甲野氏の本の中で、腕力を使って力でねじ伏せようとするより、コツ(骨)をつかみ、無駄な力を極力使わないほうがいい結果が出せる。というところが、まさしく弓を引くときの基本である。それが、他のスポーツにもいわれ、腹筋や筋肉を鍛えるというのと少し違うのだそうだ。
この本は対談なので、一緒にその席につかせてもらって話を聞いているように本はすらすらと読めてしまうが、ところどころ「そうそう、そうなんです。それそれ、そこが問題で・・」と、相槌を打ちそうになる。
松村氏の「スポーツは勝ち負けですが、武術の世界はいかに極めるか、もっと言えば、いかに生き残れるかが問われてくる」と、いうところで殿が最後に弓を引いていた姿がよみがえってきてしまった。誰に勝つでもなく、己にも勝とうという気負いもなく、もう殆ど筋力もないのに、たんたんと弓を引いていた。そして、的にぽんと中たっていた。中てていたという感じではなく、ほんとうにすうっーと引いて、トンと中たっていたという感じ。矢は自然にそこへいくようになっているという感じだった。けれど、引いた後は弓を腰で保つという執弓の姿勢などもできないのだ。弓を支えていることもできないのに弓を引くってどうよ。もちろん、歩くこともやっとで、すぐに折りたたみの椅子をあてがってそこで一息つくのである。
話を戻して、まず骨が動いて筋肉がそれに従うというところ。ひとつの動作をマニュアルのように考えていないか、感覚を軽視し科学的であることを優先させていないかというところに行き着く。
弓返りは手の内が大事だ。先輩にこれを、こうやって、こうやってと指の置き方を教えてもらうが、分からないまま弓を引いていて、出来る人はいつの間にか回っている。当然なのである。もともと回るように出来ているのだから。それで、回らないのはどこかで止めているのではと考え込んでしまう。そこで、考え直さなくてはならないのは、身体にゆだねて、身体で覚えることだと当然のことと言えば当然なのだがとにかく弓を引くこと。下手の考え休むに似たりという。考えていても始まらない。コツをつかむは「骨をつかむ」のだそうだ。
仕事のせいにして逃げていた稽古を再開しなくては。