あを雲の涯

「 二、二六事件て何や 」
親友・長野が問う
「 世直しや 」
私はそう答えた

丹生部隊

2019年04月18日 19時41分02秒 | 丹生部隊

第一歩哨 までくると車を止めて、助手台の田中弥が飛び降りた。
そして右手を高く上げて、「 尊皇 ! 」 と どなる。
そうするとすぐ歩哨が答えて、「 討奸 」っていうんだ。
尊皇、討奸が山と川との合言葉ってわけさ。
それで田中が
「 野戦重砲第二聯隊長橋本欣五郎大佐! 連絡ずみ ! 」
「 ようし、通ってよし ! 」
そこで田中が車で乗り込んで次へ行くと、第二哨 というのがある。

それも 同じように通って、大臣官邸までくると 下士哨 だ。
大かがり火を焚いて着剣の銃を構えたのが十五、六名いたが、すさまじい光景だったね。
なかなか厳重なもんだよ。
ここでも同じようなことをする と、
「 それは遠路御苦労でござる。容赦なうお通り召され ! 」
哨長は曹長だったが、芝居の台詞もどきで大時代のことを真顔でいったね。

まったく明治維新の志士気取りだ
陸相官邸の警戒線はこのように三重になっていた。
最後の内戦は下士官が見張っている。
決行部隊の司令部だけに厳重であった。
橋本は官邸の中に入る。
橋本は広間に行くと、
「 野戦重砲第二聯隊長橋本欣五郎大佐、ただいま参上した。
今回の壮挙まことに感激に堪えん!
このさい一挙に昭和維新断行の素志を貫徹するよう、
及ばずながら此の橋本欣五郎お手伝いに推参した 」
と よばった。

・・・
「 ようし、通ってよし ! 」

丹生部隊
目次
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・ 
陸相官邸 二月二十六日午前九時 
・ 丹生部隊陸軍官衙占據 26日 「 兵隊さん、しっかりやってください 」 
・ 歩兵第一聯隊第十一中隊 幹部候補生 田中孝司 手記 
・ 初年兵 ・ 證言「 眞相知らずに參加 」 
・ 「 聲をそろえて 歸りたくない、中隊長達と死にます 」 
・ 丹生誠忠中尉 「 昭和維新は失敗におわった。 まことに殘念である 」 
・ 
丹生部隊の最期 

香田大尉が軍服の上衣を脱ぎ
「 殺すなら殺してみろ」 
と 狂乱の如く絶叫しながら
我々の整列した近くから
鎮圧軍の包囲網をめがけて
単身、電車通りを突進していった。