庭の片隅,グミの木の根元にドクダミが群生している。子供の頃,湿疹やかぶれに対して祖母が処方してくれたことを思い出して植えた一株が,いつの間にか増殖して,夏(7月)になると一斉に白い花をつける。実は,一見白い花びらと思われるのは総苞(苞葉)と呼ばれるもので,花弁ではない。総苞中央部に穂のような棒状花序があり,淡黄色の小花が密生している。小花には花弁も萼(がく)もなく,雌蕊と雄蕊だけでできている。
ドクダミ(蕺草,Houttuynia cordata)は,ドクダミ科ドクダミ属の多年草。日陰のやや湿りのある場所に自生。繁殖力が強く,地下茎を伸ばして繁殖する。葉は卵状ハート型で先が短く尖り,濃緑,柔らく厚い。全体に独特の臭気がある。
ドクダミの名称は,「毒矯み」(毒を抑える)に由来するらしい。中国語では「魚腥草」(魚臭い),英語では「fish mint」「fish herb」などの表現があり,生魚の匂いから名付けられたのだろう。ベトナムや中国では香草として食用に供されるというが,日本では「どくだみ茶」として商品化されている。
「どくだみ茶」はドクダミを乾燥したもので,煎じて服用する。北海道農業改良普及協会発行「薬草の楽しみ」(熊谷明彦1995)によると,薬用量は一日10g,薬効は消炎,利尿,解毒など。注意事項として「虚弱,貧血,冷え症。体力低下している化膿には用いない。長期継続服用は避ける」と記されている。
クエルシトリン(利尿作用,動脈硬化の予防作用),デカノイルアセトアルデヒド(臭気成分,抗菌作用・抗カビ性),カリウム(利尿作用)を含有しており,十薬(じゅうやく)の名前で生薬として日本薬局方に収録されている。湿疹,かぶれなどに生葉をすり潰したものを貼り付けることも有効。漢方では解毒剤として用いられるという。
一方,過飲用による副作用事例(高カリウム血症,GOT・GPT上昇)も報告されているので,注意が必要。
真夏の強い日差しを避け,木陰に駆け込む。明るさに慣れた目には日陰が暗く感じるが,足元を見やると可憐な花が目に入る。俳人川端茅舎(大正から昭和初期に活躍)は「十薬や真昼の闇に白十字」と詠んだ。十薬(じゅうやく)が夏の季語。ドクダミの別名。ドクダミが生薬として使われることからこの名前がついたと言われる。薄暗い中に浮かぶ4枚の白い総苞片を白十字と表現。写実的な作品である。