読書日記

いろいろな本のレビュー

犬の帝国 アーロン・スキャブランド 岩波書店

2009-12-25 21:55:15 | Weblog
犬の帝国 アーロン・スキャブランド 岩波書店


 犬は人間の友として猫と共に長い歴史を持っている。本書は幕末から現代の日本の歴史をペットとしての犬の変遷から逆照射したもので、一風変わった本だ。
 1854年3月24日、徳川将軍がアメリカのペリー提督に四匹の愛玩犬、チン(狆)を米や干し魚といった他の贈答品と一緒に贈った。そして、ペリー帰国後数年でジャパニーズ・スパニエルと名づけられたこの品種がアメリカ合衆国とヨーロッパで大流行した。チンの原産は中国だが、日本人はこれを室内犬として育て、徳川時代の中ごろには富裕な武士や商人の妻や娘、そして妾の愛玩犬となっていた。日本人は「犬やチン」と言い習わして、チンが犬以外の動物であるかのように考えていた。それでは屋外にいる犬はどうかというと、これがまた凶暴な感じでまるで躾けられておらず、ペットのレベルではないと西洋人は感じたらしい。まさに野蛮国の象徴であった。この土着の犬を駆逐して洗練された飼い犬にしていく過程が、日本の帝国主義の成熟と相関関係があるというのが本書の骨格で、ナチスのドイツ民族至上主義が警察犬のシェパードに代表されるように雑種犬を淘汰して行った歴史と重なるわけだ。
 忠犬ハチ公は渋谷駅前の名物だが、日本帝国主義のシンボル的存在で、主人に忠誠を尽くす姿は天皇陛下に忠誠を尽くす兵士のイメージと重なる。犬はこのように忠義の臣として人間に仕えるのだ。猫ではこうは行かない。猫は怠惰な自由主義者のイメージか。ここで犬派と猫派に分かれるのだろう。私は犬も猫も飼ったことがないので、どちらがいいとは言えないが、最近の小型犬ブームは目を見張るものがある。特に独身女性が会社のストレスを癒すために飼うのだそうだ。結婚して寛げる家庭を作ろうと言うのではないところに現代の難しさがある。男性が車をとっかえひっかえ乗り換えるのと同義か。でも最近の若い男性は車に乗りたがらないらしい。アウトドアーは苦手なのかな?
 いずれにしろ最近の犬ブームは手軽なサンクチュアリーを創ろうということで、逆に社会の不安定感を浮き彫りにしていることは確かだ。でも飽きっぽい飼い主に捨てられる犬は数知れず、徳川綱吉が見たら激怒することは必定。南無阿弥陀仏。