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バーナンキ氏のノーベル経済学賞受賞

2022-10-12 19:55:00 | 人物
2022年10月10日に、スウェーデン王立アカデミーは2022年のノーベル経済学賞をベン・バーナンキ氏ら3人に授与することを発表した。

今回はこのアメリカの元FRB(連邦準備制度理事会(*1))議長だったバーナンキ氏のノーベル経済学賞受賞について数量政策学者である高橋洋一氏の解説をベースにして記してゆく。



高橋氏がアメリカのプリンストン大学に国費で留学していた1998~2001年に、バーナンキ氏はその大学の経済学部長であった。高橋氏はバーナンキ氏から経済学分野で多くを学び、そしてそれを日本で活かしたいと考えて2001年に帰国した。


バーナンキ氏の今回のノーベル経済学賞受賞の理由について記す。

バーナンキ氏は元々、アメリカで1930年前後に起きた大恐慌…非常に大きな経済変動があった時の研究をしていたのである。そのポイントは「金融機関…銀行が潰れると経済が大きくダメージを受けて、金融恐慌になってしまう」…といった研究であった。(*2)

高橋氏が留学した1998年の頃は日本の状態が酷かった関係で、バーナンキ氏は日本の論文もかなり書いてたのである。当時、日本政府は批判に晒されてやられる一方であった事で、これについて高橋氏はバーナンキ氏と議論する必要性を感じて色々とやりあったそうだが、結局バーナンキ氏の意見に正当性があると感じたそうである。

今回のノーベル経済学賞は、その大恐慌の研究を生かして2008年くらいにあったリーマンショックにFRB議長として上手く対応した(*3)事と、最近のコロナショックに対してバーナンキ氏の話を参考にしながら対応したことで上手く切り抜けられたこと・・・これらが受賞の理由になった、ということだ。


従来のノーベル経済学賞の場合、普通は「研究」に対する評価なのだが、今回はそれが「実社会に役に立つ」という事で受賞したのである。その意味で従来とは若干意味合いが変わるノーベル経済学賞と言えよう。だが、机上の理論だけではなくて、それが実利的と言うか、社会・世間に役に立つ経済学でなければ意味がないのは言うまでもない。バーナンキ氏も「学問でやっててもしょうがないんだよな」といった事は年中言っていたそうである。



次に日本のマスコミ、中でも日本経済新聞について記す。

このバーナンキ氏のノーベル経済学賞受賞の話について、実は日本経済新聞は立場的に恐らく書くことができないであろう。少なくとも、どう書いていいか判らないのではないだろうか。

なぜか。

日経が主張する話をバーナンキ氏はことごとく否定するケースが多かったからである。つまり、「日経が間違っている」、ということだ。

どういうことか。

高橋氏が記憶しているものでは、バーナンキ氏来日時の講演に際してバーナンキ氏は高橋氏に対して

「洋一、何か良い(講演の)題材はないか?」

と聞いた。

そこで高橋氏は考えて

「日本の場合、実は”中央銀行の独立性”というものが全然理解されてないんです」

と話した。

中央銀行の独立性をアバウトに言うならば、日経ならば

「日銀が政府から独立して色々なことをやる」

といった書き方をするのが普通である。

だがしかし・・・

本当はそうではないのだ。世界の標準は”それじゃない”のである。

これは日本語表記でも英語表記でも明確に区別しているのだが

・目標の独立性
 [GOAL INDEPENDENCE]

・手段の独立性
 [INSUTRUMENT INDEPENDENCE]


という2つの概念があって、これは区別して捉えなければならないものである。

日経はここが全く理解出来ていないので、「中央銀行が全部政府から独立してやる」一辺倒なのだ。英語で言うなら「GOAL INDEPENDENCE」の事しか言わないのであり、それで全部なのである。

しかし、バーナンキ氏は

「中央銀行には GOAL INDEPENDENCE はない。あるのは INSTRUMENT INDEPENDENCE だ」

という言い方をしているのだ。

ここが日経と全く異なっているのである。

高橋氏はここに着目して、バーナンキ氏にテーマとして提示したのである。

そして、講演はどうなったか…。

バーナンキ氏は日本に於ける講演で、英語だが、これについて完璧に語ったのである。

「中央銀行には GOAL INDEPENDENCE はなくて、INSTRUMENT INDEPENDENCE である」

…と。

つまり、

「目標は政府が与えるのだが、日々のオペレーションだけは中央銀行は独立してできる」

ということだ。いわば、「親会社と小会社の関係」と同じなのである。

面白いのは、このバーナンキ氏の講演について日本経済新聞は記事にしたのだが、上述の「独立性」に関する部分だけがスッポリと抜け落ちていたのである。(笑)
日経は自社の主張がバーナンキ氏に依って真っ向から否定されてしまい、このテーマについては書けなかったのだ。実にみっともないことこの上ない。(草)


日経について、もう一つ…。


「ヘリコプターマネー」というのがある。
これは、一般的には「ヘリコプターからお金をばら撒く」というイメージで捉えられるものだ。

だが、本当はそうではないのである。

ヘリコプターマネーの真実は下記の通りだ。

「政府は国債を出す。一方で中央銀行はその国際を買い受ける。そうすると財政政策と金融政策の両方できる」

これが「ヘリコプターマネー」である。

しかし日経などはそれを揶揄する為に本当にお金をばら撒いているようなイメージの漫画で描いてみせるのだ。これは完全に間違いなのである。日経はバーナンキ氏の論文も読んでいないのであろう。「ヘリコプターマネー」と言うと「ハイパーインフレになる」と言って煽ったのが日経なのである。

