済は混乱状態に入ったようです。

それに対して、今のところ、政府も日銀も、適切で効果的、具体的な対応に資する経済の理論も政策の説明もなく行動もはっきりしません。

今、アメリカは、金融引締めを再び強める姿勢で、それを反映して円安はじりじり進む気配です。FRBが気にしているのはCPI(消費者物価)の上昇が収まらないという事です。

アメリカの8月の消費者物価上昇率(総合)は対前月0.6%(対前年同月3.7%)で、エネルギー価格が対前月で10.5%(対前年同月では-4.2%)、これがFRBの懸念のようです。

それ以外は、運送サービスの0.3%(対前年同月10.3)ぐらいで、食品は0.2%、エネルギーと食品を除くいわゆるコアコアは0.3%(対前年同月4.3)で、アメリカの感覚では正常の範囲でしょう。

日本の場合はまだ7月分ですが、分類の違いはありますが、対前年同月で総合が3.3%、食料8.8%、家具家事用品8.4%、教養娯楽が4.8%、光熱水道は-9.6%、生鮮食品とエネルギーを除く総合(コアコア)の4.3%は偶然8月のアメリカと同じです。

これは日本の感覚としてはかなり高いインフレで、エネルギー価格が政府の補助金で下がっているのが(困った)特徴ですが、食料・日用品といった生活必需品価格の上昇が異常です。
 
最近の日本の生活必需品の値上がりは$1=150円に近づいた円安が原因と言われ、補助金でエネルギー価格下げるという政策が終わったら大変でしょう。

エネルギー、食料の自給率が大変低い日本、それに対して殆ど自給のアメリカの経済構造の違いと、他国の都合は関係なく、インフレに異常にの敏感になって、金利引き上げで実体経済を無視した為替レートの変動を起こして意に介さないアメリカ、そして、まともにその影響を受ける日本です。

日本経済の実体経済に適切な110円程度の円レートであれば、日銀は余り困ることもないかと思うのですが、変動相場制の今日、こうした問題に日本の中央銀行は、もちろん政府も含めて、新しい対応策を考えなければならないのです。

勿論常識的には、政府・日銀に頼るのが当たり前でしょう。しかし、それで上手く行かないときはどうするかです。

振り返ってみれば、1973年第一次石油危機がありました。あの時は、政府も日銀も大変な努力をしました。しかし。世界も驚くような大きな役割を果たしたのは、日本の労使だったと考えて多分誤りはないでしょう。

今、政府、日銀にも適切な具体策を考えて欲しいと思いますが、同時に、長期不況の中での苦難の経験を生かし、新手の日本経済起死回生の策を、日本の労使にも積極検討してほしいと思うところです。

賃上げか物価抑制か:当面する経済対策

2023年09月11日 16時26分08秒 | 経済
賃上げか物価抑制か:当面する経済対策
毎月勤労統計が発表される毎に、マスコミには「実質賃金今月もマイナス」といった記事が出ます。

もうどのくらいマイナスが続いているのでしょうかグラフにしてみました。

現金給与総額(指数)、消費者物価、コアコアの前年比上昇率(%)

      資料:厚労省「毎月勤労統計」・総務省「消費者物価指数」

図の賃金は5人以上の事業所の全労働者の現金給与総額の指数(名目値)で、消費者物価指数は「総合」と「コアコア」で、数字はそれぞれの指数の対前年同月上昇率です。

青線が名目賃金の毎月の対前年上昇率で、赤線が消費者物価指数(総合)の対前年同月上昇率ですから、赤線が青線の上に出れば、その月の実質賃金は前年に比較して下がった、つまり実質賃金マイナスという事になります。

ご覧頂きますように、昨年4月から赤線が青線の上に出て、その後は、昨年末のボーナスが比較的良かったものですから、微かに赤線の上に出ましたが、それ以外はずっと実質賃金の伸びはマイナスという事です。

賃金指数の青線について気になるのは今年に入って予想よりも上昇率が伸びていない事です。

昨年12月のボーナスの伸びが高かったのは、企業業績の好調や、コロナの終息も見込まれ、2023年の春闘では労使が共に「賃上げが必要」という見方で一致するなど、雰囲気の変化が感じられましたが、実績を見ますと今年5月以外は、賃上げろ値が高まったという様子はほとんど感じられません。

賃上げの雰囲気が盛り上がった割に2023春闘が、実績としてはこの程度のものだったという事は些か信じられないのですが、統計に嘘はないでしょうから、実際の賃金レベルの上昇は名目値で2%まで行っていないという事なのでしょうか。

特に緑の線をご覧ください、これは「コアコア」と書いてありますが、エネルギーと生鮮食品を除く消費者物価指数で、日本の国内事情で起きているものです。
どんな国内事情かと言いますと、最近の主な原因は「円安」です。

