読書日記

いろいろな本のレビュー

姜尚中を批判する  鄭 大均  飛鳥新社

2011-12-24 09:20:42 | Weblog
 姜尚中は在日の星と言われるほどの活躍ぶりで、早稲田出身で東大の教授になった。テレビのコメンテーターをはじめ、小説・評論も人気でベストセラーになっている。私も二回彼の講演を聞いたが、確かに話がうまい。しかもダンディーで女性に人気があり、その講演会も満員であった。二回とも冬であったが、黒のタートルネックのセーターにジャケットが定番で、語り口は静かでソフト、女性にもてるのもよくわかる。最近はNHKの日曜美術館という番組の司会もして、スター並みの活躍である。それをやっかんでの批判ではないかと勘ぐられる可能性は無きにしもあらずの感がある。
 著者の鄭氏は姜氏と同じ在日朝鮮人で首都大学東京(旧東京都立大学)の教授である。鄭氏は以前から在日問題についてその犠牲者性を鋭く批判してきた論客で、特別在留という存在に疑問を呈してきた。地方自治参政権を要求するのであれば、帰化して日本国民ななって、コリアンジャパニーズになるのがベストであるという主張が彼のスタンスを端的に表していると思う。本書は姜尚中の『在日』を俎上に載せて、その犠牲者性を批判するが、その淵源を45年前の『朝鮮人強制連行の記録』(未来社 朴慶植)に求めている。すべての在日の祖先は強制連行された人間だというのは明らかに無理があるのだが、それを言うのはタブー視されてきた歴史がある。そこが在日問題のデリケートな部分で関係性の構築に苦慮するところである。アメリカであれば、市民権を得るために帰化するのが普通だが、何故日本では在日韓国朝鮮人にそれができないのかということである。帰化すると民族のアイデンティティーが失われるという危惧を表明する人がいるが、だからと言って本国で生きていけるかというとそれも無理だ。結局根なし草のような存在を続ける以外道はない。このデラシネ状態を過去の日本の強制連行に起因すると糾弾し続けることは問題の解決にならない。鄭氏の意見も一理ある。本書は人気者の姜氏を批判することで注目度が増すかも知れない。しかし表紙の姜氏の似顔絵はどうも頂けない。タートルネックにジャケット姿の男前に描くべきだろう。折しも韓国の李大統領が来日し、従軍慰安婦問題を持ち出して日本に謝罪を要求してきたが、野田首相は決着済みと取り合わなかった。当然のことである。これも「強制連行問題」と根は同じで、いつまでやってもきりがない。
 しからば未来志向で、これからの若者が友好的に交流できるような関係を作り上げるべきだ。韓流ブーム以降文化的な面で交流が出来てきたのだから、隣国としてよきパートナーシップを築きあげることが重要だ。それにつけても歌手のキム・ヨンジャは立派だ。それほど交流の無い時期に日本に渡り、苦労を乗り越えて一流になった。彼女のバイタリティーに見習おうではありませんか。