川口保 のブログ

1市民として市政を眺めつつ、社会のいろいろな出来事を取り上げています。

荒川区が取り組む「荒川総幸福度(GAH)」

2014-02-26 17:29:24 | 日記
 東京都荒川区。東京都の北東部に位置する。区の面積10㎢に人口21万が住む人口密度の高いまちです。古くからの歴史や下町情緒を残しつつ、懐かしさと新しさのある街づくりが進められています。

◆松阪市議会市民民主クラブで荒川区を視察
 私たち松阪市議会市民民主クラブで2月に、この荒川区が取り組んでいる「荒川区民総幸福度(GAH)」について視察させていただいた。
 私たち市議会議員の視察では、どこの市でも担当職員から視察内容の説明を聞く前に、議長または副議長、あるいは議会事務局長等が挨拶をされ、首長が視察の場に出られることはまずありません。荒川区の視察では西川太一郎区長が出ていただいて挨拶された。荒川区の荒川区民総幸福度(GAH)の取り組みは、この西川区長なしでは語れない。

◆ブータンの国民総幸福量(GNH)
 荒川区の荒川区民総幸福度の手本となったのが、ブータンの「国民総幸福量(GNH)」です。東日本大震災のあった平成23年(2011)の11月に、アルプスの人口70万人の小さな国ブータンから、若きジグミ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王がジェツン王妃とともに来日された。新婚1ヶ月のさわやかな国王夫妻でした。
 ブータンは大変な親日の国で、東日本大震災のあと多くの国民が日本国民のために祈りを捧げたという。そして来日された国王は国会で演説されたあと、被災地のために祈りを捧げたということです。

 ブータンの国内総生産(GDP)は14億ドル(2011年)で、日本では人口5万人規模の市町の経済規模であり、国民1人当たりのGDPは2121ドルと世界平均より大幅に低く、国際連合の基準では後発開発途上国(最貧国)に分類されます。
 しかしこの国王の来日でブータンが提唱する、国民の精神面の豊かさを示す、「国民総幸福量(GNH)」という指標が紹介され、私たちは決して経済的に豊かでないブータンの国民の多くが、「幸せ」を感じているということを初めて知りました。

 国民総幸福量GNH(Gross National Happiness)は1972年に先代の第4代のジグミ・シンゲ・ワンチュク国王が提唱したもので、1、心理的幸福、2、健康、3、教育、4、文化、5、環境、6、コミュニティー、7、良い統治、8、生活水準、9、自分の時間の使い方の9つの要素から構成されています。
荒川区ではこの国王の来日より6年も早い平成17年から、荒川区民総幸福度(GAH)の取り組みを始めている。

◆荒川区の荒川区民総幸福度(GAH)の取り組み
 荒川区が「荒川区民総幸福度(GAH)」を取り組むことのきっかけとなったのは、平成16年11月に西川太一郎氏が区長になった時に始まる。西川区長は就任と同時に「区政は区民を幸せにするシステムである」という区のドメイン(事業領域)を全国の自治体ではじめて設定した。
 その後の様々な施策の取り組みの中で西川区長は、ある雑誌でブータン国が提唱する「国民総幸福度(GNH)」にめぐり会い、平成17年11月から「荒川区民総幸福度(GAH)指標」のためのプロジェクトチームを結成し、職員をブータンに派遣した。

 これまで、その国が豊かでどうかは、主に経済的に豊かであるかどうかで計られてきた。しかし経済的に豊かであっても、人々は幸せと感じられず、本当の豊かな国と言えなかった。このため荒川区では20年先を見越した幸せを実感できる指標をつくり、区民の幸福実感の向上を目指すことになった。

 平成17年11月のプロジェクトチームを結成に続き、平成19年3月に「幸福実感都市あらかわ」を掲げた基本構想と基本計画を策定、平成21年10月には「荒川区自治総合研究所」を設立した。この研究所では哲学者、心理学者、経済学者、宗教学者などをメンバーとする荒川区民総幸福度(GAH)研究プロジェクトが開始された。
 平成23年8月に第一次中間報告書が、平成24年8月に第二次中間報告書が公表され、そして最終報告書は平成26年度に公表される。

◆荒川区民総幸福度の内容
 荒川区が目指す幸福のイメージとして「自分自身の幸福」「身近な人の幸福」「地域の幸福」の3つがあると考えている。そしてこの幸福が合わさって荒川区民の幸福が形づくられるとしている。
 第二次中間報告書から荒川区民総幸福度(GAH)の内容では、①健康・福祉、②子育て・教育、③産業、④環境、⑤文化、⑥安全・安心6つの指標からなっている。
 

◆幸せリーグの設立
 物質的な豊かさや経済性だけの効率性だけを追い求めるだけでなく、真に住民本意の行政の実現や、幸福実感に基づいた施策の展開が必要であるという問題意識に基づき、基礎自治体が協力しながら学びあい、切磋琢磨していくための組織「住民の幸福実感向上を目指す基礎自治体連合『幸せリーグ』」が設立された。
 これは荒川区の西川区長、つくば市の市原健一市長、京丹後市の中山泰市長が発起人となり全国の自治体に呼びかけたもので、52の自治体(現在は55)が参加して平成25年6月に設立された。このリーグには三重県からは松阪市、亀山市が加入している。

◆まとめ
 荒川区の西川太一郎区長が雑誌でブータンの国民総幸福量(GNH)の存在を知ったのは、国王来日の6年前の出来事である。それは偶然であろうが、区長に就任以来、「区民を幸せに」という行政運営の取り組みがなされてきたからこそ、その記事が目に止まったのだろう。そして西川区長のこの取り組みは「幸せリーグ」というかたちで、松阪市を始め全国の多くの自治体の賛同を得ている。

 人それぞれ幸せの種類も違うし尺度も異なるが、「住民を幸せに」という取り組みは全国全ての自治体で行われているはずである。では荒川区のGAHや幸せリーグの「幸せ」と一般の自治体の「幸せ」の違いは何かと言うことになる。その大きな違いは「心の豊かさ」を求めていくことにあろう。それはブータンのGNHでも同じことである。

 健康とか、環境とか、教育とか、そして経済的な豊かさにプラスして、心の豊かさがなければ、この取り組みの意義はないと言える。この心の豊かさに大きな役割を果たすのが「文化」への取り組みであろう。国情や自治体の状況は異なるが、ブータンの9つの指標にも、荒川区の6つの指標にも「文化」が入っている。

 全国的に改革派と言われる首長が出現して新しい施策を次々と打ち出している。しかしその施策がその自治体にどれだけ根付くか疑問である。次の首長に変わったとき、これまでの施策は消えていく場合がかなりある。荒川区のGAHの取り組みは西川区長の肝いりで策定された政策である。西川区長から次の区長に変わった時、このGAHがどうなるか注目される。荒川区の場合は引き継がれるものと思うが。
コメント
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