藤井齊
軍部と政党との正面衝突
真に注意しなければならないのは、流の本当の力をなす陸海軍部全体が、
この問題によつて反政党の立場に立ち、そして陸海軍の急進分子間に提携、連絡を生じた事である。
其の間の事情に付ては、之を知るべき文章記録を存しないが、
当時 帝都に近き霞ケ浦航空隊にあつて、海軍側革新派の中心であつた
藤井斉より九州熊本の同志に宛てて、中央の情勢を報告した書簡によりてその大略を窺ふことが出来る。
(2) 昭和五年四月八日附霞ケ浦航空隊藤井齊より九州の同志に宛てたるもの
昨日 西田氏訪問。
北---小笠原---東郷---侍從長、内閣打倒 ( 勿論 軍事參議官、樞府 ) 不戰條約の場合と同様
軍令部長一日に上奏をなし得ざりしは、西園寺、牧野、一木の陰謀のため、言論其他の壓迫甚しい。
小生、海軍と國家改造に覺醒し、陸軍と提携を策しつつあり。御健戰を祈る。
(3) 昭和五年五月八日附霞ケ浦航空隊藤井齊より九州の同志に宛てたるもの
先日は御書簡有難く拝見。
牛深 ( 熊本県下 ) への轉任の由、それ以上西へ行かば何処に行かるる積りなりや十萬億土あるのみか。 呵々。カカ・・笑
軍縮問題は天の下せる命運であつた。 ( 中略 )
議會中心の民主主義者が明かに名乗りを上げて來たのである。
財閥が政權を握れる政党、政府、議會に對して國防の責任を負ふと云ふし、
浜口は軍令部、參謀本部を廢し、帷幄上奏權を取り上げ、軍部大臣を文官となし、
斯くて兵馬の大權を内閣即ち政党の下に置換へて、大元帥を廢せんとする計畫なり。
今や政權は天皇の手を離れて最後の兵權迄奪はんとす。
不逞逆賊の政党 ( 財閥 ) 學者所謂無産階級指導者、新聞、彼等は天皇を中心とせる軍隊に刃を向け來つた。
戰は明かに開始せられた。
國體變革の大動亂は捲き起されつつある。
我等は生命を賭して戰ひ、彼等を最後の一人迄もやつつけなければならぬ。
海軍の中で靑年士官は勿論、將官級の有力なる人が同志となつた。
陸軍の靑年士官と提携は出來た。
而して又陸軍の重鎭或師團長と海軍のそれとの提携も成つている。
○○中にも一名ある。
北氏一派と陸海軍との聯絡は出來た。
これからは益々この結束を固め、深くし、広くし、勃々然たる力となさねばならぬ。
而して生野と大和の旗擧が又必要、民間同志の火蓋を切る必要がある。
恐らくはここ數年であらう。
これ總て先輩同志の言、急迫せる ( 不明 ) 御察を乞ふ。
當地方には有力眞劍の士數名あり、明日會合。
小生はこの問題を促へ活動している。先日は同志數名と海軍省に海軍次官を訪問した。
職權を以て追ひ出すと云ふ迄突込んで行つた。
今相當のセンセイションを捲き起している様子。愛國提言はこれはと思ふ聯中に皆配つた。
鈴木は又一方を會明隊に配つた。
當隊の司令を中心として軍令部長其他へどんどん迫つている。
内閣も近い内に倒れるであらう。
然し其はほんの一部のこと、只糸口に過ぎない。
軍部對政党の溝深刻化しつつあり。只軍人中の ヌエ をたたき切る必要がある。
北氏は軍令部長、同次長にも會つて最後の方法の処迄話したと云ふ。
軍令部の中には段々明らかに解つて來た。
一途は革命維新に通じている。陸、海、國民、の三軍の聯絡はここに取られた。
要は氣運の作成と、同志の鐵の如き團結にある。
希くはこの氣運の急迫を察し、益々御奮戰下さらむことを。
死を決するの用意己にととのへり。
小生は全力をあげて大局の運行に力をつくす。 決意。
齊
「 右翼思想犯罪事件の綜合研究 」 ( 司法省刑事局 )
これは「 思想研究資料特輯第五十三号 」 (昭和十四年二月、司法省刑事局 ) と題した、
東京地方裁判所斎藤三郎検事の研究報告 第四章 ロンドン軍縮条約と其影響
現代史資料4 国家主義運動1 から
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