ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 目で見る科学1 藤田恒夫・牛木辰夫著 「細胞紳士録」 (岩波新書カラー版 2004年3月 ) 

2014年02月05日 | 書評
さまざまな形態と機能を持つ57の細胞の顔 第1回



 岩波新書カラー版に面白い企画の本があった。ひとつは本書 藤田恒夫・牛木辰夫著 「細胞紳士録」であり、二つは野本陽代・R.ウイリアムズ著 「ハッブル望遠鏡がみた宇宙」である。前者はミクロな世界を(といっても素粒子ではなくもっと大きなμ単位の細胞である)、後者はマクロな数千億光年という宇宙のことである。前者は光学・電子顕微鏡の見る世界で、後者はハッブル望遠鏡の見る世界である。どちらの本も理論を展開するのではなく、目で見る科学の本である。めったにお目にかかれる写真ではないので、その衝撃は大きかった。写真は形態を記録するもので、そこから直接的に理論が導かれるわけではない。ハッブル望遠鏡写真は、核の衝突で出てくる粒子の軌跡から新素粒子を実証するように、その背景には膨大な計算が必要である。その点細胞の顕微鏡写真は分子を見ることはできないが、細胞の働き(機能)の謎を解くことができる。細胞の形態はとくに進化や発生分化と密接に絡んでいるので、細胞の場所と形態は生物のミクロな情報を与えることができる。「構造と機能」という捉え方をすると、機能が先か構造が先かという問いには、やはり機能が先という考え方が素直である。進化論でいつも問題になるのは擬似動物心理学で説明するバカらしさであるが、発生の時点でその細胞が局所的に独自に与えられた機能を発揮するために適した独自の形態をとることで細胞は生き延びてきた。構造から機能は絶対に説明できないからである。上図にすべての細胞が持つ基本構造を示した。細胞は大きくは核と細胞質に分かれる。細胞には遺伝子を内蔵する核質があることが生物の基本である。遺伝子によって細胞は複製でき生命を伝達する。遺伝子はDNAであるが、これをRNAに転写する核小体が核質の中にある。DNAはクロマチンというタンパクと結びついて染色体を構成する。ここでできたRNAは核の穴を通ってリゾソームというたんぱく質翻訳製造工場へゆく。一番重要な遺伝子関係機関以外としては、細胞質に細胞小器官が内蔵されてる。リボソームもそうであるが、ゴルジ装置、小胞体、呼吸とエネルギー製造機関であるミトコンドリア、中心体、タンパク質分解装置であるライソゾーム、物質搬出機関である分泌顆粒などが細胞質に存在する。また細胞の骨格づくりと運動に欠かせない繊維であるアクチン、ミオシンも存在する。体の中のどの細胞も以上の器官を含んでいるが、構造の発達や配列の度合いの違いが細胞の顔つきとなる。むろん細胞は組織の一員であるので、その機能を発揮するために存在するので、バラバラの動きをするわけではない。特定の物質を製造するために遺伝子の発現が促進されたり抑制される。植物細胞にはどの細胞1つからでも植物全体を再生する能力があるが、動物細胞にはその能力はない。肝臓細胞が筋肉細胞になれるわけはないのである。ところがiPS細胞技術はこの細胞の分化機能を操作するためにがん細胞の増殖能関係遺伝子を入れるのである。だからその細胞の境界は遺伝子操作技術の進歩で次第にあいまいになりつつある。細胞の形や存在する物質を検出するため、光学顕微鏡では細胞固定と染色(ヘマトキシリン・エオジン染色)を行う。がん細胞検診では光学顕微鏡染色で行っている。経験によるがん細胞の顔つきの判定をおこなうので、がん細胞検診にはあいまいなところが多いのである。光学顕微鏡の倍率は1,000倍が限度であり、透過型電子顕微鏡と走査型電子顕微鏡の世界では数万倍の拡大が可能である。透過型では切片標本をつくる点では光学顕微鏡と同じであるので、断面の透過像が白黒で撮影される。したがって細胞の内部が見える。走査型は反射光の処理により外形の形がそのまま観察できる面白さがあるが、内部は見えない。画像は白黒写真である。筆者らが在職していた(いる)新潟大学医学部第3解剖学教室(現在は顕微解剖学分野)は、走査型電顕による細胞の立体構造の研究では、特異な位置を占めて世界をリードしている。本書でも白黒の走査型電顕写真の組織画像に色を付けてわかりやすく説明するのがユニークである。明治時代のセピア写真に色を付けたようなレトロな感じのする画像である。では本書が披露する細胞写真を見てゆこう。人体の細胞のすべてではないが、代表的な細胞57種を取り上げている。本書には細胞1項目当たり4-7図ぐらいが掲載されており、光学顕微鏡染色写真、透過型電子顕微鏡写真、走査型電子顕微鏡写真のなかで、細胞の形態と機能が分かりやすい走査型電顕写真のみを下の表にアップする。細胞内の構造は透過型電顕写真が適しており、組織内の細胞の形と位置関係は走査型電顕が適している。

(つづく)


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