円安は円レートが1ドル110円近辺から147円になりました。日銀は一時的なものと言っていましたが、まだまだ長くなりそうです。

ガソリンもアメリカでは下がっていますが日本では上がっています。小麦や、大豆、トウモロコシも同じです。円が安くなった分日本の物価は上がるのです。

それなら日本の賃金も上がればいいのですが、賃金は上がりません。アメリカやヨーロッパでは、こういう時は労働組合が強くなり賃金が上がります。
去年から上がり過ぎて10%前後のインフレになって、大慌てで金利の引き上げです。

何故上がらないのでしょう。日本の産業の生産性は特に変わらないのですから、「円安になった分だけ」経済学的には賃金が上がっても特に問題はないはずです。

少なくとも、物価上昇をカバーするぐらいの賃金上昇がないと、消費が減退、物価上昇も止まって、景気が悪くなり、生産性が下がって縮小均衡になるのが結果(オチ)でしょう。

この辺りのバランス感覚が政府や日銀、それに連合や経団連にないと、日本経済の復活は(アメリカのインフレ次第のようなことになったりして)、容易ではないでしょう。

どうでしょう、騙されたと思って、思い切って、労使で図って「秋闘」をやり、家計を担う非正規労働者の正規化を重点に、平均10%ぐらいの臨時賃上げをやったら ・・・。
日本経済は元気になりますよ。

円安と賃金水準の関係への理解を

2023年09月08日 15時33分46秒 | 経済
前回、消費者物価上昇が予想外の幅で続きそうなので、今春闘の賃上げは物価上昇に食われてマイナスという現実から、家計は、改めて節約ムードの逆戻りではないかという懸念を指摘しました。

2022年に至って漸く回復の気配を見せた家計の消費支出でしたが、この4月から急速に
節約ムードが強まった様子が「家計調査」で見られるのです。

生活必需品関係の急速な値上がりの理由として言われるのは、昨年までは「長い間値上げが出来なかったが我慢も限界」といった意見が多かったように思いますが、最近は、急激な円安で輸入原材料はエネルギー価格の高騰という説明になって来ています。

110円辺りだった円レートが140円台という20~30%の円安がさらに続くようなことになれば、日本経済として物価水準全体の見直しが必要でしょうし、そうなった場合の物価水準の上昇と、賃金水準のバランスはどうなのかという問題が当然発生するわけです。

物価水準が上がった時、賃金水準を引き上げなければ、必然的に消費不足経済になり、経済成長は困難になるでしょう。
これは、アベノミクスの中で現実に発生しています、日銀の政策変更で異常な円安状態が解消して、すぐにもインフレ基調の経済なるという安易な予測は外れ、アベノミクスを結果的に失敗に追い込んだ元凶です。

アベノミクスで、円レートが80円から120円と50%の円安になっても、賃金水準は殆ど上がらず、賃金の安い非正規従業員の割合は増えるような状況の中で、加えて、年金財政不安などが言われれば、家計の視点では、将来のために貯蓄を増やし、消費支出は切りつめるという事だったのでしょう。

経済と経営の関係での原則を言えば、円高になった時は、賃金を下げなければなりませんし、逆に円安になった時は賃金を上げなければなりません。

しかし、円安になった時は「賃金を上げられる」とは思っても「上げなければならない」とまでは思わない企業が多いのではないでしょうか。
その理由は、多分、賃金は上げられるが、余り上げない方が国際競争力が強まって経営にプラス、という意識があるからでしょう。

その気持ちは解りますが、もともと競争力がない国ならば、1割自国通貨の価値が下がっても、賃金コストは5%上昇に止め、残った5%は国際競争力の強化に使うという考えもありうるでしょう。
しかし、もともと国際競争力のある国ならば通貨価値が下がった分だけ賃金コストを上げても国際競争力には問題はありません。

さて、円レート110円で国際競争力があった日本で140円台の円安になったらどのくらいの賃上げが可能になるのでしょうか。(140円/110円≒27%という所でしょうか)

問題になるのは円レートは早晩110円に戻るのではないかっという可能性、早晩と言ってもそれはいつごろか、賃上げは出来ても、円高に戻った時賃下げは極めて困難、などの問題を企業は考えて計算しなければならないという事でしょう。

政府日銀は、企業がそういった予測不能の中で経営をしなければならないことに留意して、口先介入から標準金利の引き上げまで、多様な手段を巧みに使って、円レートの安定を図る必要があります。

モタモタしているとまたアベノミクスの低成長の二の舞ではないでしょか。

インフレで国際競争力を多少落とすことになっても、欧米主要国はいつも日本以上のインフレをやりますから、日本が、賃金インフレで景気を刺激する余裕はかなり大きいのではないでしょうか。

7月家計調査、消費支出失速の兆しか?

