ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 服部茂幸著 「偽りの経済学ー格差と停滞のアベノミクス」 岩波新書

2019年03月29日 | 書評
写真:茨城県西部の春の景色  菜の花の鬼怒川土手と桜

日銀黒田の異次元金融緩和策による物価上昇2%目標はうそ、格差と停滞のアベノミクスは破たんした 第9回

3) デフレ脱却という神話 (その1)

総務省のデータより、消費者物価上昇率と輸入物価上昇率の推移を見てゆこう。2013年異次元金融緩和が始まると、消費者物価上昇率がプラスに転じた。日銀はインフレ目標の対象とする指数は、生鮮食品を除く指数(コア指数)である。このコア指数の上昇率は、2014年4月には1.5%まで上昇した。しかしその後石油価格の下落によって消費者物価指数上昇率は再び低下した。2016年12月のコア指数上昇率はマイナス0.2% であった。日銀の公約は4年後にあっさり反故にされた。輸入物価上昇率の変化に6か月の遅れを伴って消費者物価上昇率は連動している。実は円安はアベノミクスの始まる前から生じており、それが輸入物価を引き上げていた。輸入インフレがそれである。金融緩和によって人為的な円安が急速に進行すると輸入インフレは一層加速された。アベノミクス初期の消費者物価上昇は円安による輸入インフレに支えられていたことが分かる。ところが2014年後半から原油価格が急落する。15年後半から揺り戻しの円高も始まって、消費者物価上昇率もマイナスへと下降した。円安は原材料(燃料を含む)のコスト上昇だけでなく、海外同業他社の製品価格の上昇になり製品価格を引き上げることになった。一般サービスは原油など輸入物価の影響を受けることは少ない。岩田日銀副総裁は2014年輸入インフレでは物価上昇はないと反論した。一部の輸入品の高騰により家計が圧迫されほかの財の価格が低下するので差し引き物価は必ずしも上がることにはならないという理屈である。これは為にする論で根拠にかけている。円ドルレート、輸入物価と各種消費者物価の上昇率の相関係数を6か月のラグをとって求めると、1998-2013年のアベノミクス以前では円ドルレートと消費者物価の相関性はなく、輸入物価と消費者物価の相関性とくに生鮮食品を除く消費者物価の相関は0.5程度で相関性はあることが分かる。アベノミクス期を含む2005-2016年では円ドルレートと消費者物価(コアーとコアー・コアー物価を含めて)の相関係数は0.4-0.6と断然相関性が高くなる。輸入物価と消費者物価の相関係数は0.5程度でアベノミクス以前と同じような相関性が見られる。原油価格の急落はエネルギー価格を引き下げるので、生鮮食品を除く消費者物価上昇指数であるコア指数の上昇率は大きく下がりマイナスとなる。そこで日銀は生鮮食品とエネルギーの二つを統計から外し日銀コア・コア指数とする恣意的な定義変更を提唱した。ところが2016年になると日銀コアコア指数も上昇率は低下した。2015年初めから世界的な原油価格の低落を受けて輸入物価は急速に低下した。2016年初めには原油価格は底を打ったが、コア指数の上昇率はマイナスのままである。日銀コアコア指数の上昇率も0.1%まで低下した。実際の物価上昇率はゼロに近かった。世界的な原油価格の急落も急激な円高も政府日銀にとっては想定外の出来事だったかもしれないが、無限の円安を続けることこそ不可能であったのだ。先進国が新興国並みの為替レートに人為的に戻ることはショック療法かもしれないが中長期的に経済と生活の破壊である。2016-2017年の物価上昇率はゼロ近傍で安定している。日銀は物価上昇率を高く評価したいために日銀コアコア指数だとかGDPデフレーターを物価の基調として使用したいようだが、余りにもご都合主義で恣意的である。消費者物価の加重中央値の上昇率で評価するのが妥当とする筆者の見解でデーターを見ると、消費者物価上昇率は2013年よりプラスに転じ、2014-2015年には0.1%を維持したが、2016年にはゼロになって安定したというべきであろう。アメリカの物価上昇率の推移を見ると、2008年の世界金融恐慌で大きくマイナスに低下したが、回復は早く2010年より2014年まで2%で安定し、2015年石油価格下落によって再びマイナスとなったが、2016年に2%に回復した。特に中央値に関してはアベノミクス以前からゼロ近辺で低位安定だった日本とは対照的である。日銀はアベノミクスの始まった2013年3月に消費者物価を2%に引き上げると公約した。まず2014年10月日銀は目標の達成時期を15年度末までと引き延ばし、2015年4月には16年度前半までに引き延ばし、同年10月には21016年度末までに引き延ばし、2016年4月には17年度末までに引き延ばし、2016年10月には2018年度後半まで引き伸ばした。ということは黒田日銀総裁の任期は4年として、2018年3月までには黒田氏の手でデフレ脱局が達成できないという見通しを日銀は認めたことになる。

(つづく)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