庵KM

技術屋OBの環境問題独り言

経済問題。交通問題。健康問題。そして、日本の国創り問題。快適社会問題。

排出量取引制度の生まれも育ちも知らない政治家が公約にした。

2010-12-29 | 快適エネルギー社会問題
有害な成分のガスを排出する産業に対して、経済的手法で削減を促す方策として、アメリカで考案されたのが、排出量取引制度である。
これは、火力発電所から排出される「亜硫酸ガス」(SO2)の量を、年数をかけて削減する方策として始まった。
発電所の事業者が、その年に排出せざるを得ない[SO2]排出量を予測し、その排出許可枠を有料で購入する制度とした。

この『[SO2]排出量許可枠』を守るためには、
①硫黄(S)成分の少ない燃料を使う方策と、
②燃焼後の排出ガスから『[SO2]成分』を除去する方策が考えられる。

事業者はどの方策を選択するかは自由であるが、何も対策しない場合には、大量に
③『[SO2]排出量出許可枠』を購入する必要が生じる。

①、②、③のどの方策をするにしても、経費がかかり、発電コストを押し上げる。

当然の様に発電事業者は、この制度に反対したが、『キャップ&トレード』の方式で、[SO2]排出量の削減を始めた。
排出量を1/10に下げるには、達成目標の年に向けて、段階的に「排出許可枠」の発行量を少なくしていけばよい。

開始の基準年の[SO2]排出量に相当する排出許可枠を、年々、少なく設定することで、何もしない事業者は、高くなる「排出許可枠」を買い続ける愚は避ける様になる。

この期間において、燃料から硫黄成分を除去する技術や、排出ガスの『[SO2]成分』を分離する技術が進化して、コスト上昇の負担が少なくなる。
こうして、役所が余計なことをしなくても、年々の「排出許可枠」の管理をするだけで、後は事業者が最も経費のかからない方策を選ぶ事ができる。

いかにもアメリカ的で、自由市場競争主義の価格インセンティブをうまく活用した制度である。
これを、温室効果ガス([CO2]およびフロンなどの6ガス)の排出削減目標の達成に向けて、応用しようと言いだしたのが、時のアメリカ政府であった。

これが京都議定書における交渉のなかで、国同士の間での『共同実施[JI]』と『クリーン開発メカニズム[CDM]』という制度に変形して、盛り込まれていった。

2000年以降はアメリカは京都指定書を離脱してしまったので、この『キャップ&トレード』は、進まないモノと思われたが、ここで、イギリスやEUの先進国の中で、制度化しようとの動きが始まった。
その制度は、当初は社会実験と称して小規模で始めたが、年々拡大して、関係諸国の間での取引も出来る複雑な制度に膨れ上がってしまった。

この現状をよく知らないままに、民主党は欧州のやることは「きっと良いことだ」との幼稚な発想で、【温暖化対策の具体策】の中にマニフェストとして書いてしまった。
中身をよく知らない政治家が、その公約を掲げて総選挙で当選してきた。(以下、次回)