磯部浅一
左記事項を参照して○○○○○に御相談を願ふ。
一、
寺内の独裁政治を顚覆する為め三月事件告発により
肉迫するは現下に於ける重要なる方策と信ず。
故に不肖は五月二十九日附を以て高等軍法会議に対し、
宇垣、小磯、建川、重藤、橋本の五氏を告発せり。
一、
建川、橋本が予備役に編入らせれし時に、
検事総長に対し同事件を告発するは事態挽回の為め万望に堪へざることなるも、
告発の結果を司法権の公正なる発動に導く為めには
政治的妨害を排除し、
且、検事総長をして決意をなさしむる有力なる佐用あるを要す。
其一は、陸海軍の正義派(現役、在郷の)を結束し、
これを中心とする一団の正論、
其二は、高論の沸騰なり。
これなくんば百の告発も当然に抹殺の運命を避くる能はず。
一、
告発は不肖の名義を以てすること困難なり。
寧ろ荊妻の名義を以てするか、為し得べくんば有力者の名義を以てするを可とす
(大化会岩田富美夫氏等は可ならずや、民間団体の輿論(ヨロン)の支持を受くる為めにも)。
告発に必要なる事実は、
荊妻保管の「告訴追加」(村中、磯部両名より第一師団軍法会議に宛てたる未呈出のもの)
と 題する印刷物中の「三月擬包音事件」といふ項にて十分なり
(山口一太郎氏を証人とすること----前記事項は同志の直話なり)。
又、被告としては、宇垣、建川、橋本、大川周明、清水行之助を選定せば可ならん。
一、
荊妻をして告発せしむるを可とする場合、
同人を引見の上、其方策、要領を詳密に教示ありたし。
一、
輿論喚起のためには新聞を利用するを第一とするは明白にして、
新聞社探訪記者に対し荊妻の近状として、宇垣、建川等を告発せること、
告発の動機等を語らしめて新聞に掲載し得れば極めて効果的ならん。
之が為め 東京日々社会部記者石橋某は利用価値あらん
( 同人は相澤中佐公判中 山口大尉と連絡し特ダネ記事を掲載せり )。 /…リンク→山口一太郎大尉 ・ 壮丁父兄に訓示
一、
陸軍不純幕僚を壊滅する為めには十月ファツシヨ事件を摘発するを可とす。
同事件は六月上旬菅波三郎大尉より告発し、
軍法会議に於ては或程度捜査を行ひたる如く、
又、同事件を熟知する大岸大尉(和歌山歩六一)は予審官に対し詳細陳述せり
( 林大将が中心的黒幕なりといふ----大岸大尉の言 )。
本事件は海軍幕僚、会員組合委員長(浜田国太郎)等の関係あるものなるを以て、
海軍司法権の発動により陸軍を牽制し得れば事態転換のため効あらん。
一、
何れにせよ、正理正論の行はるゝ世にあらず。
断(弾)圧の中心なる陸軍中央部は陰謀数犯の前科者の寄り合ひなり。
今次暗黒裁判の一例、
七月十一日午後新井法務官が安田優に対し
「 北、西田は今度の事件には関係がないんだネ。併し既定方針で殺すんだ 」
と云ひ、
果して去る十月二十二日死刑を求刑されたり。
正法行はれず非理法なる現時を打開して光明世界を求むる為め、
不肖等は天を擁して剱の力を用ひたり。
必ずしも暴力と云ふにあらず。
強き正しき力の結束と其発動により事態を救はざるべからず。
即ち海陸正義派の結束とただしき民論の指導とに期待す。
註
半紙二枚に墨書
森伝宛か