いつも山登りの時の心配がトイレである。けれど、なかなかその話はしにくい。登山は男の人の案内で行くことも多いので、言い出しにくく、女性が一緒の場合はほっとするところだ。昔は「花摘み」とか、「雉うち」に行くと言ったらしい。
その話を堂々と書いてくれたのは、かの有名な登山家である今井通子さんだ。登山家である前に、泌尿器科の医師である。両親と妹ふたりと弟の五人が眼科医という中でひとり、食卓で症例の話が出来ないという今井さん。
さて、わたしは朝トイレに行くと、午後2時か3時くらいまでは平気だが、調子の悪い時は困るのである。鞍掛山なら2時間なので大丈夫。富士写が岳は、ダム湖の管理事務所のトイレを借りてから登れば下りるまで大丈夫。しかし、先日のように雪山の場合不安だった。朝8時30分に登り、頂上で3時間作業に付き合って下りたので7時間大丈夫だった。しかし、前もって対策を練って、いざとなったらどうするか考えなくてはならない。そんなこんなで、トイレの問題は一番悩むところではある。その時は、歩くと汗も出て、水分も控えて、お腹にカイロを貼ったので効果はあった。しかし、頂上で太ももに痙攣が起きたのは水分不足かなと思った。寒いので温かいハーブティを持っていったので少しは飲んでいたが、その辺のところはどの程度どうなのかよく分からない。しかし、トイレの問題は深刻で、有名な女性登山家がトイレをするために滑落して亡くなったこともある。あだやおろそかには出来ない問題だ。
さて、本の話だが、今井通子さんの「マッターホルンの空中トイレ」は、読んだだけでも想像するに怖い。4000mの所に飛び出して作られているトイレで、空中にあるような形で、北壁に落ちるようになっているのだ。床の下が2000m、3000m見えるわけだ。
世界のトイレの写真入りで、単行本は「TOTO出版」だった。なるほどねえと思ったが、文庫本もあって、こちらは中央公論社である。やはりどんな山でも、個室の水洗トイレがあるとほっとする。文化的な生活を営んでいるので、野生にはなりきれない。女性として世界初の欧州三大北壁登攀その他、数々の記録を残している今井通子さんも、トイレは落ち着けるところがいいねと。そして、下品な話ではなく、医学的には大事な話だとおっしゃる。わたしがその話をすると、孫たちに下品だと言われるのはなぜか。