あを雲の涯

「 二、二六事件て何や 」
親友・長野が問う
「 世直しや 」
私はそう答えた

丹生部隊陸軍官衙占拠 26日 「 兵隊さん、しっかりやってください 」

2019年04月06日 11時22分46秒 | 丹生部隊


( 26日・・陸軍省 )

約三〇分行進すると隊列は陸軍省前にきた。
ここで我々第二分隊は正門の衛兵を命ぜられた。
丹生中尉はその時
「 これから各所で何かが起こるので その対応として別命あるまで陸軍省の正門警備に任ずる。
同志以外の者の通行を遮断せよ 」
と いうことをいった。
中隊主力は陸相官邸に進んでいった。
夜があけてしばらくすると高官たちが続々出勤してきた。
我々は門前に立哨し着剣した銃を構えて入門を拒んだ。
彼等は我々の物々しい姿にたじろぎながらも 何とか中に入れてくれと頼んだ。
ある少佐が、
「 我々はここに勤務している者だが入ってはいかんのか 」
と つめよった。
「 どんな理由があろうと立入禁止の命令が出ているので通行を認めるわけにはいきません。
入るなら容赦なく発砲します 」
彼等は事態の容易でないのを察知して皆 引上げていった。
立哨は二時間で次の分隊と交代し、夕方まで続けられた。
中隊本部は陸相官邸近くの大きな建物の中に陣取り 焚火をして寒さをしのいだ。
その日は寒い一日であった。
昼間から地方人がつめかけてきて、
「 兵隊さん、しっかりやってください 」
と 激励しながら 果物やお菓子などを沢山差入れてくれた。
私は朝から陸軍省の正門歩哨に立ち通行禁止の命令をそのまま実行しただけだが、
他の部隊は夫々の場所を襲撃し目的を遂げたということをだんだん耳にしたとき、
丹生中尉が日頃訓話された世直しが現在行われていることにようやく気がついた。
地方人がきて激励するのも彼等にかわって我々がやった事に対する感謝の気持ちであることが読みとれた。
こうしてその夜は建物の中で一夜をあかした。
・・歩兵第一聯隊第十一中隊 根岸酉次郎上等兵
    『 水筒に水をつめておけ 』  二・二六事件と郷土兵 から