読書日記

いろいろな本のレビュー

戦国誕生  渡邉大門  講談社現代新書

2011-07-30 16:37:12 | Weblog
 室町幕府の権力関係については最近発刊される書物が多い。将軍の権力が守護大名に邪魔されて行使出来ない状況は教科書で縷々説明されているが、本書は八代将軍足利義政に焦点を当てて、将軍権力の衰退と戦国時代への突入という流れを、応仁・文明の乱の分析をもとに活写している。室町幕府が権威の拠り所として公式の文書を乱発し、有職故実による行事を復活させたことは『将軍権力の発見』(本郷恵子 講談社選書メチエ)に詳しいが、ここでは、天皇、将軍、守護の相互連関を多くのエピソードをちりばめ、俯瞰して述べているので、読んでいて大変面白い。義政はくじ引きで青蓮院門跡から将軍になり、恐怖政治を行なって赤松満祐に謀殺された六代将軍義教の子で、最初から将軍の資質に欠けると言われた人物である。彼が管領の畠山家の家督相続に容喙して、結果、守護の山名宗全、細川勝元を巻き込んだ戦乱に発展するのだが、その過程で極めて無責任な調停のをし、最後は問題を放擲してしまった。その結果、畠山義就と畠山政長が上御霊神社で合戦の火ぶたを切った。これから長く続く応仁・文明の乱の始まりであった。
 守護の家督相続に関わって調停能力をうまく発揮できれば、弱小な将軍権力と言えども、その存続は可能だ。室町幕府はそれしか生き残る道はなかったと言っても過言ではない。義政は義満や義教が専制的な将軍権力を確立したのに比べるとその非力は明らかである。したがって守護との駆け引きの能力や責任感が問われることになるが、本書を読むとそれが全く欠如していたことが分かる。自分の信念がなく、優柔不断でのらりくらりという感じだ。この将軍のお陰で京都を荒廃させる泥沼の戦いが引き起こされ、殺伐たる戦国時代の幕が開いたのである。為政者の無能はかくも無残な結末を生む。平成の世にそれが再現されないことを祈るばかりだ。
 応仁・文明の乱の錯綜した実態が物語のように書かれており、天皇も将軍も守護もリアルな存在感を示している。歴史家の基本を押さえた記述方法で、室町時代の実相がよくわかった。