読書日記

いろいろな本のレビュー

関西人はなぜ阪急を別格だと思うのか 伊原 薫 交通新聞社新書

2020-09-13 13:14:57 | Weblog
 阪急のブランド力を検証した本である。阪急電車は沿線に芦屋等の高級住宅街を抱えて、昔からハイソなイメージが定着している。確かに梅田から三宮行き特急に乗ると、乗客の雰囲気、車内の内装の色等々、他社の電車とは明らかに違う。私の母などは、阪急に乗るときはきちんとした服装で乗るようにとよく言ったものだ。庶民が描くこの高級イメージを支えるのは、電車の車両にあると私は思う。マルーン色と呼ばれるこげ茶色の外装と、濃い緑色の座席シート、アルミの鎧戸型の日よけ、広い室内、どれをとっても他社より抜きんでている。

 またこの高性能車両はスピードにおいても素晴らしい能力を発揮している。私の記憶では、神戸線の塚口近辺の直線で120キロを出していたと思う。そしてこの直線では、レールの継ぎ目を感じさせないほど静かである。その辺の保線技術にも力を入れていることは確かだ。今の阪急梅田駅は、神戸線・宝塚線・京都線が乗り入れ、10面9線の壮観だが、昭和48年に現地に移転するまでは、もっと南にあり、国鉄(JR)のガードをくぐっていかなければならなかった。ガードの近くでスピード落としていくので時間がかかった。おまけに京都線は十三で折り返し運転をしていたため、駅の北側への移転が図られた。ただ当時はこの移転について、駅が遠くなるなどの批判があったことは確かで、新聞の記事にもなっていた。しかし、今やそれが嘘のように駅周辺は発展している。

 この阪急にも15年ほど前、阪神電車との合併という大きな問題が起こった。ことの発端は村上世彰という人物の率いるフアンド会社が阪神電鉄の株を買い占めてこれを短期に高値で売り抜けようと画策して、阪神側に役員の派遣等のプレッシャーをかけたことだった。これをライバルの阪急が引き受けて、阪神を傘下に収めたのだ。モラルなきハゲタカのようなフアンドが企業を苦しめた例である。株式会社の宿命と言えばそれまでだが、なんともやりきれないはなしである。しかし以後阪急は阪神のアイデンティティーを守りながらやっているところは立派である。

 ターミナル駅には百貨店がつきものだが、阪急の場合、阪急百貨店がある。本書によると、2019年 全国百貨店 店舗別 売上ランキングでは、一位の伊勢丹新宿本店の2888億円についで2507億円で第二位になっている。全面改装がいい結果を生んでいるのだろう。ちなみに難波の高島屋大阪店は1472億円で第五位、あべのハルカス近鉄本店は1245億円で第九位になっている。阪急が他の二店を圧倒的に引き離している。これにはいろんな要素が考えられるが、私が感じるのは例えば、地下の食品売り場の構成だ。阪急の場合、ワンフロアーで通路を広くとって、ゆっくりと買い物ができるようになっている。これは近くの阪神や大丸と比較すればすぐわかる。一見無駄と思われる空間を作って、これを有効に活用している。まさに「無用の用」の実践だ。スーパーでは味わえない買い物気分を味わえる工夫をしている。これが販売戦略というものだろう。

 マルーン色の車両(1947年から1997年までアルナ工機、その後は日立製作所が製造)を堅持して、費用の安いステンレス車に乗り換えない頑固さと、買い物を楽しくというモットーこそが、今の阪急の繁栄に繋がっていると思う。