読書日記

いろいろな本のレビュー

不愉快な現実 孫崎 享  講談社現代新書

2012-04-28 08:18:04 | Weblog
 講談社現代新書では『日米同盟の正体ーー迷走する安全保障』に続くもの。今度は日米同盟に中国を加えて現状分析している。要は日本は日米同盟にあぐらをかいて、アメリカの世界戦略を分析することなく、言いなりになっている現状に危惧の念を表している。折しも「在日米軍再編 中間報告」が出され、アジア太平洋地域に自衛隊と米軍が連携して展開する「動的防衛協力」を打ち出した。これは中国を意識したものだが、集団的自衛権の行使に繋がる問題であり、アメリカの世界戦略の片棒を担がされることがはっきりしてきた。米軍普天間飛行場の辺野古への移転は不可能だろうとアメリカ側に見透かされていることは確かで、その代わりアメリカに主導権を握ってもらって、この問題を発展的に解消しようとしている政権の狙いは明らかだ。どう考えても民主党政権で、あの防衛大臣で辺野古移転は無理だ。予測としてはアメリカ軍はグアムへ撤退し、普天間には自衛隊が駐屯することになるのではないか。そのための「動的防衛協力」であろう。
 対中国に関しては、日本は中国の力を過小評価しており、そこには超大国になった中国をを認めたくないとい心理が働いている。ところが今やアメリカにとって重要な国は中国であり、輸出で見れば中国が日本より重要で、金融界では米中対話が進んでいる。アメリカの庇護のもとで日本独自の外交戦略を立ててこなかったつけが回っている。折しも尖閣諸島の魚釣島などを東京都が埼玉在住の個人から購入すると石原知事が表明して話題になっている。領土問題で紛争が起きても日本には軍事的に解決する手段はない。アメリカも領土問題に介入する意思なしと明言している。その矢先石原知事のこの発言である。デリカシーがないと言うほかはない。韓国との竹島問題、ロシアとの北方四島返還交渉、それに中国との尖閣諸島問題、いずれも平和的に解決せざるを得ないものである。それを短兵急な行動を起こして相手国を刺激することは著者も言う通り、国益に反する結果しか生み出さない。かつて周恩来も小平も領土問題は将来の世代に解決してもらいましょうと棚上げするのがベストと大人の判断を示した。石原知事の中国嫌いは夙に有名だが、拙速な行動は慎むべきだろう。政府のこれに同調して浮足立つことのないようにしてもらいたい。領土問題は先送りするに如くはなし。