庵KM

技術屋OBの環境問題独り言

経済問題。交通問題。健康問題。そして、日本の国創り問題。快適社会問題。

東京都は日本における環境先進自治体の美名を追求する? 

2010-12-30 | 環境問題
「排出量取引制度」は、中身のメリット、デメリットをよく理解したうえで、適正に制度設計して管理を実現できれば、「温室効果ガスの排出削減」に効果的な制度になる。
しかし、よく理解しないままの妥協の産物的な制度にしてしまうと、弊害の方が大きくなって、効果が損なわれるだけでなく、経済的にデメリットが大きい。
それは、どのような原因で起きるか、少し立ち入って説明します。

「排出量取引」と呼ばれる日本では、【取引】ばかりが目立つが、実際の大きな課題は【キャップ&トレード】という様に、【キャップ】(排出許可枠の設定)のかけ方が重要である。
本来の狙いは、この【キャップ】に相当する『排出量許可枠』を、政府、または自治体政府が、排出を容認する量に相当する分を有償で売り出して、これを排出事業者は購入することを義務付ける制度である。
これを『オークション方式』による初期配分と専門家は呼んでいる。

しかし、排出によって経費が増加する事業者が反対すること多く、政府はこれに妥協をして、この初期の排出許可枠を、過去の実績にもとついて、配分する方式を採用することが多い。
これを「グランドファザリング」(権威のある父親が家族に家計費を配分することに相当する。)
と呼んで、[EU]諸国で始めた排出量取引制度の初期には、この方式であった。

日本では、東京都がこの方式に着目して、東京都に在籍する大規模事業所の「温室効果ガスの削減義務」を「環境確保条例」の改正によって2010年~2014年の間の削減量を設定した。
その『キャップのかけ方』では、2002年~2004年の3年間の平均排出量、または2005年~2007年の平均排出量を基準として、ここから8%削減を義務付ける。

これで何が問題となるか。
この3年間のどちらかが、業績悪化で仕事量が減って排出量を減らしていた事業者は、その悪い3年間の平均を基準にすることができるので、そこから8%削減は容易である場合が想定される。
逆に、業績を好調に推移していた企業は、当時の業績よりも2010年~2014年の間に、さらに大幅に業績を伸ばす計画であるため、排出総量がどうしても増える。
削減努力をしてもなお排出量が増える分は、業績の低下している企業が楽々減らした分の余剰を、【取引】によって買取る事が必要になる。

これは要するに、発展して業績を伸ばす企業に負担をさせて、業績を落としている停滞・衰退事業者におカネを回す制度なのである。
これが嫌な事業者は、新規の業績向上分の事業を、東京都圏外に移せば、何も余計な経費を負担する必要もないので、当然の様に神奈川県か千葉県に事業所を移転、新設するであろう。
(埼玉県は、東京都と同じ制度を導入しようとしている。)

東京一極集中を避ける政策としては有効だが、実質的な「温室効果ガス」の排出削減には、効果を生まない制度になりかねない。
それでも排出削減の実績を獲りたい東京都は、いったい何を狙っているのか。(以下、次回に)