W・G・ゼーバルト、『移民たち』

 『移民たち 四つの長い物語』の感想を少しばかり。

 “記憶とは鈍磨の一種だろうかとたびたび思う。” 157頁

 素晴らしい読み応えだった。ユダヤ人墓地を訪れた語り手の、“なにを考えればよいのかもわからなかった”――という言葉が響いて離れない。その言葉さながら、幾度となく私も途方に暮れながら、めり込んでいくようにとても強く、深い悲哀の色を滲ませた物語たちに惹かれてやまなかった。胸ふたぐ思いをじっと抱きしめたまま、ひたひたと沁みる静かな語り口がもたらす、不思議な心地よさに浸る。いつまでも、浸りたかった。頁を繰る指先から、灰色に染まってしまうくらい。

 それぞれに語り手と何らかの関わりを持つ、4人の男たちの人生を辿る物語。丁寧に記憶を手繰り、大切な場所には直接足を向け、彼らを知る人々を探し出して話を聴き、少しずつピースを集めていく。
 世捨て人のように庭で過ごす、家主の夫ドクター・セルウィン。みずから人生を終わらせた、小学校のときの担任だったパウル。語り手の大叔父、アーデルヴァルト。そして、年の離れた友人である画家のアウラッハ。彼らの物語では、生きている者も死んでいる者も皆同様に、虚ろな闇を抱えてさ迷い続けている。そうしてあまねく、生者は死者へと引き寄せられていってしまうようだ…。行方不明になったベルンの山岳ガイドとともに、雪と氷に埋もれしまったドクター・セルウィンも、まるで己の記憶を憎むような言葉を残したアーデルヴァルトも、不吉な蝶男を待っているうちに、きっといつかうっかり向こう側へと連れていかれてしまうのだろう。

  移民であるという事実が、年を経るほどに重い意味を持ち、どこまでも彼らに付きまとう。消せない望郷の念。だが、戻れる場所などない。そして、戦争と幻滅によって二度も故国を失くした彼らが、移り住んだ新たな場所にも自分が真に受け入れられているわけではない…という苛酷な現実に向き合うとき、彼らの心の中で何かが死んでしまう。そんな不公平な人生があるのか、あっていいのか…と、怖ろしくて気が遠くなった。
 物語の其処彼処に並べられる、写真たちの佇まいも忘れがたい。永遠に刺しとめられた蝶のような、陰影だ。

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10月5日(水)のつぶやき

06:13 from web
おはよーございます。こーしーにゃうです。今朝はだーなさんの出勤が早いので、お弁当はもう作りました。ちょこっと休憩。
06:14 from web (Re: @catscradle80
@catscradle80 @yoshiponyo @seicom 実はこれ、随分前に@hanakochiaさんの日記で知りまして、以来すっかり気に入っています。ただ、バッグの中で外れてしまったこともあるので、移動時は要注意かな。三角の底辺を微妙にずらして作ると、使い易いですよ
06:24 from web
あちゃっ、夫の出勤が早いのは明日だった…。凹〇コテッ
06:51 from web (Re: @shiki_soleil
@shiki_soleil お誕生日おめでとうございます~。素敵な年でありますように☆
16:04 from 読書メーター
【移民たち (ゼーバルト・コレクション)/W・G・ゼーバルト】を読んだ本に追加 →http://t.co/mqVqnDFY #bookmeter
17:15 from web
ゼーバルト・コレクションて、全6冊が出揃う前に第1回配本の「移民たち」が新品では手に入らなくなっちゃったコレクションなのね。ううむ、それって…。とりあえず私は、素早く手頃な価格でまあまあの美本を入手したけれど(にひっ)。

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