(前回からの続き)
では、基軸通貨・ドルはどうでしょうか。ユーロ圏の経済危機が深まるにつれ、ユーロからドルに資金がシフトした結果、ドルや米国債の価値が高まってきているのは事実でしょう。さらに2月中旬、日銀が10兆円におよぶ資産買入増額などの金融緩和策を開始した結果、円のマネタリーベースが拡大するとの予想から、それまでの円高トレンドが一転し、円からドルへの資金のフローも起きているようです。しばらくはドルが他通貨に対して強くなる傾向が続きそうです。
しかし、アメリカの経済や財政状態をみれば、長い目で見てドルを買い増したくなるインセンティブも乏しいのではないでしょうか。最近は失業率の低下や個人消費の回復などを窺わせるデータ公表が続いていますが、住宅バブル崩壊にともなう「逆資産効果」でもたらされたデフレは依然として極めて深刻です。住宅価格が下げ止まるどころか、バブル期の水準に再上昇でもしない限り、本当の経済回復にはほど遠く、いずれは一層の金融緩和、つまりQE3に追い込まれる可能性が高いと見ています。
FRBは2014年いっぱいまでゼロ金利政策を継続する可能性を示唆しましたが、これもアメリカ経済がたいへん厳しい状況にあると認識しているからでしょう。金利が少しでも上がれば住宅購入層の借金返済が一層困難になり、消費が低迷し、ますます景気悪化、となってしまうからです。
また、度重なる景気対策などで財政赤字は拡大の一途です。今後、二大住宅公社の破綻、大きな自治体の破綻、ユーロ諸国のデフォルトや欧州金融機関の破綻などが起こりえると予測されます。そうなると、これらの債券等を多く保有し、関連のCDS(債券元本等を補償する保険のようなもの)を大量に引き受けているアメリカの主要金融機関が経営危機に陥るでしょう。アメリカ政府は金融システムを守るため、これらの金融機関に公的資金を投入せざるを得なくなります。ただでさえ巨額の財政赤字を抱えているのに、さらに膨大な量の米国債を上乗せ発行して救済資金を集める必要が出てくるでしょう。その結果、一層のドルの散布と価値の希薄化、そして米国債の価格低下(金利上昇)がもたらされるおそれがあります。
(続く)