(前回からの続き)
その一方、経済発展を重視するあまり、平等の理念は軽視され、税制等を通じた所得再配分の仕組みや、年金・保険などのセイフティーネットの構築がおろそかにされました。その結果、発展の恩恵は特権階級や一部の企業家・都市市民に偏り、大半の人民、とくに地方の農民は貧しいままに留め置かれてしまいました。
華やかな街では、ケタ違いの富裕層がゴージャスライフを謳歌する一方で、マトモな社会保障もなく、現状への不満と将来への不安を抱えながら、多くの人々が少ない賃金でその日暮らしに近い生活を余儀なくされているのでしょう。2010年の世界銀行の発表によれば、中国では1%の家庭が41%の富を所有しているとのこと。まさに異様な格差です。かつて共産党政府は(たしか)「プロレタリアート(労働者階級)独裁」をうたい文句にしていたはずなのに、なんとも皮肉なものです。
このように、いまの中国では、上記の①のプロセスがすでに始まったように思えます。つまり、所得・貧富の格差拡大と、不正行為や賄賂の横行といった行政の腐敗です。中国の歴代の王朝は、初代皇帝から3代皇帝くらいまでの数十年間に最盛期を迎え、その後衰退し、滅亡する歴史をたどっています。さて、中華人民共和国はどうでしょうか。「共産党政権」というこの「王朝」も、建国後60年の現在が絶頂期なのかもしれません。
個人的には、①を食い止められなかったこの王朝は、やがて②につながりかねない混乱に巻き込まれていくのでは、と心配しています。このカルマの車輪を止めるには、一刻も早く格差是正を目的とした諸政策を実行しなければならないでしょうが、これには既得権益を持つ勢力の反発があって困難を極めるでしょう・・・。
(この王朝は、さらに大気・土壌・水質汚染や水不足などの非常に深刻な環境問題も抱えています・・・)
今年は中国の総書記が代わる年。
日中関係のさらなる進展のためにも、新しい「皇帝」のもとで、かの国が平和に発展し、市民の生活レベルが等しく豊かになることを期待したいところですが、はたして・・・?
(「王朝国家・中国のカルマ」おわり)