ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 服部茂幸著 「偽りの経済学ー格差と停滞のアベノミクス」 岩波新書

2019年03月26日 | 書評
日銀黒田の異次元金融緩和策による物価上昇2%目標はうそ、格差と停滞のアベノミクスは破たんした 第6回

1) 低成長が続く日本経済 (その3)

リフレ派は世界の中で日本だけがデフレの中で経済停滞に陥っていると主張していますが、本当にそうなのでしょうか。IMFによると、主要国の人口一人当たりの実質GDPを見ると、2000年から2016年まで日本はアメリカやイギリス、ユーロ圏とほぼ同じように増加を続けています。ドイツだけは伸び率が抜きんでています。現役世代人口一人当たりではアメリカよりも高いのです。GIIPSを抱えるユーロ圏やイギリスも金融恐慌以後の回復が日本に追いつき始めています。OECDのデータより現役世代(15-64才)の就業率の推移を見ましょう。日本の就業率は1990年代後半から70%を切り低下傾向にあったが、2000年代に入ると就業率は上昇に転じ、2008年の世界金融恐慌前には71%になった。恐慌により一時的な低下があったが2016年には74%と過去最高水準となった。今就業率がそのレベルにある国はイギリスドイツ、日本である。アメリカは70%とアメリカの雇用回復は芳しくない。アメリカの実質上の失業率はなお10%程度であろう。ただし日本の就業率の質的内容を見ると日本で増加しているのは短時間労働(派遣、パート、バイト)就業者である。リフレ派は1930年代のアメリカ大恐慌や戦前の我国の高橋蔵相財政政策の教訓を金融緩和策の権威付けに使っている。1925年から1940年の日本とアメリカの実質GDPの推移を見ると、1931年高橋是清財政によって経済は順調に拡大し1935年には実質GDPは恐慌前の1.4倍に拡大した。十分経済は回復したと見た高橋は緊縮財政に切り替え軍事費を削減した結果、1936年2.26事件で軍部によって暗殺された。アメリカでは恐慌によってGDPは30%も減少し、ルーズベルト大統領のニューディール政策が1933年より始まり回復が軌道に乗った。1939年には著しい経済回復の成果と格差の縮小という効果を挙げた。ナチスドイツもV字型回復を成し遂げている。高橋財政は世界の中でいち早く復興を成し遂げた点で、今の取り残されたアベノミクス日本とは正反対である。アベノミクスでは経済回復は停滞し格差が拡大している。根本的に金融政策の志と方向性が間違っていたのであろう。高橋財政では経常収支は改善されていない。1930年代の世界恐慌期には、金本位制を廃止し通貨を切り下げた国が一番早く経済を回復したが、経常収支には手を付けなかった。フリードマンらの大恐慌論は金融政策の失敗によってデフレが生じたことにあった。だからバーナンキは金融政策はバブルを無視しても構わない、バブル崩壊後に経済が停滞した時は金融を緩和すれば経済は直ちに復活するという理論が、今日の異次元金融緩和を支えている。フリードマン説はバブル崩壊や金融恐慌が大恐慌とは無関係であると考えている。フリードマンはマネーストックの急減が大恐慌の原因だと述べた。このマネーストックの急減も金融恐慌の結果である。また金融恐慌後の注目すべき特徴に一つは、財政拡張論者の増加である。浜田も2017年に財政拡張論に転換した。バーナンキも政府出動を要請している。バーナンキとFRBは2000年代の住宅バブルを放置した。金融緩和で事態が容易に回復するというのが彼らの主張なら、なぜ国家による金融機関の救済を行ったのだろうか。2008年の金融恐慌はフリードマンやバーナンキのリフレ理論を粉砕したのだ。アベノミクスの下の日本経済は2013年以降、何の危機も存在しない回復期に経済停滞をしている。これこそ異常事態である。

(つづく)