ブログ 「ごまめの歯軋り」

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石母田正 著 「日本の古代国家」 岩波文庫

2019年05月30日 | 書評
浜名湖(5/16 新幹線の車窓より)

推古朝から大化の改新を経て律令国家の成立に至る過程を論じた7世紀日本古代国家論  第22回

第4章 「古代国家と生産関係」 (第3講)

1) 首長制の生産関係
1-3) 田租と調の原初形態:
 令制の租・庸・調・雑徭役のうち、田租と稲出挙という税の問題に入る。稲の形における剰余生産物の収取である。田租は次のような特徴を持つ。①租は他の面積に応じて課せられる。②田租の賦課基準は収穫の3/100という定率である。③この租率は律令制の解体時まで維持された。④租殻の大部分は「不動殻」として正倉の保管された。⑤大宝令では例外はあるが田地は輸租田である。⑥賃租の場合、田租は田主ではなく用益者である佃人の負担。田租制の成立は浄御原令の施行によるが、それ以前の要素も多く含んでいる。「百代三束」という低率賦課を原田租と呼べば、それは旧国造制と不可分の関係(郡稲)にある。旧国造領における税制としての原田租の起源は、宗教的祭礼すなわち共同体首長へのと不可分であり、初穂料として共同体首長に貢納する習慣にある。首長によって管理される共同体の財産(備蓄、種稲分与、祭祀費用など)から、首長の私富に転化すると、その経済関係は階級的秩序に転化する。田租を在地首長に収めることから律令制では天皇に収めることになるが、田租の低率は律令国家の財源としては重要視できないほどであった。古代の調の制度は浄御原令によって人身賦課にとういつされるが、それ以前には田調・戸調・調副物が存在した。律令制国家において公民が国家に納付する田租・調の租税は、臣下が国に収める「地代」に似ている。これらの収取関係にある従属関係は必要以上の過酷さは不要である。従属関係を考察するうえで田租と並んで稲穀収取の重要な形態であった「出挙制」、特に「稲出挙制」が大化改新以前から重要であった。田租の起源が共同体とそこから転化した首長層の経済関係にあるとするならば、出挙制の起源は大化改新以前の「ミヤケ」の「群稲」にあると推定される。それはまた日本の古代社会を一貫する農業生産性の低さでもある。出挙の貸し出しは民戸の農業経営の自立性の低さからくる食料稲の不足を反映している。食料や種もみという形で出挙を受けなければならない生産力の上に立つ農業は、稲殻を集積所有する首長層によって、その再生産を把握されているのであり、かかる農民は必然的に首長層に隷属せざるをえない。支配と隷従が再生産されるのである。

(つづく)