2023年09月07日 15時22分56秒 | 経済
一昨日、9月5日に、総務省から家計調査の家計収支編の7月分が発表になりました。

今年度に入って前月6月までのデータを見ながら、このブログでは、このままで行ったら2022年から回復してきた家計の消費支出の積極化が腰折れ以なるのではないかとの危惧を感じていましたが、7月の数字はどう見てもその兆候を示している感じです。

アベノミクス以来の消費需要の不足による日本経済の低迷の根源である家計の消費支出の低迷から、ようやく脱出ムードに切り替わるかと見えた途端の消費支出の失速です。
これをこのまま放置することは出来ないとう強い思いから今日のブログを書いています。

GDPの半分以上を占める家計の消費需要ですから、これが伸びなければ日本経済は投資中心か財政主導の片肺飛行です。

その家計消費支出が2022年から、コロナ終息もあり、それまでの節約疲れもあったのでしょうかはっきり堅調に変わってきていました。
2人以上世帯の消費支出の年間伸び率(実質)で見れば2020年マイナス5.3%、2021年にはプラス0.7%そして2022年はプラス1.2%と確り回復基調でした。

2022年の春闘賃上げ率はまだ低迷でしたが、家計に消費意欲が出てきたことが感じられました。
それを見ているのが、このブログで追っている2人以上勤労者世帯の「平均消費性向」(手取り注入の何%を消費支出しているか)です。図示してみます。

     2人以上勤労者世帯の平均消費性向の推移(%)

                   資料:総務省統計局「家計調査」

柱の色は青2021年、赤2022年、緑2023年で、各月の%(平均消費性向)が並んでいます。
2022年赤の柱は、3月と11月を除いて2021年の青の柱より高くなっています。これは収入に比して消費支出が増えた事、つまり、節約ばかりではなく、少し生活を良くしようというムードが出て来た事の表れでしょう。

ところが最近に至って、様子が変わってきました。
今年は春闘賃上げも前年を1ポイント以上上回ったようですし、コロナも5類になったので、人の動きも活発になりました。
しかし昨年、前年比プラス1.2%まで回復してきた年間実質消費支出の伸びが、急速に落ち込み、月毎では、ことし6月は対前年でマイナス4.0%、7月にはマイナス5.2%です。

これは勿論消費者物価が異常な上昇をしているからですが、恐ろしいのはここに来て名目の消費支出も対前年で減って来ている事です。
3月までは名目では増えていましたが、4月以降は名目支出額も一貫して前年比マイナスになり、想像すれば「春闘賃上げもあの程度で、この物価高ではやっぱり節約するしかない」という気分でしょうか。

上の図の勤労者世帯の平均消費性向で見ても、緑の柱が赤い柱より高くなる月が無くなってくる気配です。

これが「1億総節約」への逆戻りの兆しとすれば、日本経済に回復のチャンスはないという事になりかねません。それではあまりに経済無策に過ぎます。

政府も、日銀も、アカデミアも、企業も、消費者も、日本経済の中の何がおかしくてこんな事になるのか、本気で考える必要がありそうです。

直接税(所得税)と間接税(消費税)どう違う

2023年09月06日 15時08分46秒 | 経済
前回、消費税は付加価値税で、各事業所の作った付加価値の額に応じて10%(食品8%)の税金がかかるという書き方をしました。

事業者としては、矢張り売り上げの中から払うので、仕入れの分については控除されますが、事業所の負担になるという見方から、そうした書き方をしました。

しかし税の性格としては、消費税は間接税ですから、本当は、事業所の仕事とは関係ないのです。

皆様が最も付き合い深いガソリン税の場合を考えれば解りますが、間接税というのは、政府の決めた税金を各事業所が「徴税代行」をして、後から纏めて政府にお届けするという作業をしているという事なのです。

ガソリン税の場合は、金額で1リッター53.8円(=揮発油税48.6円+地方揮発油税5.2円)顧客から預かって、後から纏めて政府にお届けするという、いわば「徴収代行」です。
リッター170円というのは、いわゆる内税方式の表示です。(なぜ外税にしないのかは、税金があまり高いので、政府が表示しにくいから?)

消費税の場合はあらゆる物・サービスにかかるので、額でなく率で10%、8%と一律に決まっていますから、事業所本来の価格と消費税分を別にし、この分は税金で、うちの事業所の収入ではありませんと解るように外税が原則になっているようです。

前回のブログでは、そんな意味で、事業所の所得の中から税金を払うという感覚でも容易に理解できることを願って内税方式の表現になっています。

最後のところで、消費税は間接税ですから、課税対象が付加価値で、付加価値は「人件費+利益」で人件費には所得税、利益には法人税がかかっていますが、二重課税とは言わないという説明になっています。

インボイスは、事業所本来のビジネスと、税金の徴収代行の部分を正確に区分しようという「制度の徹底」に必要なものという位置づけになるのです。付加価値を作っているのに付加価値税(消費税)を払わない(徴税漏れ)といったことがなくなります。

また統計上の大きな違いは、消費税の場合は、税率が上がりますと、その分だけ物価が上がることです。消費税2%の増税は消費者物価の2%上昇を齎します。
若し2%上らなければ、「消費税を自腹で負担した事業所がある」事が解ります。

直接税(所得税)か消費税(付加価値税)かの選択は、その国の政策方針によります。
直接税では累進課税などで付加価値(国民所得)の再配分を実現し、資本主義の問題点である格差社会化の阻止が可能です。

