この世界の憂鬱と気紛れ

タイトルに深い意味はありません。スガシカオの歌に似たようなフレーズがあったかな。日々の雑事と趣味と偏見のブログです。

イースタン・プロミス。

2008-09-29 23:56:31 | 新作映画
 デヴィッド・クローネンバーグ監督、ヴィゴ・モーテンセン主演、『イースタン・プロミス』、9/27、佐賀シエマにて鑑賞。2008年43本目。

 自分の知るクローネンバーグは、といっても彼の全作品を鑑賞したというわけではないのだけれど、不快と難解さの人だったように思う。
 観るものの不安を煽るような演出、鑑賞後の後味の悪さ、作品理解を拒絶するような物語のわかりにくさ、そういった本来マイナスのファクターこそがクローネンバーグの最大の特徴だといえるのではないだろうか。

 だが、『イースタン・プロミス』においてそのようなマイナスのファクターは存在しない。
 恐ろしく安定したカメラ・ワーク、極めてシンプルなわかりやすいストーリー、そして希望が見出せる結末。そういった、いわばハリウッド的といってもよい、プラスのファクターはこれまでのクローネンバーグ作品では無縁だったはずだ。
 でありながら、『イースタン・プロミス』は紛うことなくクローネンバーグの作品だった。
 これにはただ、ひたすら感心するしかない。
 ピカソの絵が、素人目には青の時代とキュビスムの時代ではまるで共通点を見出せないにも関わらず、どちらも一目でピカソの絵だとわかるようなものではないだろうか。

 クローネンバーグが傑作バイオレンス・アクションを撮るなどと、十年前なら誰が信じただろう?
 しかし本作の公衆浴場での死闘はまさに白眉だった。ここ十年来見た生身の人間同士の戦いの中ではこれほど息を飲む迫力のものはなかったような気がする。このシーンを観るだけで本作は観るべき価値がある、といってよいと思う。

 お気に入り度は★★★★、お薦め度は★☆(★は五つで満点、☆は★の半分)。
コメント (3)
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