錦之助ざんまい

時代劇のスーパースター中村錦之助(萬屋錦之介)の出演した映画について、感想や監督・共演者のことなどを書いていきます。

中村錦之助伝~東千代之介誕生(その6)

2013-01-13 22:50:27 | 【錦之助伝】~東千代之介
――女形雪之丞の艶姿と侠盗闇太郎の不敵さ、新スタア東千代之介が魅力の二態を演じて、全時代劇ファンにお目見得する艶麗無比の大絵巻!!
 こんな惹句の載ったポスター、プレスシートが東映系の劇場、新聞雑誌の担当記者にばら撒かれた。その目玉は、東映娯楽版『雪之丞変化』で主役の雪之丞と闇太郎の二役を演じる新星東千代之介の売り出しであった。マキノ光雄は、昔、松竹が総力を挙げて林長二郎(長谷川一夫)を売り出した時の先例にならい、前途有望な大型新人の披露興行でも打つかのような、いかにも芝居がかった泥臭い宣伝作戦に出た。
 プレスシートには、マキノ光雄の仰々しい披露口上、山崎真一郎所長の推薦文、千代之介自身の「ごあいさつ」と略歴が添えてあった。マキノはその口上で東千代之介を紹介し、
人一倍精進深き芸道心に免じ、格別のお情け、御引廻しを下されますよう、平に、平に、隅から隅まで、ずいーっとお願い上げ奉りまする」と書いた。
山崎は千代之介を「日本的青年貴公子」と持ち上げ、時代劇スターになること間違いなしと太鼓判を押した。


雪之丞に扮する千代之介の「ごあいさつ」に添えられた写真

 そして、新聞広告の紙面にはこんな文句が載った。
全女性が待ち焦がれた美男・東千代之介、時代劇に登場!」

 前評判ばかりが先行し、千代之介は自分が期待はずれに終ったらどうしようかという不安に駆られた。が、ここまで来たら、全力を尽くしてやるしかない。
 映画関係者への挨拶を一通り終えると、いよいよ『雪之丞変化』の撮影に入った。2月21日だった。
 雪之丞の扮装をしてセットに入ると、初カットは頭を下げてお辞儀をして顔を上げるだけだった。二番目のカットはセリフがあった。薄田研二の土部三斎とのからみの芝居だった。三斎が「娘はどうじゃ」と尋ねたのに対し、雪之丞が「お帰りになるそうでございます」と答えるセリフ。
 監督の河野寿一(としかず)がすぐに注文を出した。
「もっと女っぽくしゃべってくれませんかね」
「お帰りになるそうでございます」
「ダメ、ダメ、声が太くて、女らしくない!もう一度」
「すいません」
 何度やっても河野寿一からオーケーが出なかった。河野も次第に苛立ち、ついに大声で、
「下手糞!こんな雪之丞じゃどうにもならん」と言うと、撮影中断を申し渡した。
 午後、千代之介が次のカットを撮るため、闇太郎の扮装をしてセットに入ると、進行主任が飛んで来て今日は中止になったと言う。
 撮影は二日間休みになった。千代之介は役を下ろされても仕方がないと観念した。



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