ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 宇沢弘文著 「ケインズ一般理論を読む」 岩波現代文庫

2013年03月29日 | 書評
市民に分かるようにケインズ「雇用・利子及び貨幣の一般理論」を解読する 第17回

第7講 第5篇「貨幣賃金と価格」(1)
 古典派理論は完全雇用のもとで均衡価格体系(賃金を含めて)が実現するといい、もし失業が発生するとすればそれは硬直した高賃金によるものであり、貨幣賃金を下げれば生産費用は低くなって物価は下がり賃金単位の総需要額は回復し、生産量も雇用量も増加すると主張する。古典派の雇用理論はビグーの「失業の理論」にまとめられている。これに対してケインズ理論は労働雇用量は主として有効需要の大きさによって決まり、賃金の切り下げによって有効需要は増えないと主張する。この貨幣賃金の低下が雇用量、消費性向、投資の限界効率、利子率に与える影響をケインズは分析して、次の5つのポイントを指摘する。
①貨幣賃金の定家によって価格水準の下落が見られる。労働者の賃金が低下すると、消費が減少し企業の収益も低下する。
②国際貿易を伴う開放体系では、1国の貨幣賃金の低下は国際貿易競争力を増し投資を促進する。国民所得の向上につながる。
③開放体系では貨幣賃金の低下は貿易収支は改善されるが、交易条件は悪化し実質所得の低下と全雇用量の減少となる。
④賃金低下が短期で回復する期待では市場利子率の低下、投資が活発化するが、長期にわたって低迷が続くと期待されると効果は逆転する。
⑤貨幣賃金の低下が企業の負債を重くする。国債についても同じである。
つまり貨幣賃金の低下が及ぼす効果は短期期待と長期期待で相殺するので、長期不況の誘因となりかねない。経済がこのような状態になって有効需要が低くなったときには、もうこれ以上は落ち込まないという政府のメッセージが明暗を分けるのである。全く経済は期待で動く動物である。一般的には貨幣賃金を安定的な水準に維持するのが、外国貿易の問題を考えないときには望ましい政策であり、伸縮的な外国為替相場制度でも同じことが言える。このようにケインズは貨幣賃金を固定化することで短期的な雇用の変動をすくなくし、価格も安定するという。しかし長期的には2つの選択肢があるという。貨幣賃金を固定して価格水準が年々低下するか、価格水準を一定にして貨幣賃金を年々上昇するかの選択である。
(つづく)


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