ヘリコプターマネーは、バーナンキ氏がリーマンショックなどでやったのだが、後にコロナショックでも似たようなことは行われている。実際、これでアメリカは救われたのである。

その時、日本はどうだったのだろうか。

リーマンショックの時には白川日銀総裁で全く出来なかったのだ。その後、いいチャンスがあったのは東日本大震災の時だったが、この時も民主党政権だったので出来なかったのである。

いわゆるヘリコプターマネー・・・これを日本でやったのは安倍政権の時のコロナショックである。安倍氏はそれを「政府日銀の連合軍」という表現をしたのだ。

バーナンキ氏から高橋氏に教授された話をリーマンショックの時は実行できなかった。ちなみにこの時は麻生政権であった。東日本大震災時は民主党政権で出来なかったのだが、安倍政権が誕生してから、高橋氏が当時の安倍総理に「こういうのがありますよ」と進言したところ、出来たのである。

肝心なのはそれで結果が出たのか?…である。

出たのだ。

結果として、コロナショックの後に

「世界でも日本だけは失業率が全然悪化しなかった」

…のである。きちんとやればこうした結果が出るのだ。

それ以前も良きチャンスはあったのだが、日経が「こんなの駄目だ」と言って邪魔をするので出来なかったのである。しかし、それでも結果的に安倍氏は”やった”のだ。


こうした経緯の全容はそのまま「日経よく読む、馬鹿になる」の所以であることが実感されるところだ。

このような理由で日経はバーナンキ氏のノーベル経済学賞受賞について、バーナンキ氏本人にうまく取材することはできないであろう。(蔑笑)(*4)




最後に日本の経済学界隈について記す。


日経のバツの悪さは日本の経済学者たちも総じて同じである。日本の経済学者はみんなバーナンキ氏のことを結構小馬鹿にしてたのである。それにも関わらずノーベル経済学賞を取ったのだから大変なことだ。報道を見ると、この受賞に文句を言っている軽佻浮薄な経済評論家や学者の記事が目立つようだ。中にはノーベル経済学賞自体の存在意義に言及している学者も居る。よほど悔しかったのだろう。バーナンキ氏本人を否定できなくなったのでノーベル経済学賞に矛先を変えたのだ。(馬鹿馬鹿しくて森)

バーナンキ氏の学説、またはそれに沿った事を発言すると、日本では変な扱いをされるのだ。甚だ妙であるが、これが日本なのだ。その意味でマスコミも経済学会も同じである。

日本の経済学会メンバーではノーベル経済学賞はまず取れないであろう。バーナンキ氏が来日した時に、高橋洋一氏は彼に会うのだが、日本の経済学者は彼に会わない、会おうともしないのである。

例えば、ヘリコプターマネーみたいな、ある種の俗説的な話をバーナンキ氏はきちんと理論的に語ることができるのだ。そして、それを揶揄するのが日本なのである。情けないことだ。なぜこうなるのだろうか。日本の経済学者は知的水準が低いのであろうか。得てしてその種の人々は間違った意見をそのまんま吹聴して恥じないところが凄いのだが…。(蔑笑)


なにしろ、日本の学者が小馬鹿にしていた人がノーベル経済学賞を受賞したのだ。これは厳然たる事実である。(*5)




高橋氏は安倍政権に於いて安倍総理に数多の経済政策の進言をしていたのだが、安倍氏に対して「この政策の理論的基礎はバーナンキです」と説明していたそうだ。実際、それでうまくいった経済政策は多い。

今回のバーナンキ氏の受賞については、天国の安倍氏もきっと喜んでいるであろう。







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(*1)
アメリカの中央銀行…日本で言う日本銀行に相当する。

(*2)
1930年代の世界恐慌を題材に分析・研究した。銀行取り付け騒ぎが起きる理由について、利用者みんなが「銀行が潰れそうだ」と思うからであり、そうなると銀行は預金の引き出しに備えて企業への貸出を渋ってしまう。それで経済全体にお金が回らなくなる…簡単に言えば、そのような事を言ったのである。それが今回評価されての受賞となったのだ。この内容は現在では常識的な話だが、これを最初に指摘したのがバーナンキ氏である。マネーの役割を重視したのである。
一方、日本では日銀があって当時は白川総裁の体制であった。白川総裁は、日銀であるにも関わらず、「日銀にはマネーをコントロールすることができない」とした。これは括弧付きの日銀理論と呼ばれて、長らく如何なものかと考えられていた。それでも、日本では白川日銀の言い分が主流だったのである。そのおかげで日本は金融緩和せずに20~30年間の不況に陥ったのだった。

(*3)
バーナンキ氏は2006~2014年にFRB議長であった。この時にリーマンショックが来たのだが、この時、日本では白川氏が日銀総裁であった。危機に対する対応が全く対照的であったのだ。

(*4)
高橋洋一氏は日本人の中で最もバーナンキ氏をよく知る人物であるにも関わらず、それでも何の取材も無かったそうだ。もっとも取材したら「日経がバーナンキの講演をバサッと落とした」などと言われかねないからだろう。(笑)

(*5)
ちなみに、留学時代の高橋氏の周囲にはバーナンキ氏だけでなく、例えばポール・クルーグマン氏なども居た。クルーグマン氏もノーベル経済学賞を受賞している学者であり、当時はプリンストン大学の教授であった。