ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 服部茂幸著 「偽りの経済学ー格差と停滞のアベノミクス」 岩波新書

2019年03月30日 | 書評
分校跡の桜と筑波山

日銀黒田の異次元金融緩和策による物価上昇2%目標はうそ、格差と停滞のアベノミクスは破たんした 第10回

3) デフレ脱却という神話 (その2)

日銀の仕事は貨幣を供給することにあり、金融機関への貸付と国債などの証券の購入を行う。日銀の供給した資金の総量をマネタリーベースと呼び、日銀当座預金と銀行と人々の現金保有量の和に等しい。銀行などの金融機関の間で資金を貸し借りするところをインターバンク市場と言う。日銀はこの金利(コールレート)の操作を通じて金融政策を行う。現在このコールレートはほぼゼロである。岩田やリフレ派はマネタリーベースを増価させればインフレ期待が発生し、消費者物価は上がると信じていた。このマネタリーベース増加政策を 量的金融緩和と呼ぶ。FRBのバーナンキはアメリカの金融緩和と日本のそれは異なるという。FRBはより長期の金利を低下させることが目的で、日本はマネタリーベースの拡大が目的だという。バーナンキは日本の量的緩和に否定的である。日銀は当初、長期金利を引き下げるため年間50兆円の長期国債を購入することにした。加えて社債、株式投資信託ETF、不動産投資信託REITも購入した。これは社債の金利を下げ、株価や不動産価格を引き上げるための措置である。当初は消費者物価が上がり始めたが途中で息切れして下がり始めたので、日銀は次々と追加の緩和措置を繰り返した。2014年10月追加緩和によって買い上げ国債を80兆に拡大した。2015年12月には補完緩和によって、ETFやREITの買い入れ枠を拡大した。2016年2月には日銀はマイナス金利政策を導入した。日銀当座預金金利のうち10-30兆円に-0.1%の金利を掛けた。長期国債の金利もマイナスとなった。このマイナス金利策は金融機関の反発が大きかった。いつからか日銀政策が金融緩和政策から金利政策に変更になったのは奇である。日本の国債新規発行は年30-40兆円、日銀の国債購入は80兆円である。日本の国債残高は1000兆円になる。国債は金融機関の担保であり、生命保険などの機関投資家にとって国債は重要な運用先である。日銀が全部買い取ることはできるわけではない。このままいけば2017年度中には国債購入は行き詰まることになる。日銀が国債を大量購入すれば、国債はひっ迫し国債価格は上昇するだろうが、消費者物価が連動して上がるとは限らない。またそれ以上に出口問題は深刻である。2016年9月にはETFの買い付け枠を拡大した。同時に長短金利操作付き量的・質的金融緩和策が導入された。10年物国債の金利がゼロとなった。そして同年10月には消費者物価上昇2%の目標の達成時期を2018年度まで引き延ばした。しかし日銀が目標とする物価上昇率と実体経済の間にはそれほど密接な関係があるのではない。日銀が次々と矛盾する弥縫策を打って、周辺部を改良することで、理論の中核部はないがしろにされ、何か手段で何が目標なのか見失っているようである。黒田・岩田の日銀リフレ派首脳部は日本経済の主要な問題について間違い続けている。リフレ派のお手本がFRBにあるが、そのFRBも2008年の金融危機においては一貫して間違い続けた。アメリカの証券市場中心の金融システムはリスク管理ができているという過信、金融緩和政策はデフレを防ぐことができるのでバブルが生じても構わないという無責任な態度がそれであった。当時のFRBには「うぬぼれ」と「否認」が支配し、最後には「崩壊した」というストーリ展開であった。彼らニューケインジアンの経済モデルでは、金融緩和政策が物価を安定化させれば、一時的ショックはあっても速やかに経済は完全雇用の水準に戻ると仮定されている。バブルが崩壊した後に金融緩和を行えば、経済は速やかに回復するというFRBの後始末戦略が作られた。金融恐慌は金融機関を壊滅させたがバーナンキ経済学も破滅させた。

(続く)