読書日記

いろいろな本のレビュー

「男はつらいよ」を旅する 川本三郎 新潮選書

2023-02-04 12:53:57 | Weblog
 川本氏は昨年12月21日(水)の朝日新聞朝刊に「思い出して生きること 妻に先立たれ14年悲しみや寂しさは消えずに共にある」という文章を寄稿した。氏は1944年生まれで、今年78歳、朝日新聞記者を経て執筆活動に専念して多くの著作を出版されている。2008年に7歳年下の夫人を癌で亡くされ、子供がいない故、以来一人暮らしが続いている日常と感慨を述べたものだが、いい文章だった。著者紹介欄に最新作として『ひとり遊びぞ 我はまされる』(平凡社)が紹介されていたので、読んでみた。これは新聞原稿の元になったもので、妻へのオマージュというべきものだった。


 その中で氏は一人暮らしの徒然に鉄道旅行をして全国各地を回っているという記述があった。そして以前、映画「男はつらいよ」のゆかりの地を訪ねた本を出したことがあるというので読んだのが『「男はつらいよ」を旅する』である。初出は2017年5月で、北海道から沖縄まで、映画のロケ地をほとんどカバーしており、おまけに作品のコメントも面白くて、登場人物の個性も過不足なく描かれていて、一気に読んでしまった。山田洋次監督の手法をマンネリだと言って批判する向きもあったが、でもあれだけ長い年月、あれだけ人気を博すというのは、映画に共感する人が多かったということである。庶民の視線に立っての映画作りは山田監督ならではのものがあり、今も人気は衰えていない。私も退職後は寅さんが訪れた土地を旅したいと思っていたが、たまたま昨年12月に所属のハイキングクラブの例会で備中高梁を訪ねる日帰り旅、タイトルは「備中松山城と武家屋敷散策」というのがあり、参加した。その時のレポートを会報に載せてもらったので、ここで紹介したい。


                                 備中松山城と武家屋敷散策に参加して

 今回は青春18切符を使っての旅で、行き先が岡山県の高梁市と備中松山城とあって大いに興味が湧き参加した。備中高梁は前から行ってみたいと思っており、渥美清主演の映画「男はつらいよ」の第8作「寅次郎恋歌」(昭和46年)と第32作「口笛を吹く寅次郎」(昭和58年)の舞台にもなった静かなまちである。参加者は7名で、大阪から姫路までは新快速ですぐだったが、相生から岡山までは各停のゆっくりした旅になった。岡山で伯備線に乗り換えて高梁到着が12時8分。乗合タクシーで城の麓まで行く。あとは歩いて標高430メートルの松山城を目指す。かなりきつい。でも結構人が多い。山頂到着。石垣が美しい優美な城が見えてきた。500円を払って門をくぐると、猫城主の「さんじゅーろー」が出迎えてくれる。別に客に媚びるわけでもなく、泰然としている。城中はきれいに整備されていて、城の歴史がよく理解できた。目まぐるしい城主の交代が武家時代の厳しさを感じさせる。天守からの眺めは絶景であった。厳しい日程だったが、非常に充実した一日になった。(以上)


 この旅行で「青春18切符」はローカル線愛好者にとっては、有難いものだということが分かった。「青春」とあるが使っているのは「老人」が多いらしい。これから大いに利用したい。ちなみに第32作「口笛を吹く寅次郎」(昭和58年)のマドンナ役は竹下景子で、当時30歳。本書では言及されていないが、清楚なたたずまいといい、演技力といい、彼女の代表作ではあるまいか。彼女も今や69歳。時の流れは残酷だ。