付加価値税については、いわばみんなに一律です(逆進性があるという意見もありますが)。しかし世界に共通な意識として、その使途は社会保障中心という、いわばコンセンサスがあり、矢張り格差社会化の阻止に、その使途の面で大きな役割を持ちます。

しかし、所得性にしても付加価値税にしても、課税の対象は、その国の国民所得(人件費と利益)ですから、国民所得が増えない事にはゼロサムの世界になってしまいます。

30年間も殆ど成長がなく、ゼロサムの中での格差拡大で、国民の忍耐強さで何とか支えられてきた日本です。
今後は、その力を前向きの成長、発展、国民所得の拡大に使うという大転換が必要です。その実現のための知恵と力を持つ政府を作ること、これが今、日本国民に与えらえられた最大の課題でしょう。

「インボイス」は解りにくいと言いますが

2023年09月05日 14時24分09秒 | 経済
1988年に消費税が導入 (当時3%) された時からの議論だったインボイス制度が、2023年10月から実施になります。
税金を取るなら「キチン」と取ろうというのがこんなに難しい事とは思いませんでした。

日本では消費税と言いますが本来は「付加価値税」というべきだったのでしょう。インボイス制度を採っていないのはOECD加盟国ではアメリカと日本だけと言われていました。

ヨーロッパ主要億は付加価値税率の高いことで知られていますが、付加価値税は本来社会保障の財源という意識が強く、それだけに確りした徴税をしなければという考え方が強いのでしょう。

日本では、最初に消費税という呼び名で導入された時から、小規模事業者などから制度が解りにくいという意見があって、導入を急ぐ政府が、小規模事業は免税という便法をとったことから、今でも課税売上年1000万円未満の事業者は免税です。

そのため、「益税」が巨額になるといった議論が付いて回りました。
また前回の引き上げで基本税率が10%になってから、食品については8%という2種類の税率が併存することになったため、誤りが多いなどの指摘も増えたようです。

今回のインボイス導入は、複数税率の混乱を避けるという理由が言われていますが、政府としては益税問題の解決も重要なことでしょう。

もともと所得税や財産税が主体だった税制に、付加価値税という新たな税金を導入したのは、弱肉強食の資本主義に社会正義の理念も取り入れて、格差社会化を抑制、社会の安定を図るという重要な政策目標があったのでしょう。

であれば、税の仕組みは出来るだけ簡素で国民に解り易く、しかも納税者に適切公正な制度でなければならないというのがその理念であるべきで、そのためにはインボイス制度は必須だったはずです。

付加価値税はその名の通り、国民の働きで創出された「付加価値」に均等に一定割合を課税し、それによる税収を社会正義を重視する社会保障の財源に、という意識の下に、(GDPから減価償却を差し引いた)「国民所得」=「日本経済の純付加価値」の一定割合を税収として政府が確保するというシステムです。

そのために、原材料の輸入・生産から、材料部品の加工、最終製品の生産、その販売、サービスまで、経済活動の各段階で創出された付加価値に正確に課税する必要があります。
インボイスはその把握のために本来必須な、それぞれの事業所で「創出された付加価値を確認し正確に課税する手段」なのです。

基本原理は「売上-仕入」が付加価値ですから、税率が10%であれば、税額は、【「売上-仕入」×0.1】で、これは売上げの10%から「仕入れ」の10%(仕入れ先が払った分)を差し引いた額になるわけです。

ところで、付加価値は「人件費と利益」に分配されます。
日本全体の付加価値は国民所得で、これは「雇用者報酬と営業余剰」に分配されます。
付加価値を構成する2大要素の人件費には所得税がかかり、利益には法人税がかかります。

付加価値税は、その合計額に改めて課される税金です。しかし、所得税、法人税は直接税で、付加価値税は間接税で、課税の仕方が違うので、二重課税とは言わないようです。

余計なことまで書きましたが、税金はきちんと納めましょう。

そごう・西武労働組合のストライキの示唆するもの

2023年09月01日 15時45分53秒 | 経済
今回の「そごう・西武労働組合」のストライキについては、従来の日本企業の在り方、日本的労使関係の在り方の中で考えますと、大変解りにくい事になっているように感じられます。

「そごう・西武」という企業は「セブン&アイ・ホールディングス」傘下の企業です、持ち株会社であるセブン&アイ・ホールディングスが、アメリカの「フォートレス・インベストメント・グループ」というファンドに9月1日に「そごう・西武」という会社を売ることが決まっているのです。

ストライキは8月31日池袋の本店で行われました。マスコミは、池袋の東口の顔がどうなるのか心配とか、長いなじみの西武百貨店はどうなるのでしょうとかいう街の声を拾っていました。

「そごう・西武労組」の最大の心配は当然、雇用の安定です。
日本の企業同士の話であれば、雇用の問題については事前に十分に話し合って、というようなことで、納得ずくの中で労使関係・雇用問題とったことも話し合われ、労働組合の意向も尊重されるのが当然と考えられます。

