ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 服部茂幸著 「偽りの経済学ー格差と停滞のアベノミクス」 岩波新書

2019年03月27日 | 書評
日銀黒田の異次元金融緩和策による物価上昇2%目標はうそ、格差と停滞のアベノミクスは破たんした 第7回

2) 雇用は増加していない (その1)

前章が総論だとすると、この章では実体経済と雇用、労働生産性との関係に焦点を合わせている。2008年の世界金融危機以降は日米欧ともに経済停滞に苦しんでいる。EC、ヨーロッパ中央銀行、国際通貨基金IMFはギリシャ財政破綻に対して緊縮財政を押し付けた。その結果ギリシャ経済はさらに停滞した。EUのプログラムは失敗に終わったにもかかわらず、EU指導者は緊縮財政の成果を宣伝し続けている。日本でもアベノミクスが失敗した証拠が続々集まってきても、政府日銀は目標を達成しつつあると宣伝している。アベノミクスが4年経過して、物価上昇率はほぼゼロ程度であるが、そのうち良くなるだろうくらいの気持ちではないか。政策者は失敗を隠して、成功ストーリだけがメディアに宣伝されている。かれらの嘘をひとつづつ暴いてゆこう。アベノミクスの成果としてよく出てくるのが雇用の改善である。実体経済が低迷しているのに雇用が改善したとは奇妙である。これにトリックがある。内閣府データによる就業者数と延べ就業時間、労働生産性の推移を見ると、2011年の東日本大地震の混乱期を除いて(2010年と2011年度データー欠損)、就業者数は2000年以来減少を続けていたが2005年以降就業者は増加に転じた。2013年より再び増加になった。2012年を100として2016年度は103であった。労働力調査における就業者の定義は週1時間以上働いた人の数である。残業も含めて週60時間働く人も数時間しか働かないアルバイトの人も同じ就業者にカウントされる。そこで延べ就業時間数の推移を見ると2000年以来微減の一途であった。2016年で99であった。延べ就業時間は就業者数と連動していない。雇用の正しい指標を使えばアベノミクス期に雇用は全体として減少しているということが結論である。延べ就業時間増加率と実質GDP増加率との間に「オーカンの法則」(実質GDPが増加すれば失業率が低下する)を置いて考えると、労働生産性=実質GDP/延べ就業時間であるから、労働生産性は2000年以来著しく増加してきた。2010年の労働生産性85から2012年に100となり、アベノミクス期には増加率は低くなって2016年には108であった。現役世代人口は2001年以来一貫して減少しているので、延べ就業時間数が減少しいるのは、労働市場において需給のひっ迫から失業者が低下して原因である。アベノミクス期の人手不足は仕事量GDPが増えたからではなく、現役世代人口が減少し労働供給が減少したからである。従ってこれからの日本は労働生産性の向上なくしては経済成長は望めない。このような状態でアベノミクス期に労働生産性の上昇率が低下したことは中長期的には由々しき事態となる。就業者数が増えたというトリックは、急増する短時間労働者数の増加が要因である。総務省データより週就業時間別の就業者数の変化を見てみると、週29時間以上就業する長時間就業者数が減少している。より短い就業時間の労働者は増加している。アベノミクス期が始まった2012-2014年には短時間就業者は120万人増加したが、週40時間以上の長時間就業者は100万人も減少した。長時間就業者の大部分は現役世代の正規社員である。現在日本で就業者が増加しているのは女性と引退世代である。産業別に見ると、雇用が著しく拡大しているのは医療・福祉である。他方雇用が減少しているのは製造業・建設業である。雇用形態では正規社員が減って非正規社員が急増した。世界同時不況からの回復期になぜ就業者が増加していないのだろうか。普通は不況からの回復期の成長率は高いのが常識である。急速な成長が雇用を生まなかったのはアベノミクスの謎である。

(つづく)