人は誰でも見たい夢を見る権利がある。
だがそれはレム睡眠潜在意識誘導装置、通称「ドリーマー」が発明されて初めて保証された権利だった。
ドリーマーを使えば見たい夢を見ることが出来る。映画俳優になるのも、プロのスポーツ選手になるのも、好きな場所に行くのも、好きなものを好きなだけ食べるのも思いのままだ。
だが現実の世界で法律によって禁止されていることを、例えば人を殺す、女を犯すといった犯罪行為がそれに当たるのだが、ドリーマーを使って夢で見るのはやはり法律によって禁止されていた。
禁止した奴らの言い分はこうだ。
犯罪行為の夢を見れば、そのことが犯罪行為の助長に繋がる、だそうだ。
俺の考えは違う。
夢の中で女を散々レイプした奴が朝起きて女を襲うか?
性犯罪者だって無限に性欲があるわけじゃない。寝ている間に二度も三度も文字通り“夢”精すれば、起きてから女を襲うのは無理ってもんだ。
むしろ性犯罪者や殺人願望を持つ者など危険な連中には奴らの願望を叶える夢を見せるべきだ。そうすれば現実の犯罪は確実に減る。
お偉方はそのことがわかっちゃいないんだ。
そんなわけで一般に販売されているドリーマーでは殺人や強姦といった犯罪行為の夢を見ることが出来ないようになっている。
そこで俺の出番だ。
禁止された夢もそうでない夢も夢に変わりはありゃしない。要はドリーマーに掛けられたプロテクトを外せばいいだけの話だ。
俺の元には毎日のように大量のドリーマーが送られてくる。送られてきたドリーマーをプロテクトを外し送り返す。
無論違法行為だ。
だが、いや、だからこそ金になる。
俺は寝る間を惜しんでプロテクトを外し続けた。もう何日も仕事場から家に帰っていない。愛しいミアにも会えていない。
くそっ、会いたいぜ、ミア。会っておまえを強く強く抱きしめたい。
もう少しだけ待っていてくれ。
全てを清算したらおまえの元に必ず帰る。
俺はおまえの不味いチキンパイを死ぬほど食べたいんだ。
目が覚め、それが夢であると知り、私は落胆した。
彼はドリーマーの調整技師だった。それも違法の。
危険なことはやめて、私は何度も彼に懇願したが、彼は笑って、危険なことなんて何もないさ、と聞き入れなかった。
だが彼は組織同士の抗争に巻き込まれ、命を落とした。
人は誰でも見たい夢を見る権利がある、というのが彼の口癖だった。
彼の考えていたことを理解しようとして、私は何度となくドリーマーで彼の夢を見た。
そしてそのたびに失望し、落胆した。
「おばあさま、起きていらっしゃる?」
孫娘のエミリーが寝室に顔を覗かせた。
えぇ、とっくに、私は破顔して答える。
「おばあさま、耳につけているそれはなあに?」
ドリーマーはとうの昔にプログラムの如何に関わらず法律によってその所有自体が禁止されている。エミリーが知らぬのも無理はない。
「これは、おまじないみたいなものね。昔の機械。ぐっすり眠れるの」
「ぐっすり眠れるの?素敵ね。私もつけてみたい」
孫娘の無邪気な願いに苦笑する。
「駄目よ、あなたにはまだ早いわ。あなたみたいな年頃の子がぐっすり眠りたいのであれば昼間たくさん運動すればいいことよ。これは私のような、運動ができなくなった年寄りのためにあるものなの」
「なーんだ、つまんないの」
そう言ってエミリーはぷぅと頬を膨らませた。
エミリーとの他愛ない会話に心の安らぎを覚えながら、もしかしたらこの光景も穏やかな老後を過ごしたいと願う、誰かの夢なのかもしれないと私は思った。
だがそれはレム睡眠潜在意識誘導装置、通称「ドリーマー」が発明されて初めて保証された権利だった。
ドリーマーを使えば見たい夢を見ることが出来る。映画俳優になるのも、プロのスポーツ選手になるのも、好きな場所に行くのも、好きなものを好きなだけ食べるのも思いのままだ。
だが現実の世界で法律によって禁止されていることを、例えば人を殺す、女を犯すといった犯罪行為がそれに当たるのだが、ドリーマーを使って夢で見るのはやはり法律によって禁止されていた。
禁止した奴らの言い分はこうだ。
犯罪行為の夢を見れば、そのことが犯罪行為の助長に繋がる、だそうだ。
俺の考えは違う。
夢の中で女を散々レイプした奴が朝起きて女を襲うか?
性犯罪者だって無限に性欲があるわけじゃない。寝ている間に二度も三度も文字通り“夢”精すれば、起きてから女を襲うのは無理ってもんだ。
むしろ性犯罪者や殺人願望を持つ者など危険な連中には奴らの願望を叶える夢を見せるべきだ。そうすれば現実の犯罪は確実に減る。
お偉方はそのことがわかっちゃいないんだ。
そんなわけで一般に販売されているドリーマーでは殺人や強姦といった犯罪行為の夢を見ることが出来ないようになっている。
そこで俺の出番だ。
禁止された夢もそうでない夢も夢に変わりはありゃしない。要はドリーマーに掛けられたプロテクトを外せばいいだけの話だ。
俺の元には毎日のように大量のドリーマーが送られてくる。送られてきたドリーマーをプロテクトを外し送り返す。
無論違法行為だ。
だが、いや、だからこそ金になる。
俺は寝る間を惜しんでプロテクトを外し続けた。もう何日も仕事場から家に帰っていない。愛しいミアにも会えていない。
くそっ、会いたいぜ、ミア。会っておまえを強く強く抱きしめたい。
もう少しだけ待っていてくれ。
全てを清算したらおまえの元に必ず帰る。
俺はおまえの不味いチキンパイを死ぬほど食べたいんだ。
目が覚め、それが夢であると知り、私は落胆した。
彼はドリーマーの調整技師だった。それも違法の。
危険なことはやめて、私は何度も彼に懇願したが、彼は笑って、危険なことなんて何もないさ、と聞き入れなかった。
だが彼は組織同士の抗争に巻き込まれ、命を落とした。
人は誰でも見たい夢を見る権利がある、というのが彼の口癖だった。
彼の考えていたことを理解しようとして、私は何度となくドリーマーで彼の夢を見た。
そしてそのたびに失望し、落胆した。
「おばあさま、起きていらっしゃる?」
孫娘のエミリーが寝室に顔を覗かせた。
えぇ、とっくに、私は破顔して答える。
「おばあさま、耳につけているそれはなあに?」
ドリーマーはとうの昔にプログラムの如何に関わらず法律によってその所有自体が禁止されている。エミリーが知らぬのも無理はない。
「これは、おまじないみたいなものね。昔の機械。ぐっすり眠れるの」
「ぐっすり眠れるの?素敵ね。私もつけてみたい」
孫娘の無邪気な願いに苦笑する。
「駄目よ、あなたにはまだ早いわ。あなたみたいな年頃の子がぐっすり眠りたいのであれば昼間たくさん運動すればいいことよ。これは私のような、運動ができなくなった年寄りのためにあるものなの」
「なーんだ、つまんないの」
そう言ってエミリーはぷぅと頬を膨らませた。
エミリーとの他愛ない会話に心の安らぎを覚えながら、もしかしたらこの光景も穏やかな老後を過ごしたいと願う、誰かの夢なのかもしれないと私は思った。