しかし、この話は、セブン&アイ・ホールディングスとアメリカのフォートレス・インベストメント・グループの間でのことで、「フォートレス」はアメリカのトップクラスの不動産の投資ファンドという事ですから、雇用安定の話も多少はあったようですが、組合の心配は大きいでしょう。

池袋の顔というすぐれた立地です。日本の地価はこれから騰がりそうといった客観情勢も考えれば、不動産投資ファンドの考えることは解っているという意見も多いでしょう。

勿論「そごう・西武」の経営陣がどうなるかという事も含めて、セブン&アイ・ホールディングスが労組のストライキなどは無視して、企業そのものの売却を決めるように、労組の手の届かないところで、物事が決まっていくようなことが当然心配でしょう。

考えてみれば、かつてバブルのころ、アメリカからM&A(企業その物の売買)という概念が入って来て、1997年には、戦後禁止されていた「持ち株会社」が解禁され、環境は整ってきたという事でしょうが、日本における企業の概念は欧米とはいささか違うのです。

欧米の場合、企業というのは、端的に言って、利益を生み出す組織なのです。
ですから、利益を生み出すし企業には高い値段が付き(高い時価総額)利益を生まない企業の場合は逆になります。当然売買の対象として考える物となるわけです。

しかも、会社は基本的に株主のものなのです。ですからファンドというのは、会社の売買で利益を出すのが仕事なのです。(人員削減で利益を出すのも一般的です)

日本の場合は、企業は基本的に人間集団です。人間が集まって、資本を集め、設備を整え生産をして社会の富(付加価値)の生産をするのが企業です。

伝統的には、企業は、経営者と従業員が主体のシステムで、出資者は、投資収益を得るために狙った会社に投資するお客さんなのです。

この違いからいろいろな問題が生じるのでしょう。
バブル当時、日経連会長だった鈴木永二さん(三菱化成会長)が、「M&Aは日本にはあまり向かないのではないか」と言っていたのを思い出します。

「そごう・西武」のストライキについて連合のメッセージは、
「団体交渉において、事業継続や雇用確保のあり方について、納得できる説明がなされていないことなどが実施の理由となっている。組合員が雇用不安や生活不安を抱えている状況を憂慮し、経営側に対し、真摯な労使交渉を通じた早期の事態収拾を強く求める。」です。

些か表面的です。もうすこし突っ込んだメッセージが欲しかったような気がします。

三題噺:インフレ、円安、経済政策

2023年08月31日 14時57分30秒 | 経済
<インフレ>
去年、原油の値段が上がってアメリカやヨーロッパも8%とか10%のインフレになりました。その後下がって来て、アメリカでは3%台に落ち着いています。

しかしFRB議長のパウエルさんは、インフレについて大変心配性のようで、インフレマインドが消えない内は、金利を引き上げると牽制して、徹底的以インフレを抑えようという事のようです。

アメリカやヨーロッパでインフレが激しくなるのは、物価が上がると賃上げ要求が激しくなって、賃金が上がり、それでまた物価が上がるという悪循環になるからで、日本の日銀に当たるFRBが金利を引き上げて、経済活動の過熱を抑え、賃金も物価も安定させるという政策を取ることになります。

パウエルさんはインフレに厳しいので、まだインフレ再発の懸念があるから金利を引き上げるという気構えをなかなか変えません。

一昨日ですか、アメリカでは雇用統計が発表になって、雇用が増えないようだから賃金も上がらずインフレ懸念も薄らいだという見方が出て、パウエルさんもすこし安心したと伝えられ、金利引き上げがなさそうだという事でNYダウも日経平均も 上げています。

<円安>
お陰で147円まで行った円安も145円台に戻していますが、本来なら110円~120円とみられる円レートが150円近くまで円安になったのは、日本はゼロ金利、アメリカではドンドン金利が上がるという事で、利息の付かない円を売って利息の高いドルを買う人が増えるからです。

アメリカのインフレを抑えるというFRBの政策が、そのトバッチリで日本では円安が進行し、原油が値上がりしているのに加えて、円が安くなるのですから輸入原油の円価格はますます高くなります。

円安になった分だけ原油もLNGも、大豆や小麦、トウモロコシなどもみんな値上がりするのですから、アメリカはそれでいいのかもしれませんが、日本はたまりません。

忽ちガソリン価格はリッター185円になり、運送会社も自家用車族も大変です。加工食品や調味料の値段も10%近く上がるものもあって、今度は日本がインフレです。

<経済政策>
アメリカの都合で、日本がインフレになっても、アメリカは全く気にしません。アメリカから買う防衛装備品の値段も円安で随分上がるでしょう。アメリカはドルの値段は同じですというでしょう。

もともとインフレでない日本では日銀は金利引き上げなどしませんから日本の経済はアメリカの都合次第という事になります。

大体、原油値上がりで賃上げをし過ぎてインフレになって、それを金利引き上げだけ(金融政策だけ)で抑え込もうというのが経済政策としては良くないのです。

原油値上がりが忽ち賃上げに繋がるのは、国民が慌て者だからで、政府が合理的な説明をして、国民が慌てないようにし、インフレを未然に防止して、外国に迷惑をかける金融政策に依存するようなことを最小限にすべきでしょう。

