読書日記

いろいろな本のレビュー

敗戦とハリウッド 北村洋 名古屋大学出版会

2014-11-24 15:34:11 | Weblog
 副題は「占領下日本の文化再建」。太平洋戦争は日本に無残な災禍をもたらしたが、戦後進駐したダグラス・マッカーサー率いる連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)は日本の民主化を図るため憲法改正を実行し、基本的人権を謳い戦争放棄を盛り込ませた。それと同時にハリウッドの映画を、ただ単に「純粋な娯楽」を提供するだけではなく、日本人の「民主化」や「再教育」を進める文化装置として機能させようとした。筆者によれば、1945年から1952年の約7年間のGHQの日本占領期間中、ハリウッドは600本以上の長編映画を全国各地に配給し、1920年代半ば以降「難攻不落」と思われていた日本での映画市場を最もカネ回りのよい市場の一つに変貌させたという。
 マッカーサーは「好戦的な国」日本を「平和」な「民主主義国家」に変貌させるために、多くの「改革」を行なったが、具体的には、セントラル・モーション・ピクチャー・エクスチエンジ(セントラル社)という一元的な配給機関創設に協力し、ハリウッド映画を通してアメリカ文化の普及を試みた。結果は大成功で今日の親米日本の礎を築いた。本書はその詳細と日本側の反応をまとめたもので、大変興味深い内容になっている。
 ハリウッド映画を供給する一方、GHQは日本映画制作についても積極的に介入した。日本映画には以下の十点が反映されることが期待されたという。戦後の日本の課題と共通するものが多いので挙げてみる。一、すべての日本人が協力して平和な国家を築く様子 二、引き揚げ軍人の社会復帰 三、アメリカ軍に捕らわれた日本の戦争捕虜が建設的に社会復帰していく様子 四、産業や農業を含む国民生活の全ての面において、個人の意志や積極性が敗戦日本の問題を解決する様 五、労働組合の平和的で建設的な組織化を促す様 六、人々の間に政治的意識と責任が高まる様
七、政治的な事柄に関する自由な対話 八、個人の人権に敬意を促すこと 九、全ての人種や階級を許容し尊重するように奨励すること 十、自由や代議政治を擁護した日本史上の実在の人物の劇化 
 戦前、天皇を元帥といただく陸海軍に統率された軍国主義国家・日本のありようが逆照射されていて誠に興味深い。敵として戦った日本を友好国にするためにはこれぐらの細かい指示が必要だったのである。逆に言うと、これぐらい系統だった文化政策を緻密にプランニングできるアメリカというのはやはり大国と言わねばならぬ。今アメリカと並ぶ世界の強国となった中国は、戦勝国であったがゆえに、民主主義の洗礼を受けることなく共産主義化されてしまったので、アメリカから人権問題で攻撃されても意に介せずとなるのだろう。
 戦後アメリカ映画の人気を支えたものとして月刊誌『映画の友』のフアン文化があった。それを引っ張っていたのが編集長の淀川長治である。後年「日曜映画劇場」でおなじみの「映画おじさん」だが、映画の見どころをポイントを押さえて解説されていた。淀川氏の活躍ぶりも詳細に語られている。こうして見ると映画の影響力というのは誠に大きいと言える。