ブログ 「ごまめの歯軋り」

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山口育子著 「賢い患者」 岩波新書(2018年6月)

2019年08月21日 | 書評
梨(豊水)

患者本人の意思を尊重し、患者・医療者の賢明なコミュニケーションを目指す活動 第8回

4章) 患者が医学教育に関わるー模擬患者

この4章から6章までは、国(厚生労働省)、医療機構(病院)、患者団体(NPO、COLMもその一つ)の共同事業として、COMLに委員会へ参加要請があった活動記録です。4章は初期研修医(医師試験を合格して2年)の医療面接セミナーでの、COMLが要請している模擬患者とのやり取りを紹介しています。模擬患者にも2種類あります。一つはコミニュケーショントレーニング用(シュミレーション)の模擬患者、もう一つはOSCEと呼ばれる客観的臨床能力試験の医療面接用(スタンダード)の模擬患者で、どちらもSPといいます。前者は研修医の相手役でトレーニングが主目的です。実態にあった設定を行い、年齢、性別、名前、生活背景、病状を詳しく設定します。アドリブの面談中に困った部分、説明が理解できなかった部分に焦点を当てて反省しフィードバックを行います。初期研修の医師や学生はこのフィードバックの印象を今でも鮮明に覚えているそうです。米国では1970年代にシステム化したといわれています。COMLでは1993年より実施してきた。1992年辻本好子が米国取材に出かけたとき感激を受け、奈良県立医大の医師と取り組みを始めたそうです。模擬患者を用いた医療面接を国家試験に導入する風潮が拍車をかけた。評価のための模擬患者は「標準化された模擬患者」と言われマニュアル化され答える内容も決まっています。医学部と歯学部では2005年より共用試験が行われ、その一つにOSCEと呼ばれる客観的臨床能力試験(実技)があります。模擬患者は大学などで養成する場合もあり、COLMのような団体に所属する模擬患者もいます。模擬患者として活動する意義は、患者側から「医療者の養成に役立っている」、医療側から「患者さんの生の声が聴ける」などといわれています。ただし医療側と患者側の視点は異なります。医師側は見事に説明することに関心を持ちますが、患者側は一方的に進んだという不満を持ちます。日本では医師国家試験に導入するのは難しいとして見送られましたが、2015年厚生省国家試験検討部会は、臨床実習後のOSCEとして2020年に実技試験を行う方向を示しました。筆者山口氏はこの検討委員に加わり深くかかわっています。医療倫理の涵養という問題など、まだ難しい問題が残っています。

(つづく)


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