変動相場制の中でも為替の変動を最小限にするような行動をアメリカのような基軸通貨国は取るべきなのです。これはG7やOECDの課題ですね。

そんなことは、日本は1973年の第一次石油危機の経験に学んで、きちんとやっているのです。
アメリカにも、もう少しお行儀のいい国になって欲しいところです。

2023年度版の経済財政白書が発表になります

2023年08月30日 14時56分40秒 | 経済
今年は日本経済がなんとか動き出した年ですので、政府がどんなふうに見ているかと思い、ネットで内閣府の「説明資料」を見てみました。(「白書」は予約受け付中)

副題が「動き始めた物価と賃金」ですから、今年にぴったりです。
3章からなり第1章「マクロ経済の動向と課題」、第2章「家計の所得向上と少子化傾向の反転に向けた課題」、第3章「企業の収益性向上に向けた課題」です。

第1章は概観で、2022年度までがベースですから「個人消費、設備投資が持ち直し、緩やかな回復との見方です。
コロナ明けで対面サービスも回復、インバウンドも増えて、23年1-3月期までの直近のGDPの順調な伸びが図示されています。

昨年から始まった消費者物価の上昇については、価格改定の頻度が上昇していること、労務費との関連が薄いなど的確な指摘がありますが、これを長く続いたデフレマインドの払拭に繋げることが重要との指摘は、もう明らかにインフレなので些か違和感です。

第2章では賃金上昇については、生産性の上昇が前提として、そのためには労働力の適材適所配置が重要で、労働移動の活発化、リスキリングで賃金上昇と「働き方改革」路線推奨が歴然で、これは些か問題でしょう。(これは有能な人材中心の話)
日本では、それを企業内で出来るのが一番の得意技という実体の理解不足でしょう。

女性の正規社員が増えると賃金水準が上がるといった面白い指摘もありますが、賃金カーブがフラット化しているので資産所得を増やそうという指摘は、NISAの宣伝にも聞こえます。(貯蓄も出来ない家計も多いのです)

少子化の原因については、未婚率の上昇が指摘され、それはその通りですが、なぜ結婚しないかが問題で、これは日本をそうした社会にした歴代政権の責任でしょう。

第3章では、先ずバブル崩壊以降の生産性の伸びの低さが指摘され革新的な開発力やブランド形成力不足などが指摘されていますが、調査期間があの円高不況の時期に当たり、企業はコストカット、政府は赤字でも財政性支援に大わらわという時代を考えれば無理は自明です。

その中でも基礎研究は、辛うじて何とか続けて来ている日本ですから、これからは、政府自身が、防衛予算の捻出ばかりでなく、的確な経済政策をきちんととやることを願いたいと思います。

最後にマークアップ率についても取り上げています。これは「自分で価格を決められる力」で、高い利益率の源泉ですから、余程いい商品を持っていないとできません。

日本の場合は、輸入原材料の価格が上がっても、なかなか値上げが出来ず、利益を減らして我慢といったことで利益率が低いという指摘です。しかし「言い値で売れるような商品を持ちましょう」という気概は解るとしても、いろいろ難しいですね。

せめて、輸入価格が上がった時の価格転嫁をスムーズにというのが今の日本でしょうか。
ガソリンなど、は政府が補助金を出して値段を上げさせないとのことですが、それとこれとはどんな関係になるのでしょうか。 

一方で、惣菜や、加工食品、調味料、飲料などは国内でも、年率10%前後の上昇率になっています。こういうのが望ましいという事ではないと思いますが、今の日本経済はいわば、プラザ合意、リーマンショック、アベノミクス、それにコロナ禍で30年もゼロ成長という大病の病み上がりですから、大分歪んでいます。これからの経済・財政政策の王道を、本気で確りやって頂きたいと思うところです。

「円安と経済政策:忘れられた賃金」雑感

2023年08月28日 14時16分29秒 | 経済
前3回の上の表題のテーマで、為替レートと物価と賃金の問題は、日本においては、政府や日銀も、アカデミアも余り的確に整理されていないのではないかという感じを強くしていました。

最初は、古い話ですが、プラザ合意による円高の際、日銀は、円高は良い事と評価していた事に疑問を持ちました。しかし円高はデフレを招き日本経済を長期不況にしました。
これは、白川総裁の末期までつづき、白川総裁は2012年ごろ気が付かれ『1%インフレ』を提起しています。

その間には、2008年のリーマンショックがありました。そしてバーナンキさんが「世界恐慌は金融緩和で救える」との信念のもとにゼロ金利政策を取りました。
世界恐慌にはつながりませんでしたが。ドルは大幅安になり、日本は円レート75円の円高で、日本経済は経済は再起不能になりました。

