<東宝『次郎長三国志』>
2月に入って映画を観まくっている。シネマヴェーラ渋谷で「マキノ時代劇大行進」という特集をやっていたので、何日か渋谷に通った。東宝作品の『次郎長三国志』九部作を全部観た上に、一緒にやっていたマキノ作品も6本観た。千恵蔵主演の戦前の映画『弥次喜多道中記』『続清水港』、長谷川一夫、山田五十鈴共演のこれまた戦前の『昨日消えた男』『待って居た男』、戦後作品の『やくざ囃子』(鶴田浩二、岡田茉莉子主演)、そして日活映画『次郎長遊侠伝 天城鴉』(北原三枝が出演)である。
その合間を縫って京橋のフィルムセンターに四回行った。こっちは錦之助の映画を観るためだった。『大菩薩峠』三部作と『源氏九郎颯爽記 濡れ髪二刀流』を大画面で観て、大いに満足した。フィルムセンターでは、ついでに『神州天馬侠』と戦前の『旗本退屈男』も観てしまった。それと一日だけ池袋へ行き、新文芸座で吉村公三郎監督の『森の石松』を観た。
2月の18日間で、22本の映画をスクリーンで観たことになる。全部時代劇である。この期間にビデオで観た映画(錦ちゃんの映画しか観ていない)は何本か、もう数え切れないほどである。
渋谷でマキノ監督の古い映画ばかりを観ていると、次第に私の欲求不満がつのってきた。錦之助主演のマキノ作品が一本もなかったからである。シネマヴェーラ渋谷のマキノ特集は、若い観客が圧倒的に多かったのだが、映画館の中で私はここにいる若い人たちに錦之助の『弥太郎笠』や『遠州森の石松』を見せたいものだな、見たらきっと感動するだろうなーと思わないわけにはいかなかった。とくに錦ちゃんのカッコいい「りゃんこの弥太郎」を見せたい、とどれほど思ったことか!鶴田浩二の『やくざ囃子』を観た時にはとくにそう感じた。仕方がなく、私は一人でビデオの『弥太郎笠』を観て、鬱積した気持ちを晴らすことになってしまった。錦ちゃんのやくざはピカイチである。キザではなく、ただただカッコ良く、惚れ惚れするの一言なのだ。
ところで、なぜ若い人たちがこんなにマキノ監督の映画を好んで観に来るのか、私は不思議に思った。昨年、渋谷文化村で『鴛鴦歌合戦』を観た時も若い人でいっぱいだった。聞くところによると、この数年来マキノの映画(特に古い作品)は若者たちの間でちょっとしたブームなのだそうだ。ブームのきっかけになったのは東宝の『次郎長三国志』九部作だったらしい。小堀明男のちょっと頼りないが決して親分風を吹かさない次郎長と、彼を取り巻く気の良い仲間や女たちの情愛溢れる人間群像が若い人に受けたのだろう。キャラクターもそれぞれ個性的で親近感の持てる人間臭い次郎長一家なのだ。いろいろな連中が寄り集まって、ワイワイがやがや、コンパでもしている感じである。喜んだり悲しんだり、怒ったり泣いたり、情感たっぷりのマキノ・ワールドにいつの間にか私も引きずり込まれてしまった。『次郎長三国志』は、以前テレビで放映されたときに、私は飛び飛びで観ていたのだが、今回は全編を通しで観て、その面白さをたっぷり味わった。
さて、今回のマキノ特集で私がどうしても観たいと思った映画は、『次郎長三国志 第八部 海道一の暴れん坊』(1954年)と『続清水港』(1940年、後に『清水港代参夢道中』に改題)の2本だった。なぜかといえば、この2本は錦之助主演でリメイクされたからである。前者は、同じくマキノ監督の『清水港の名物男 遠州森の石松』になり、後者は沢島忠監督の『森の石松鬼より恐い』になった。それで、元になった映画と錦之助の映画を比較してみようと思ったわけだ。それと同時に、森の石松を演じた俳優たちを見比べてみたいという気があった。東宝の『次郎長三国志シリーズ』は森繁久弥、『続清水港』は片岡千恵蔵、そして東映のリメイク版はもちろん錦之助である。ついでにと言っては何だが、吉村公三郎監督の初時代劇『森の石松』(1949年、松竹作品)では藤田進が石松で、最近ちょうど上映されていたので観に行ったという次第。その比較については次回にお話しよう。(つづく)
それでも最近は中部圏でも割りとチャンスが有って今年に成って「風雲児 織田信長」「徳川家康」「一心太助 天下の一大事」とたて続けに観る事が出来ました、3月も「旗本退屈男」が岐阜・羽島と「半田コロナシネマWORLD」とで上映される等と我々「錦友会」の活動が評価されだしたのか? と嬉しい限りです。その他「京都文博」で「反逆児」「幕末」「武士道残酷物語」と目白押し!!当分錦ちゃんの追っかけが続きそうです。
今月は冬眠から覚めたように、あちこち出歩いて、映画を観ています。映画鑑賞の合間に少しだけ仕事をしている感じです。体力のなさを気力で補っていますが、外に出るとどうしても疲れますね。倭錦さんはエネルギッシュですね。感心します。