田中川の生き物調査隊

平成12年3月発足。伊勢湾に注ぐ田中川流域の自然と生き物を調べ、知らせる活動をしています。三重県内の生き物も紹介します。

コカスリウスバカゲロウ幼虫

2009-03-26 | 田中川
コカスリウスバカゲロウ幼虫
アミメカゲロウ目(脈翅目) ウスバカゲロウ科 コカスリウスバカゲロウ 小絣薄羽蜉蝣 Distoleon contubernalis (MacLachlan, 1875)

田中川干潟に近い芦原海岸で、イネ科植物の株元に何か居ないかと探していると、砂の中からウスバカゲロウ科の幼虫が出てきた。いわゆるアリジゴクの仲間である。今まで見たことが無いアリジゴクだったので、いろいろと調べてみた。

学研の『日本産幼虫図鑑』にウスバカゲロウ科5種の幼虫の頭部斑紋が図示されている。ウスバカゲロウ科の幼虫は頭部の黒褐色の斑紋の違いによって種が同定できるという。頭部は背面も腹面も種によって斑紋が異なる。絵合わせにより、コカスリウスバカゲロウの幼虫であることが判明した。

ある図鑑によれば、「成虫は7~8月に現れ、砂中に20卵ほどを産み、幼虫は海岸の松の稚樹の下など砂地に棲み、噴火口のような孔をつくらず、前後に進むことができる。本州、四国、琉球に分布」

松良俊明著『砂丘のアリジゴク』によれば、
コカスリウスバカゲロウは「巣穴をつくらずに砂の表層部に潜むタイプのアリジゴクである。」
「頭部の形がかなり異なっている。四角張った頭部の先に集眼が飛び出たように付き、大顎はややスリムでそこには剛毛がほとんど生えていない」
砂丘性のアリジゴクには、オオウスバカゲロウとコカスリウスバカゲロウが巣穴を作らないタイプで、ハマベウスバカゲロウとクロコウスバカゲロウが巣穴を形成するタイプ。オオウスバカゲロウは大型種で終齢幼虫の体長は2センチを越え、海浜植物が疎らに生えている辺りに幼虫がくねくねと動いた跡が砂上で見られるという。クロコウスバカゲロウは小型種、コカスリウスバカゲロウは中型種。
「ハマベウスバカゲロウの全国的な分布は、現在のところ新潟県を中心とした海岸砂丘と鳥取砂丘に限るとされている」
コカスリウスバカゲロウを一回り大きくしたような灰褐色のアリジゴクにカスリウスバカゲロウ(3齢幼虫の体長15~17ミリ)もいて、巣穴を持たないタイプで乾燥した砂原にいると思われている。
アリジゴク時代のウスバカゲロウ類の幼虫はウンコをしない。羽化のとき、翅を完全に伸ばしきった成虫の尾端から、長細い一つの固まりが落とされる。アリジゴク時代に溜め込んだ宿便である。

京都府では要注目種とし、「幼虫は海岸砂丘や砂原などの日当たりの良い砂地の表面下で餌を待ち伏せしている非営巣性アリジゴクである」と解説している。
福井県のレッドデータブックでは県域準絶滅危惧とし、「河川や海岸の砂地特有の種で,幼虫は徘徊型の生活をしており,ほかの昆虫類などを捕食する」などと解説している。

次の文献はPDFファイルで読める。
田中俊彦(1979) リュウキュウホシウスバカゲロウ Glenuroides okinawensis OKAMOTO の幼虫について,昆虫,47:213-221.
この文献によれば、
リュウキュウホシウスバカゲロウは, 瀬戸内海の沿岸の砂の中にも生息することが明らかになった.
1. 幼虫の形態および生息場所は, コカスリウスバカゲロウのそれと類似する.しかし, これらの両種は, 大顎の鈎と体の色, 頭部の側縁紋, 腹部下面の紋から区別できる.
2. 幼虫は瀬戸内海沿岸の自然海岸のマツ, ススキ, ヨモギなどの植物の根の周辺の砂の中に局所的に分布する.ときどき, コカスリウスバカゲロウのそれとの混交がみられるが, 両種問にはすみわけが認められる.
3. 幼虫は, 前進および後退運動によって移動し, 巣穴をつくらず, 砂の中で餌動物を待ち伏せしている.外的刺激にたいしては, コカスリウスバカゲロウの幼虫より強い擬死反応を示す

先の『砂丘のアリジゴク』では、リュウキュウホシウスバカゲロウ=ホシウスバカゲロウとの同種説を唱えているが、未確定要素もあるようだ。

なお、『砂丘のアリジゴク』の著者である松良俊明先生が「アリジゴクの世界」というホームページをつくっているが、大学の先生のこのようなホームページは退官されると消えてしまう可能性が高いので、今のうちに名前をつけて保存しておこう。

さて、私たちの海岸には何種類のウスバカゲロウ類が生息しているのであろうか。調査はこれからだ。楽しみはいくらでも湧いてくるが、とりあえず2年間は頑張ろうと思っている。
2009.3.24

コカスリウスバカゲロウ幼虫

コカスリウスバカゲロウ幼虫

コカスリウスバカゲロウ幼虫

コカスリウスバカゲロウ幼虫

コカスリウスバカゲロウ幼虫
吸収顎(きゅうしゅうがく)は大顎(おおあご)と小顎(こあご)が癒着して管構造となったもので、獲物に刺して体液を吸う。背面からでは小顎は見えないので、一般的に大顎と呼んでいる。前脚は最も短く、中脚は最も長い、後脚は腹の下に隠れて見えない。眼は7個の単眼が集まった集眼と呼ばれるもので、光量の差を感知して、獲物の動きを捕らえることが出来ると考えられている。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