アメリカは「金利政策は、為替政策ではない」という意見のようですが、現実は最強の為替政策になっています。

白川さんから替わった黒田日銀総裁は、アメリカに倣ってゼロ金利を導入、円安を実現して日本経済を再生させる事を安倍さんに託されたのでしょう。

黒田バズーカと言われる異次元金融緩和で$1=120円の円安が実現します。政府も日銀も、円安になればすぐにインフレになると考えていたようで、2%インフレターゲットは2年ぐらいで達成と考えていたようです。

所がインフレにはならずアベノミクスは前提条件が崩れ、財政偏重で世界一の借金財政で支えても日本経済はゼロ成長を続け、今に至っています。

そうした中で、昨年から国際資源価格などの高騰で、世界的にインフレが加速します。主要国では10%前後に達する状態になりました。

その中で日本は3%台のインフレと低インフレですが、日銀はこのインフレは、2%のインフレターゲットとは違うとゼロ金利を変えていません。

一方、主要国は、アメリカ主導で、インフレを抑えようと軒並み金利を引き上げ、おかげで日本は円安が急激に進行、インフレが収まりません。

賃上げと円安の関係の把握が不十分の日本は実質賃金の上昇が長期に亘ってマイナスですが、政府、日銀も「先行きを注視」するだけです。

ここ3回で、何故こんなことになったか、どうすべきだったのか、これからどうすべきかのヒントを拾ってきたつもりですが、少しは役に立つのではないかと思っているところです。

「円安と経済政策:忘れられた賃金」雑感

2023年08月28日 14時16分29秒 | 経済
前3回の上の表題のテーマで、為替レートと物価と賃金の問題は、日本においては、政府や日銀も、アカデミアも余り的確に整理されていないのではないかという感じを強くしていました。

最初は、古い話ですが、プラザ合意による円高の際、日銀は、円高は良い事と評価していた事に疑問を持ちました。しかし円高はデフレを招き日本経済を長期不況にしました。
これは、白川総裁の末期までつづき、白川総裁は2012年ごろ気が付かれ『1%インフレ』を提起しています。

その間には、2008年のリーマンショックがありました。そしてバーナンキさんが「世界恐慌は金融緩和で救える」との信念のもとにゼロ金利政策を取りました。
世界恐慌にはつながりませんでしたが。ドルは大幅安になり、日本は円レート75円の円高で、日本経済は経済は再起不能になりました。

アメリカは「金利政策は、為替政策ではない」という意見のようですが、現実は最強の為替政策になっています。

白川さんから替わった黒田日銀総裁は、アメリカに倣ってゼロ金利を導入、円安を実現して日本経済を再生させる事を安倍さんに託されたのでしょう。

黒田バズーカと言われる異次元金融緩和で$1=120円の円安が実現します。政府も日銀も、円安になればすぐにインフレになると考えていたようで、2%インフレターゲットは2年ぐらいで達成と考えていたようです。

所がインフレにはならずアベノミクスは前提条件が崩れ、財政偏重で世界一の借金財政で支えても日本経済はゼロ成長を続け、今に至っています。

そうした中で、昨年から国際資源価格などの高騰で、世界的にインフレが加速します。主要国では10%前後に達する状態になりました。

その中で日本は3%台のインフレと低インフレですが、日銀はこのインフレは、2%のインフレターゲットとは違うとゼロ金利を変えていません。

一方、主要国は、アメリカ主導で、インフレを抑えようと軒並み金利を引き上げ、おかげで日本は円安が急激に進行、インフレが収まりません。

賃上げと円安の関係の把握が不十分の日本は実質賃金の上昇が長期に亘ってマイナスですが、政府、日銀も「先行きを注視」するだけです。

ここ3回で、何故こんなことになったか、どうすべきだったのか、これからどうすべきかのヒントを拾ってきたつもりですが、少しは役に立つのではないかと思っているところです。

円安と経済政策:忘れられた賃金 2、企業収益重視

2023年08月26日 13時51分41秒 | 経済
前回は、今の消費者物価の上昇がなかなか止まらないという現実を見、その主要な原因が円安にある現状を指摘しました。

日本経済に相応しい円レートは、多分110円から120円でしょう。その辺りでもインバウンドは増えるでしょうし、主要輸出産業は適切な利益確保は可能でしょう。

現在の146円は円安に過ぎます。これがいつまで続くかはアメリカ次第でしょうが、それが消費者物価上昇の原因になって、現状のような実質賃金水準が下がりっぱなしといった問題が起きれば、それは消費需要の不振から経済成長にマイナスとなります。
という事で、経済政策としてはこれをどうすべきかという事になるわけです。

同時に指摘しなければならないのは、円安になった時の経済政策の中で、通常説明されているのは、輸入企業は購入価格高騰で損が出て、輸出企業は為替差益で利益が出るので、この企業努力と関係ない不公平をどうするかが中心ですが、それだけで良いのかという問題です。

