読書日記

いろいろな本のレビュー

ヒトラーに愛された女  ハイケ・B・ゲルテマーカー 東京創元社

2012-02-22 10:31:29 | Weblog
 ヒトラーの23歳年下の愛人として国民に存在を秘匿された半生を送り、1945年の死の直前、その妻となったエヴァ・ブラウンの伝記。独裁者の日陰の愛人として過ごし、最後は夫婦心中の形で世を去った稀有な存在を生きた女性。本のコピーによると、「従来〝ヒトラーの愚かでつまらない愛人〟と歴史家に片付けられてきた彼女だが、実際は独裁者に対等な口を利くほどの、自分の意思を持つ、活発な一人の女性であった。」ということらしい。そりゃ男女の関係であれば、それぐらいの口は効くわなあ。いくら相手がパラノイアの独裁者であってもというのが率直な感想。二人が出会ったのは1928年10月。党の専属写真家のハインリッヒ・ホフマンのスタジオにヒトラーが来た時だ。そこで働いていたのがエヴァである。彼女はミュンヘンの職業学校教師の次女として1912年に生まれた。ベルリンの地下壕で服毒自殺した時は33歳であった。
 16年間ヒトラーのもとにいたわけだが、ヒトラーは反ユダヤ・反コミュニズムを唱えて世界戦争の野望に燃え第二次世界大戦を引き起こしたが、ドイツ国家と結婚したというようなフレーズでえ民衆を鼓吹したため、自分が妻をめとることは気が引けたようだ。そりゃ、世界を地獄に変えた男が、家庭的な幸福を追求するのは矛盾しているよなあ。したがってエヴァはそこらへんの事情をよくわきまえていたのであろう。しかし何千万という人間を殺戮した男のそばで、しかもオーバーザルツベルクの山荘という別世界で生きている分にはカオスに苦しむ人間の苦悩は理解できなかっただろう。ヒトラーとナチスの幹部たちが山荘で見せる人間的側面は戦争で民衆を虐殺する側面とは違う。その落差をどう考えるか。そこに権力というものの実態を考えるヒントがある。一人の若い女を支配し慈しむ人間が方やユダヤ人殲滅を実行したということは研究に値する。スターリンしかり毛沢東しかり、彼らの権力掌握のプロセスを検証することは今後の世界平和のためにも重要だ。