「家庭の法と裁判」2018年12月号(第17号)(日本加除出版)に,堂薗幹一郎「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(相続法改正)の概要」が掲載されている。
「遺言執行者の権限の明確化」の論点において,「特定財産承継遺言がされた場合における遺言執行者の対抗要件具備の権限」が,これまでいま一つ明確ではなかったが,上記において,
「改正法では,特定財産承継遺言がされた場合に,遺言執行者は,原則として受益相続人のために対抗要件を具備する権限を有することを明確化することとしている(1014条2項。最判平成11年12月16日民集53巻9号1989頁参照)」(36頁)
と解説されている。
いわゆる「相続させる遺言」に基づいて,遺言執行者が受益相続人のために相続登記を申請することができる,という意味である。
もっとも,「改正法では,相続を原因とする権利変動についても,これによって利益を受ける相続人は,登記等の対抗要件を備えなければ法定相続分を超える権利の取得を第三者に対抗することができない(第899条の2)」(38頁)であるから,相続開始後速やかに対抗要件を具備することは,遺言執行者にとっては義務であるともいえるであろう。
なお,改正附則第8条第2項による経過措置では,新民法第1014条第2項の規定は,施行日前にされた特定の財産に関する遺言に係る遺言執行者によるその執行については,適用しないものとされている。
cf. 最高裁平成11年12月16日第2小法廷判決
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=57035
【判示事項】
特定の不動産を特定の相続人に相続させる趣旨の遺言がされた場合において他の相続人が相続開始後に当該不動産につき被相続人からの所有権移転登記を経由しているときの遺言執行者の職務権限
【裁判要旨】
特定の不動産を特定の相続人甲に相続させる趣旨の遺言がされた場合において、他の相続人が相続開始後に当該不動産につき被相続人から自己への所有権移転登記を経由しているときは、遺言執行者は、右所有権移転登記の抹消登記手続のほか、甲への真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めることができる。