政府が今やっているのは、原油が上ったら、ガソリン価格があまり上がらないように石油元売り企業に補助金を出し、その分ガソリン価格を安くといったバラマキ政策です。

輸出企業は為替差益が出ますから、今期は大幅増益になりますと発表し、証券業界がそれを囃して株価が上るという結果になって、それは良かったでいいのでしょうか。 

矢張りこれだけではまずいという事で、最近は、輸入企業は輸入価格上昇分を国内価格に適切に上乗せし、サプライチェーン全体で負担すべきという事になって、原材料価格、部品価格も上がって、完成品の価格も上がっています。

理論的にいえば、輸出入のバランスがほぼ取れている日本経済全体では、為替差損と為替差益の金額はほぼ同じで、正確に価格機構が働けば両者は相殺されて、損得は起きない筈で、円建てでは物価は円安分だけ上がり、ドル建てでは日本経済の価値(GDP)は変わらないという事になるのでしょう。

ところが、現実はかなり違っています。
円安になれば日本経済はコストが下がり国際競争力が高まって、輸出関連企業中心に業績が上がり日本経済は元気になって経済成長率も高まるから、円安は歓迎です。

逆に円高になると、プラザ合意やリーマンショックの様に、日本経済はコスト高になって、国際競争力を失い、コストダウンのための賃金引き下げとなり、日本経済は瀕死の重傷といった状態になるのです。

こういうことは広く知られていましたから、アベノミクスの第1の矢、日銀の異次元金融緩和で、円レートが80円から120円になった時、これで日本経済は回復と多くの人は考えたのです。

政府・日銀も、早晩インフレ率は2%になり、アベノミクス万歳となると思っていたのでしょう。安倍さんも「賃上げ」を言いました。
これも、本当に賃上げが必要というより、人気取り、支持率引き上げのためだった程度のように思われます。

結局、この期待は絵に描いた餅となり、物価も上がらず賃金も上がらず、企業の利益だけは増えましたが、日本経済はゼロ成長を続けることになってしまったのです。

何故、そんな事になって仕舞ったのかについては、ここまでの経緯の中にヒントがあります。
一口で言えば、円安円高の検討の際、論じられたのは企業収益が中心で、賃金問題が「忘れられていた」事でしょう。
(長くなってしまいましたので、次回確り論じたいと思います)

円安と経済政策:忘れられた賃金 1、物価動向

2023年08月25日 13時57分35秒 | 経済
今日総務省から8月分の消費者物価・東京都区部の速報が発表になりました。
今、経済問題で、国民の最大関心事は消費者物価のようですから、このブログでも毎月その動向を追っています。

特にこの所は、生活必需品中心に10%前後の年率上昇をしているものが多く、春闘賃上げがあっても実質賃金はマイナスといった状況が続いています。

昨年の消費者物価上昇は、長らく輸入物価上昇でも、消費不振が深刻で価格転嫁が出来なかった反動の上昇という思いが強かったようですが、今年に入っての上昇率の加速は円安による輸入原材料価格上昇の国内価格への転嫁という理由が強くなっています。

典型的にはガソリン価格で、昨日近所のスタンドで給油しましたが、会員は2円引きで177円/Lでした。これでも安い方かもしれません。
政府は「元売りに補助金」をという話ばかりですがそれでいいのでしょうか。

一方、日銀はこの物価上昇は一時的なもので、年末までには下がると見ているようですが、10月から値上予定が食料、飲料など6305品目(NHK「サクサク経済」)などというニュースを見ますと、それでいいのでしょうか。

春闘での政労使の議論以来、輸入価格上昇分は国内価格に転嫁すべしという事にもなったようで、円安で輸入価格は上がっています。

昨日のアメリカのジャクソンホール会議ではFRBのパウエル議長がインフレ圧力を指摘、米金利引き上げ懸念から円安に振れる一方、今日の日経平均は600円を超える下落です。

パウエルさんのインフレ懸念のしつこさから金利引き上げ懸念で円安傾向は続き、日本のインフレは収まらないという事になっているようです。
上述の、8月の都区部の消費者物価の動きは下図です。

    東京都区部8月消費者物価速報(対前年同月比:%)

                 資料:総務省「消費者物価指数」

という事で、消費者物価の上昇をこのまま「注視する」というだけで、政府・日銀としては良いのでしょうか、見ているだけでは駄目、という事になりそうです。
図中の緑の線は、アメリカでパウエルさんが気にしている消費者物価のコアコア指数に対応するもので、日本でもこれだけは上昇傾向が続いています。

輸入物価上昇分は、出来るだけスムーズに国内価格に転嫁しなさいと言っていると、円安が続く限りインフレは収まりません。
結果的に実質賃金はこれからもマイナス続きといった事にもなりかねません。

問題は2つあるようです。
1つは、円安をどうすするかです。アメリカの金利政策次第でいいのでしょうか。
2つは、円安による輸入価格の国内価格への転嫁という問題をもっと確り考えて、的確な政策を打たないと、実質賃金マイナス続きで、消費不振の片肺経済という事になりそうです。この対応策は如何にという問題です。

次回この2つを考えてみましょう。