ブログ 「ごまめの歯軋り」

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野田又夫著 「デカルト」 岩波新書1996年

2019年10月15日 | 書評
渡良瀬遊水地 周回サイクルロードより

近世合理主義哲学・科学思想の祖デカルトの「方法論序説」入門書  第18回 最終回

第26講) デカルト哲学と現代

デカルトの現代的意義を考察する最終講である。「方法序説」で見てきた人間の在り方、すなわち無限な宇宙を客観的科学的に見るとともに、その中で自らの自由意志によって善を選ぼうとする態度がデカルト哲学の核心であり原理でした。デカルトの考えは世間で言われような精神と物体の二元論ではなく、知性的客観性と意思的主体性(道徳的実践)との二元論です。デカルトの百年余り後に出たカントは理論と実践の対比を表面に出しましたが、デカルトの二元論までは徹底していません。これをデカルト主義(カルテジアニズム」と呼んでいます。デカルトの次の世紀18世紀には、デカルト主義は自由思想家によって継承され、「啓蒙主義」を生み出した。ヴォルテールはニュートンの力学宇宙とロックの政治的的自由を学んだが、科学と倫理の間の緊張関係はデカルトを継承しています。18世紀末から「ロマン主義」の思想が横行し、文学的には古典主義に対抗する概念ですが、機械的自然を嫌い、「汎神論」、神秘主義で世界を見ることを主張した。本より科学的ではなく文学的価値観を重視する二元論否定派でした。ロマン主義は多価値相対性で多種多様をもって自然観としています、その考えは「生命哲学」として今日まで生きています。実存主義は価値の相対論に反対していますが、科学については体系化を嫌うロマン主義の態度を継承しています。では19世紀以降科学的世界認識はどうなったのだろうか。①論理と数理との吟味から、より普遍的な非ユークリッド幾何学が生まれた。②科学の分化とともに様々な科学の分野が生まれた。世界の科学的認識の幅は大爆発を起こした。素粒子論はまだ全体像さえつかめない混沌状態となり、相対性理論による天文学と宇宙像の革命が起こり、医学、生命工学、脳科学の進歩は生命倫理と鋭く衝突している。そして科学の普遍性、グローバリズムは有無を言わさないスピードで進んでいる。すなわち世界的知の客観性に評価は、激しい変革期にありまだ予断は許さない。

(完)


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